第52話~翔馬は良いやつだよな!~

「あ、では私も受けます!」



 琴香さんが律儀に手をあげて発言する。



「え? でもこれ平日だから、琴香さん学校は?」


「私大人ですよっ!?」


「……ぷふっ」



 なんと、翔馬は琴香さんのことを高校一年生ぐらいだと勘違いしていたらしい。無理もないが、きちんと謝っていた。


 第一、探索者になるのは19歳からなんだが、翔馬は知らなかったらしい。調べなきゃ分からないしね。あと琴香さんの見た目で勘違いするのも納得。


 そんなこともあったが、翔馬が提案してきた試験は2人で受けることになった。それ用の願書は住所を教えたので、後で送られてくるらしい。



「おっけー、試験は今から一週間後だから、それまでは調整しといて。あ、初芝さんもお願いしますね」



 翔馬から告げられる日時に俺と琴香さんが首を縦に振る。



「そうだ、試験の内容ってどんな感じか分かるか?」


「いや、さすがに僕にも秘密にされているよ。多分、僕のお父さんかマスターしか知らされてないと思う」



 対策を立てることもできるかなと考えたが、それは残念。普通に要請とか稀に推薦されるゲートが来るのを待つしかないな。



「あ、今の話だと、もう組合のマスター自体は決まってる感じ?」


「そうだね。大型組合の方から、一応A級探索者さんを連れてきたらしいよ」



 すごっ!? A級ってだけでもすごいのに、そんな有望な探索者を引き抜いてくるとかやばいな。


 普通、こう言ったマスターは等級だけ高くてもだめなんだよな。ちゃんとした経験も積んでおかないと。


 ちなみにマスターって言うのは自分たちで作る組合のリーダーのことを指してる。つまり翔馬の親が経営する組合のリーダーは、もう既に設定済みってことだ。



「でもまぁ、ちゃんと系統別には分けてあるだろうから、あんまり気にすることはないと思うよ」



 翔馬が琴香さんを気遣うように補足する。おそらくアタッカーとサポーターで別れるだろう。アタッカーのうち、魔法系だけは分けられると思うが。


 だが、評価項目が違うからと言って、やる内容も違うとか考えづらいな。おそらく探索者の経験がない翔馬はトーナメントなどの個人戦を想定しているだろうが……多分、チーム戦とかになると思う。


 合否を判定するのは主に企業の人たちだろう。つまり強さだけでなく、見た目や協調性なども求められる可能性が高い。ただでさえ迷宮ではチームプレイが重要なんだ。そこを見逃すとは思えない。


 以上を踏まえて自分なりに簡単に考えてみた結果、10人1組で団体戦と予想。内容は……サバイバル形式での生き残り戦とかか?


 詳しく考えてみると、場所は円形。徐々に狭くなるエリア内での倒し合い。常に周りを警戒しながらだし、実戦にも近い。


 それをドローン、カメラなどでリアルタイム中継しながら別室で観戦とかされるんだろうな……。



「あ、僕大学もそろそろあるからもう行くよ」



 翔馬が時計の針を見て立ち上がる。



「お、そうか。引き止めて悪かったな」


「そんなことないよ。初芝さんもまたね」


「はいっ、今度会えるとしたら試験会場ですかね〜?」


「うん、僕も2人を見学しに行くつもりだよ。ちゃんと応援もするしね」


「おぉ! ありがとうございますっ!」



 ま、マジか……。なんか今から緊張してきたぞ……?



「あ、エフィーちゃんもまたね。ちゃんと空の言うことを聞くんだよ?」


「うむ! それと、またおいしいハンバーグの具材を持ってきてくれると助かるのじゃ!」


「あはははっ、了解っと」



 そんな会話をしながら翔馬は部屋を出た。俺は見送りで外にまでついていく。



「なぁ空、一つ聞きたいことがあったんだけど、良い?」


「なんだ?」



 翔馬のその態度が、少しだけいつもより格好良く見えるな。それよりも質問はなんだ? 実は琴香さんに一目惚れして、俺が好きかどうかを聞きたいとか? いやさすがに無いよな?



「なんか、空って前と雰囲気変わったよな? 口調も僕だったのに、俺になってるし……なにかあった時言えよ?」



 ……10秒前の俺を殴りたい! 翔馬めっちゃ良いやつ! クソゲスいこと考えてた俺のバカっ!



「……そうだね。迷宮で色々あったし……。口調は……ケジメみたいなもの、なのかな? 強くなってやるって、そんな意気込み。あ、でもちゃんと解決もしたし、心配するようなことじゃ無いよ? だから……うん、大丈夫」



 にこりと微笑みながら、俺は翔馬にそう告げる。



「……そうか。なら良かった。じゃあまたな!」


「おう!」



 そんな挨拶をして、翔馬は去っていった。さて、エフィーと琴香さんの元に戻るか……いや待て、エフィーはともかく琴香さんってなんで今もうちにいるんだ!?


 ……まぁ、良いか。今はそっちの方が都合が良いし……。俺はそう考えて部屋に戻る。



「琴香さん、一つ相談があるんだ」


「ふぇ? ……なんですか?」



 めっちゃ自分の部屋のようにくつろいでいた琴香さんに俺はそう告げる。雰囲気で察したのか、正座までする。



「琴香さん、これはお願いなんだけど……その、俺と契約してくれないかな?」



 俺は彼女にそう切り出した。

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