第55話~三大組合~

 あれから3日が経った。11月にもなり、本格的に肌寒く、季節は冬へと移行し始める時期だろう。


 そして本日、二つのビッグニュースが舞い込んできた。一つ目はテレビから。こちらは存在自体は知っていたが……。



『本日、日本が世界に誇る大企業の諸星もろぼし社が、自社で独自の組合を設立する声明を発表しました』



 一企業が運営する組合というニュースが公的に発表された。また、本日から組合に入るために必要な試験の受付も開始された。


 試験を受けられる人数は最大で300名。確実にこれ以上の人数が殺到するだろうが、それは等級の低い人から弾き出されるだろう。F級の俺、翔馬しょうまから直接招待されるってすげー特別待遇だな。


 また、合格者の人数は発表されていない。こちらは有望な人だけを撮りたいという意思だろうな。



『そして組合のリーダーにはなんと、三大大型組合の一つから引き抜かれたA級探索者を据えるとのこと。集まる人選によっては四大大型組合と呼ばれる可能性もありますね。今後の活躍が期待されます』



 聞いていた以上の情報は出なかったな。さて、それじゃあ今回のメインのビッグニュースを紹介しよう。なんと本日、S級迷宮(仮)で採掘をした魔石の金額が提示されました! パチパチ〜!



「え〜と……一、十百千万、十万……百万…………い、一千、万…………い、いい、一、億……?」



 気楽に振り込まれる桁を数えていると、なんか0の数がバグってるんだけど?



「ご、合計……一億五千八百万……円……?」



 …………は? なにこれ? ……S級迷宮パネぇぇぇぇぇっっっ!!!


 そうそう、改めて考えてあの金額全てが貰えるわけではない。税金で半分ぐらい持っていかれる。おのれ税務署! ちくしょぉっ!


 でも、水葉みずはを助けるために必要な薬を買うための目標金額には大幅に近づいた。確か大体5億円必要だけど、5分の1ぐらい稼げた……。


 俺は水葉を起こす希望の見えなかった世界に差した一筋の光を掴み始めた事を悟った。



***



「ふむ、そろそろ篠崎さんの元に魔石の金額が送金された所ですね」



 探索者組合近畿支部支部長たんさくしゃくみあいきんきしぶしぶちょうの私は、普通では目にしない凄まじい金額を目にしてそう呟いた。


 彼の採掘した魔石はとてつもない値段がついた。組合は3割を貰っているが、それでも結構な額だ。組合の本部からもお褒めのメールを頂いていた。


 それよりも……彼はこの宝くじを当てたような莫大なお金をいったいなにに使うつもりなのだろうか? やはり魔法石を使った武器や防具などだろうか?



「支部長、お話があります」


「入れ……どうした?」



 私は部屋に入ってきた秘書の一人に尋ねる。



「諸星社の新たな組合についてです。我々探索者組合からも一人、監視役を送ってほしいとのことです。差し当たって本部からは、支部長に組合に入るための試験の監督をしてほしいとのことです」



 なるほど、諸星社がどんな事をやるのか、どのような人材を手に入れるのかを先に私に行ってきて欲しい……と。



「……面倒だ。だが、興味もある。……了解したと、向こうに伝えてくれ」


「かしこまりました」



 ふぅ……。今回できる組合が日本にどのような結果をもたらすのか、非常に楽しみだ。


もしかするとマスコミが言うように、いずれは再び四大組合と呼ばれる可能性も否定はできない。そしてその時、組合のパワーバランスは一気に変化するだろう。


 三大組合……中部、近畿地方を主に任される愛知県名古屋市の蒼龍そうりゅう組合。

 東北、北海道地方を主に任される宮城県仙台市の玄武げんぶ組合。

 四国、中国、九州地方を主に任される熊本県熊本市の朱雀すざく組合。


 この組合が一人ずつS級探索者を有している。そして関東地方を主に担当し、東京に本部を構える探索者組合もまた、本部長がS級探索者だ。


 だが、今回できる新しい組合は大阪にある。つまり近畿地方を管理する蒼龍組合と、四国、中国地方を管理する朱雀組合との摩擦が生じる可能性が高い……。



「はぁ……」



 私は小さくため息をつき、『あれこれ考えても仕方がない。今は目の前にあるやるべきことを』と呟きながら、新しくできる組合の試験観戦を理由に現実から目を背けた。

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