第70話~思案~

 うん、間違いなく大本さんだ。なんで翔馬たちと一緒にいるんだ? いや、それよりも……まずいぞ……。


 ここなら大本さんいないから大丈夫! バレても企業に所属したら守ってもらえそうだから発揮しても良いやって考えだったのに、こんなのってあんまりだぁぁ!!!


 待て待て、落ち着け俺。まだバレていない可能性もある……うん、そうに違いない! そう信じよう!



「あ、空! お待たせ!」


「主人、何故こんなにも人が増えておるのじゃ?」



 翔馬とエフィーが先に近づいてきて、俺の近くにいる面子を見て驚いた様子を見せる。まぁ、キャラの濃い人が2人も増えてんだから無理もない。



「あ、あと……ひゃあっ!?」



 突然エフィーの驚きの声が響く。



「空、この子、何? ……可愛い! 欲しい! ……いくら?」



 綾辻さんがエフィーを後ろからギュッと抱きしめて尋ねてくる。俺が見た中で一番感情が表に出てきてる。あと、エフィーは非売品です。


 と言うか、これ似たような展開が琴香さんの時もあった気がする。やはりエフィーのアホみたいなのに絶世の美少女っぷりの可愛さは隠し切れないんだろう。



「うちで預かってる子供です。ささ、返してください」


「…………私、年俸の半分を、毎年あげる。……ダメ?」


「ダメです」


「むぅ……」



 綾辻さんは粘っていたが、やがてエフィーが怒って泣く泣く諦めた……と思いたい。


 とりあえず全員が揃ったところで、改めて一人一人の名前を教えていく。全員で7人となり、少し手狭になったので席を移動する。



「主人よ、結果はどうだったのじゃ?」



 エフィーが俺の膝の上に座りながら尋ねてくる。お前、関係者である翔馬と一緒にいたのに知らないのか……?



「僕たちは選考から追い出されたんだ。でも、空の印象は悪くないどころか最高だったと思うよ」



 翔馬が嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべながら話してくる。



「おい篠崎。諸星って苗字だったし、この人は関係者ってことか?」


「その通りだよ。聞いての通り、選考には関わってないけど」



 最上のおっさんの質問に答える。



「それで……なんで大本さんと一緒にいるの?」



 俺はこっそり翔馬の耳に口を近づけてヒソヒソと尋ねる。



「新しくできる組合の視察だって。空とも知り合いらしいじゃん。大本さんも空の戦いっぷりを見てたけど、すっごく驚いてたよ」



 …………え? 見ら、れてた……だと?



「すみません、ちょっと席外します。翔馬、ちょっと来てくれ」


「え? うん……」



 俺は翔馬を連れて、人通りの少ない場所に移動する。



「……翔馬。俺の実力を見て、どう思った? それに、他の人はなんて……?」



 恐る恐る翔馬に問いかけると、目をキラキラと輝かせて語り出した。試験で受けた組合……おそらく諸星組合もろぼしくみあいと呼ばれることになるだろう組合のマスター、栄咲大地さかえざきだいちさんと言うA級探索者の人が褒めていたらしい。


 そこまでは良かった。だが、さらに大本さんもその場で見ていたらしい。大本さんは俺を再発現だと予想し、栄咲さんも同様の意見だそうだ。


 翔馬は俺の等級がほぼ確実に上がり、試験も合格間違いなしと聞かされ喜んでいた。だが、俺はそんな気分にはなれない。


 ここで等級が変わってしまえば、さらに契約を上書きした際にまた等級を上げることになる。再発現の再発現だ。変に疑われることは間違いない……。


 本当なら諸星組合でS級となるまで力を外部に隠し、その後に等級審査を受けるつもりだった。だが、それを探索者組合の人に見られた……。



「教えてくれてサンキュー翔馬」


「そんなこと気にすんなよ。こっちだってお前を誘って良かったって思ったぜ? あと、合格は確定じゃねぇからな? そこんとこ気をつけろよ?」



 翔馬の立場上、確定にすることはできないからそう言うしかないだろう……。



「分かってるさ……。それと、大本さんがこっちに来たのは俺が理由なんだよな?」


「うん、そうだよ。あ、あと……」



 ん? 翔馬の歯切れが悪い。あと……? 俺の等級について以外にも、他の何かがあるのか?



「あと、なんだ?」


「初芝さんも、なんだけど……」


「……は?」



 琴香さんも……?



「どう言うことだ?」


「彼女も空と同じ、再発現の疑いがある……って」



 ……なるほど、琴香さんは癒しの精霊として蘇っている。回復力に変化が起きたと聞いていたが、他にも身体能力とかにも変化でもあって、それらでバレた……。


 なら、大本さんは怪しんでいるな。諸星組合のA級探索者のマスターの人は偶然、奇跡で済ませる可能性が高い。


 でも大本さんは俺がS級迷宮に潜ったことを知っている。その上で親しい2人の探索者がほぼ同じ時期に再発現。……話しかけてこなかったのは、その辺りも関係しているのかな?



「ともかく、2人が受かる可能性が高いってことは良いことだよね? 本当、誘って良かったよ!」


「うん、こっちこそありがとう。そろそろ戻ろっか」



 翔馬にそう告げて、俺たちはみんなの元へと戻っていった。そして、試験に合格した人たちの名前が発表された。

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