第56話~北垣さんとの再会~

 そして翔馬が訪れてから一週間が経ち、俺と琴香ことかさんは案内された試験会場へと電車で移動していた。



「空君空君、私てっきり試験って屋内だと思ってた!」



 琴香さんが試験会場の案内が書かれた紙を見ながらそんな感想を呟く。



「より実践的にしたいんだろうね。それに企業だからこんな風にできるんだろうし」



 俺はそう返し、改めて紙の内容を見つめる。……試験会場は、翔馬の親が運営する企業の私有地。ある程度の動物も避難させた山の中だ。


 いや本当に、さすがとしか言いようがないぞ。山一つを試験場に使うなんてよく考えたな。そんなの普通思いつきもしねぇのに……。



「主人よ、やはり我も一緒にいたいのじゃ!」


「エフィー、一応公共の場だから主人呼びはやめてほしいかな」



 今の会話からわかると思うが、今回はエフィーも連れてきている。主に翔馬のせいだ。迷宮に行っている時にエフィーをどうしているのかと聞かれ、お留守番と言ってしまった。


 さすがに迷宮に連れて行ってると本当のことを言うわけにはいかないだろう。それを聞いて翔馬は多少俺に怒りつつ、今回は自分が面倒を見るから連れてこいと命令を受けてしまった訳だ。



「あ、もうすぐ着くそうです!」



 琴香さんの言葉で電車から降り、徒歩で目的地へと向かう。……うん、降りる人の3人に1人が探索者だ。めっちゃ緊張するんだけど……?


 謎の緊張を催しながらも、俺と琴香さんは無事会場へと辿り着いた。



「おはようそら、エフィーちゃん、初芝はつしばさん」


「あぁ、おはよう」

「うむ! おはようなのじゃ!」

「おはようございます、翔馬さん!」



 着いて早々に現れた翔馬と挨拶を交わす。



「エフィーちゃん、今日はよろしくね?」


「うむ、ちゃんとお菓子は用意しておるのかの?」



 少しばかり遠慮を覚えろよ元なんちゃら王。



「うん、色々用意してあるからね」


「はっは〜! 今から楽しみじゃ!」



 用意してあるのかよ……。



「僕はドローンを使ったモニター越しにしか見れないけど、2人とも頑張ってね!」



 翔馬たち主催者側の人間は、別室でのドローン中継で見届けるらしい。



「おう! 俺が勝てるかは分からんけど頑張る!」


「私も、空君のサポートが出来るように頑張ります!」


「あはは、試験内容はまだ発表されてないけどね」


「あぁ、そうでしたっ!」



 琴香さんが思わず頭を押さえるポーズを取る。絶対に普通に俺と組むって考えたたらしい。でも、他の人と組む場合ってやっぱ緊張するよな。


 一番は琴香さんと対戦になった時だけど……能力的にそれはないかっ!



「し、篠崎君じゃないか!?」



 翔馬、エフィーと別れを済ませた直後、北垣(きたがき)さんが俺を見つけて驚いていた。いや俺もそうだけど……。



「北垣さん! もしかして北垣さんも試験を受けに?」


「あぁ、初芝君もそのようだね。……しかし、等級だけはF級の篠崎君も300人の中に選ばれるなんて……そんなに申し込みが少なかったのか?」



 あ、もうこの人俺のこと、等級詐称してる人認識なんだな。いや、別に問題はないけど……。



「いえ、俺と琴香さんはちょっとしたコネですね。無論、きちんと活躍するつもりですけど」


「はは、篠崎君ならきっとできるだろうね。でも……見せるのかい?」



 北垣さんが俺の実力をこの場で発揮するのか? と尋ねてきた。もちろん……


「はい。色々考えた結果、そうしようかと」



 はいだ。あのまま探索者組合にいればレベルアップの望みは薄い。こちらなら企業秘密って形で他の所に実力がバレることはないだろうし、最悪翔馬のコネを使えるだろう……。


 いや、本当に使うつもりはないよ? だってあいつとは親友だもん。でも……保険っているじゃん。俺はエフィーと共に行動をしている。彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかないしな。



「なるほど。なら、試験で君を見つけたら真っ先に逃げることにするよ」


「あはは、やばくない限り積極的に倒そうとはしませんよ」



 手を抜くとか、そう思われるかもしれないけど、北垣さんには恩がある。それにわざわざ知り合いを倒そうとする必要性がないしな。



「あ、向こうに席がありますね。立ちっぱなしもなんですし、座りましょう!」



 琴香さんの意見に賛成して、俺たちは席に座る。そしてしばらくの間、談笑を楽しんだ。

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