第71話~合格発表~

「今からこちらの大画面プロジェクターに合格者の名前が五十音順で映り出される」



 諸星もろぼし社長が少し疲れたような顔でそんな説明をする。翔馬の話だと試験の観戦にすら来なかったらしい。何かあったんだろうな……。


 そんな事を考えながらも、俺は実のところ緊張していた。高校受験の時よりも緊張しているな……。そして、合格者たちの名前が現れる。



「あった」



 一番最初に呟いたのは綾辻さんだ。名前的にもあ行で最初。普通なら見るのも怖そうだが、彼女は心配無用だ。そして、次が一番心配だ……。



「あ、あった……。篠崎君、あったよ!」



 柄にも無く喜びを見せたのは北垣さんだ。彼は唯一の純正D級探索者。北垣さんが受かるかどうかが一番の心配だったけど、どうやら杞憂だったようだ。



「あ、俺もありました」



 さらに見ていくと俺の名前も無事発見する。F級探索者って肩書きで落ちる可能性も考えていたが、やはり綾辻さんと戦ったことが大きいのだろう。



「ああ、ありましたっ! 空君! 私の名前もありましたよっ!」



 琴香さんも無事合格のようだ。琴香さんが活躍できるような場面をあまり作れなかったから心配していたが、どうやら杞憂だったようだな!



「最上のおっさんは?」


「はっ、当然あるに決まってんだろうがよ! あとおっさんて呼ぶな! 俺はまだ27歳だ!」



 最上のおっさんが当然と言った口調で答え、不明だった年齢まで発覚することになった。よしよし、これで知り合い全員が合格してるぞ! あとは手続きさえ終わらせれば、晴れて諸星組合所属の探索者となる。



「うわ、落ちた……。まぁ、S級の妹でA級なら受かって当然だよな」



 突然、あまり気持ちの良くない言葉を綾辻さん自身に聞こえるように言い放つ奴が現れた。見た目は俺よりも幼く見える。多分、俺と同い年……。そいつは自分が落ちた腹いせに、等級の一番高い綾辻さんを避難するような姿勢を見せる。



「……」



 綾辻さんは何も言わない。……多分、言われ慣れてるんだろう。だって、綾辻さん諦めたような顔をしているんだから。


 でも、俺は知っている。どれだけ才能があろうとも、それは伸ばそうとしなければ決して伸びない事を。


 彼女にはA級と認められる魔力を持っているが、それを扱う技量。B級程度の実力を持つスピード系の俺の攻撃にすら、彼女は対応した。並の魔法系ではそんなこと、考えすらしないだろう。



「おい、今綾辻さんのことを侮辱したやつ。ふざけるなよ」


「なっ、なんだよ!」



 まさか反論が、しかも別の人から現れるなんて思いもしなかったのだろう。動揺を見せつつ、条件反射のようにそんな反応を見せた。

 


「綾辻さんは才能だけじゃ無い。彼女自身の努力を才能だけで片付けるような考え方をしてる時点で、あんたが受かる可能性なんて0に等しいことに気づいたらどうだ?」


「ぐっ……そんなもん知るかよ! A級だぞ!? 才能だけで吹き飛ばされるわ!」



 向こうも収集がつかない勢いで喚き散らす。だが、確かに綾辻さんの才能は圧倒的だろう。等級に差があればそう言うこともある。俺だって藤森にボコボコにされた……。


 でもそんな事、生まれて5年ぐらいでみんなが理解してるだろ? 俺より足が速い。俺より頭が良い。俺より顔が良い。


 はっ、そんな当たり前のことを言っていて何になる? 才能なんて人それぞれだ。だから俺たち才能がない者は、才能がある者の倍、努力をすれば良い。足りないなら3倍、4倍する……それが人間だ。


 才能が全てと決めつけ、心を折って諦めるような奴らが、綾辻さんの努力も知らずに勝手に決めつけてんじゃねぇぞ! だから俺はこう言う。これが今のあんたに一番効く言葉だからな。



「はっ、才能? なら教えてやるよ! 俺はF級探索者、篠崎空! さっき合格者一覧に名前を連ねたぜ?」



 その言葉で、会場がざわつく。当然だろう。まずここにいること自体がおかしい等級なのだから。それに本当の力はもっと上だ。


 しかも、エフィーの精霊の力を借りただけ。……それでも、俺は綾辻さんの努力を全て才能だけで片付けられることが許せなかった。


 できて当然。できなきゃ罵詈雑言の嵐。……俺は、そんな扱いを受けてきた人を知ってる。その人も大きな重圧に耐えながら生活をしていたな。


 ……いや、今はそんなこと関係ないか。俺は、才能が強さを占めているのも知っている。でも、努力が身を結ぶことも知っているんだ。


 綾辻さんに失礼な事を呟いた奴も、俺の言葉を聞いて押し黙った。そりゃそうだろう。自分よりも等級の低い者が受かり、自分は落ちているのだから……。



「空……私は、大丈夫。だから……怒らないで?」



 ふと綾辻さんが俺の袖を引っ張り、不安げな瞳をこちらに向けてくる。



「あ……ごめん、綾辻さん。勝手に色々言っちゃって……」



 俺はふと我に帰り、綾辻さんに謝った。……はぁ、なんであんな感情的になっちゃったんだろ……。



「良い……私のこと、思ってくれたって、分かってるから……」



 綾辻さんが首をフルフルと横に振り、何事もないように気丈に振る舞ってくれる。



「ありがとう。……それと……」



 綾辻さんにお礼を告げ、改めてそいつの方へと振り返る。



「……才能は大事だ。それに努力が身を結ばないこともある……。それでも才能が妬ましい、悔しいって感情が出たってことは、君は努力したんだと思う……。それを才能って一言で、自分のやってきたことまで否定するのはやめてほしい……」



 俺は最後にそう告げて、その場から立ち去った。……はぁ、なんか気分が沈んだ。空気も重たいし……。


 その後、不合格者たちが会場から消え去り、合格者たちだけになった会場は、静かさに包まれがらんとした様子を見せていた。

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