第75話~支部長を騙して上手く丸め込もう!~

「お待ちしてましたよ篠崎さん、初芝さん。どうぞ座ってください」


「はい、失礼します……」


「ええと……し、失礼します……?」



 入ってすぐ、椅子に座っていた大本さんが立ち上がり俺たちを促す。俺は堂々と座るが、琴香さんは遠慮気味に座り込む。まるで怯えた小動物みたいだ。


 だからこそ俺は堂々としている。琴香さんのようにしていると、まるで後ろめたいことがあるかのように見えるからな。


 それよりこの椅子、ソファーみたいに柔らかいな。結構気持ちいいし、このまま寝れそう……大本さんの前じゃなかったら、だけど。



「さて、単刀直入に聞きましょう。篠崎さん、初芝さん……あなたたち二人は一体どのようにしてその力を手に入れたのですか?」



 大本さんがそう尋ねてきた。やはりそんな曖昧な聞き方をしてきたな。詳細を求めるような聞き方じゃ無いってことは、自分が聞きたいことだけじゃなくて、他のことまで喋らせようとしている。


 

「……それは本当に答えないとダメなんですか?」



 まずは粘ろう。答えないで済むならそれが一番だ。



「……あなたにはS級迷宮の魔導具の違法所持、違法使用の容疑がかけられています。……話して、くれますよね?」



 やっぱり無理ですよね〜。それよりも魔導具の違法使用とかについてはハッタリだな。もしかしたらついさっきまでは掛けられていたかもしれない。


 だが、今回の試験では魔導具の使用を基本的に禁止している。申請すれば使えるから、それを見れば俺が使用していないことは明らかだ。つまりもう魔道具の違法使用などの疑いは無い。



「…………わかり、ました。ですが、俺たちもあんまりよく分からないんですよ」



 俺はそう前置きして話し始める。別に真実を話すつもりじゃ無い。だが、粘った末に法律の疑いで諦めて吐いたことにすれば信憑性が増すからな! 全力で騙させてもらおう!



「俺はS級迷宮の最深部に存在した消耗品の魔導具を使用したんです。その時は怪我を負っていて……回復系はB級からでも稀に出ますよね? それを期待して使ったら……あとは試験でご覧になった通りです」



 俺のこの力は消耗品の魔道具にすると決めていた。エフィーのことだけは死んでも隠し通す。



「そして、琴香さんにも同じようにそれを使いました。この前、藤森って探索者に襲われてその際に成り行きで……」



 時期も合ってる。今のところ問題はないな……。



「……なるほど。発現者の力を増す魔導具……ですか。にわかには信じ難いですが、S級ならあるいは……。では、その魔導具は一体どこに……?」


「……それを聞いてどうするつもりですか?」


「決まっています。探索者組合本部を通して正式に買取をさせてもらいたいのです。それがあれば日本はこの前の悲劇を起こさないで済むのかもしれないのですから!」

 


 大本さんが立ち上がり、凄まじい気迫でまくし立てる。半分我を失っていると言っても過言ではないな。だが、本当にそんな魔導具が存在するならこうなるのも無理はない。それに、悲劇か……。



「残念ですが、もう既に手遅れです」


「なっ、何故ですか!?」


「魔導具は……壊れましたから」


「こわ……れた……?」


「はい。跡形もなく、灰のように……」



 大本さんが膝から崩れ落ちるように力尽き、ソファーに重たくのしかかる。



「……琴香さんに使った際、使用回数の限界だったのかもしれません」


「そう……ですか……」



 う、うわぁ。すっごい落ち込みよう……。なんか可哀想になってきたけどここで折れちゃダメだ。心を鬼にして、この嘘を突き通す。



「……すみません、取り乱してしまいました」


「いえ、無理もないです」



 大本さんがふぅー、と大きく深呼吸をしてから謝罪してきた。ぐっ、どっちかと言えば嘘をついてるのは俺なので心が……!



「では、その魔道具を使ったのは篠崎さんと初芝さんのお二人のみで、北垣さんは無関係と言うことでしょうか?」


「はい。北垣さんにはこのことを話していません。おそらく、運良く再発現が起こったと予想しているはずです」


「それは幸いです」



 幸い……? あぁ、そう言うことか……!



「私は、最初はなんらかの魔道具を使用していると考えていました。ですが試験の結果により二人の再発現を疑い……ここで再発現を起こさせる魔道具の存在を知る……篠崎さんは不思議で、私的ですが話題に事欠きませんね」


「それは……恐縮です。それよりも幸いとは……?」



 多分、あれについてだな……。



「あぁ、説明をし忘れてました……お二人は魔道具による効果ですが、一般的には再発現に当てはまります。ですので……等級の再鑑定を行ってもらおうつもりです」



 やっぱりか。普通、等級は変わらない。しかし使い続ければ火力が上がる時もあり、たま〜にだがワンランク上昇することもあるにはある。


 また、再発現の際も同様に再鑑定を受けて、等級を変更しなければならない。しかし再発現の可能性はS級探索者と同じ確率と言われるほど低い。


 それなのに同時期に3人も再発現が出るなど前代未聞だ。まぁ、2人でも相当なニュースにはなるだろう。だが、俺はこれを受けるわけにはいかない。だから……。



「残念ですが、今は辞退させていただきます」


「はい……? えっと、何故ですか?」



 今度の大本さんは理解できないと言ったまで見てくる。先ほどの「何故ですか!?」よりは驚きは少ないようだな。



「大本さんは魔道具の効果を再発現を起こさせると思っていますが、厳密には違います……。今もなお、俺たちの力は少しずつ高まっているんです」


「っ!? それってつまり……!」


「えぇ、成長しています。今も、これからも……」



 力がこれからも強くなることはバラした。これで契約を上書きして力が上がっても変に疑われることはない。琴香さんはもう契約によって強くなることはないらしいが、体質の差とでもいえば誤魔化せるだろう。



「ば、馬鹿な……!? 発現者の力を持続的に伸ばす魔導具が存在したと!? …………その成長は、どの程度続くものか分かりますか?」


「……琴香さんについては、ほぼ止まっています。ですが自分はまだ……。どこまでかは予想がつきません。ですので、俺はまだ等級の再鑑定に行くことはやめておきたいんです。マスコミなどに下手に騒ぎを起こされても困るので……」


「なる、ほど……普通に考えれば再発現の再発現……再発現が何度も起こったように見える。……い、異常すぎますね。確かにそれならば、F級の篠崎さんが一気にB級やA級……もしかするとS級に再発現をしたとなった方があり得なさではまだマシ……」



 大本さんは先ほどから驚きの連続で胃がキリキリしてるような表情で、俺の考えを理解し納得させていく。



「お願いします大本さん。俺は等級の再鑑定を受けないようにしたいんです。自分で力の伸びが止まったと思ったら受けます。……お願いできませんか?」


「っ……その言い方だと、琴香さんは受けると言うことですか?」



 大本さんが思い出したかのように琴香さんに話しかける。色々衝撃がありすぎてそこまで気が回ってなかったが、話が終幕へと近づいたことで余裕ができたのだろう……。



「はい! 私は受けますよ!」


「…………分かり、ました。初芝さんについては等級の再鑑定を受けてもらいます。篠崎さんについては初芝さんと時間を空けてから、後に受けてもらいます。……はぁ、まぁ2人同時に再発現が起こったと思われるよりはマシ……ですかね」



 よし、うまく丸めこめた。俺が話したくないことを話させたと思わせる事で、自分が優位に立っていると油断させ、そこからの濃密な情報量で動揺を誘い余裕を無くさせる。


 そこに簡単な道を用意する事で大本さんは俺の思う通りに思考を誘導できた。俺がこの出来事に一番関係していたからこそできた作戦だな。


 こうして話し合いは俺たちの勝利に終わった。……よく考えれば勝利って言うかまず勝負していたか? って話になるけど細かいことは気にすんな!



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※ここまで読んでくださりありがとうございます! そこで突然ですが、一つの質問を取りたいと思います。


 読者様はエルフか獣人のどっちが好きですか?


 です。個々人の想像するエルフと獣人で良いので、コメントで答えてくれると嬉しいです。その結果で今後の展開が……。というわけで、出来ればよろしくお願いします!


 期限は一週間以内を予定してます。まぁ一件二件だったり、もしも来なかったりした場合はその場の気分で決めますので、無理にとは言いませんが!

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