第79話~空の師匠~
作者、前話の後味が悪かったので急遽、本日2度目の更新を決行する。
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「え? ……あ!」
烈火さんが遅れて自分の敗北に気付いたようだ。
「俺の勝ち……ですね?」
「やってしまったぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?!?」
烈火さんが叫びながら頭を押さえる。うん、多分綾辻さんにお兄ちゃん呼びされる事を優先してしまい反射的に答えたは良いが、後でその過ちに気付いたようだ。
まぁ、妹にそう呼ばれるのに憧れるのはよ〜く分かる。烈火さんはシスコンだし尚更だ。
「空……V!」
綾辻さんはピースをしながらこちらにあまり表情に変化のないドヤ顔を向けてくる。
う〜ん、ちょっと不完全燃焼だけど……勝てる相手じゃ無かった。あそこでダラダラ続けても負けてただろう。それに翔馬も待たせてるしな。まぁ、途中で止められたのは残念だけど……。
「……はっ! 空君勝ったんですか!?」
琴香さんはあまりの衝撃の決着に少しの間フリーズをしていた。それてもなんとか意識を取り戻した彼女は、慌てて俺に尋ねてくる。
俺も堂々と勝った! なんて言えない勝利の方法だが、烈火さん自身が敗北を認めたような行動をしているので、彼の中でも負けとなっているようだ。つまり俺の勝ち……誇れる内容じゃ無かったけど……。
「まぁ……結果としては、ですが……」
「いや……空君がどれだけできるか結構煽ってみたけど、予想を遥かに超えてたよ?」
烈火さんがそう言ってくる。あ、やっぱり煽ってたんだ……。まぁ、S級の人に等級なんて運だけの才能に負けた、なんて言われてたんだから当然か?
「そんな訳で空君、君には氷花を迎える資格を得た事を俺が承認しよぶべらっ!?」
「殺す……!」
「烈火さぁぁぁぁんっ!?」
なんか勝負に勝った事で何かの合格ラインを達したらしく、烈火さんが俺にその承諾をしようとしたところで、綾辻さんが烈火さんの顎に蹴りを入れた。
「痛いじゃないか氷花。兄貴はお前のためを思ってーー」
「これ以上、恥を重ねない、で……!」
「…………はい」
綾辻さんが強いのか、烈火さんが弱いのか、一体どっちなんだろう……? 多分綾辻家の家系図は女性が強く、男は尻に敷かれてそうなイメージだな!
「はぁ……とりあえず、茶番は、終わり……」
さっきの戦いを茶番って言い切っちゃったよ綾辻さん……。
「兄貴……少しの間、離れてて」
「えぇ!? でも兄貴である俺がお前のそばにいるのは当然でーー」
「ゴミ、って呼んで、良い……?」
「ダメです言う通りにするので失礼します!」
綾辻さんの脅しに烈火さんはなすすべもなく撃沈した。なんか、あれがさっきまで俺を圧倒していた人と同一人物なのか疑わしくなるほどだ。いやそれよりも……。
「琴香さん、すみませんが少しだけ離れてもらえますか? 多分、すぐに終わると思うので」
琴香さんもこの場から離した方が良いな。さっきから綾辻さんチラチラこっち見てたし……あんまり話したくない内容なんだろうか?
「えぇ!? ……むぅ、しょうがないですね! でも、貸し一つですよっ?」
「はい、ありがとうございます。今度どこかにお出かけでもしましょう」
「へっ? ほ、本当ですか? 本当なんですかっ? 約束ですよっ! ふへへ〜、デートですぅ〜!」
ぷく〜っと頬を膨らませて不満げな表情を浮かべる琴香さんだったが、約束を一つ取り付けたことで鮮やかな手のひら返しを見せる。
そのままぴょんぴょんとジャンプしながらだらしない笑顔を浮かべてどこかへと行ってしまった。……デート、かぁ。まさか俺から誘うとは思わなかったけど……まぁ、それぐらいなら良いか。
「目の前で、いちゃつかれた……」
「それについてはごめん。悪気はなかったんだけどね……」
「良い……それよりも、空。約束を、果たす……」
綾辻さんはそう言って俺に近づいてくる。約束……つまりは彼女の近接戦の強さの謎に迫るってことか。それにしてはやけに真剣な表情だ……やはり特別な事情でもあるってことか?
もしそれなら無理に話さなくてもいいとは思うけど……彼女のことだから『約束は、守る……』とか言うだろうな……。
「……私は、7年前に……ある人に、出会った。……それが、
「っ…………そう、なんだ」
綾辻さんの発言に思わず俺は目を見開き、全身を震わせる。それほどの衝撃だった。……なるほど、彼女に感じた違和感。それと彼女が俺に気をかけていた理由を全て理解した。
「
綾辻さんが異常に近接戦闘が強かった理由。それは元々剣術を習っていたS級強化系探索者である江部一香さんに習ったからだったことが判明する。
「そして……空にも、同じ感覚を、覚えた……空、もしかして、あなたは……江部一香さんに、剣を習った……?」
綾辻さんが鋭い視線を向けながら、慎重に俺に尋ねてくる。俺はゆっくりと目を閉じて、心を落ち着かせる。そして、ゆっくりと眼を開いた。
「っ! 空……?」
綾辻さんが少しだけ後ずさる。雰囲気が変わったことに気づいたのだろう。だが、この話をした以上は仕方のないことだ。俺にも止められない……。
「あぁ、習ったことがあるよ。江部一香さんは……俺の、師匠だった人だ」
普段からは絶対に出さない負のオーラを醸し出しながら、あまり感情のこもってない冷徹な声で俺はそう告げた。
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