第42話~蘇生~
初芝さんをエフィーと同じ精霊にする……だと? エフィーはそれができると?
「主人よ、どうするのじゃ? 初芝を精霊とするのか? しないのか?」
エフィーの鋭い眼光に、俺は蛇に睨まれたような錯覚に陥る。……精霊として生き返ったとして、初芝さんは喜ぶのか?
そこが一番心配だ。生き返ること自体は喜ぶはずだろう。なんせ俺を庇って、あんな最後を迎えたんだ。俺だってまだまだ生きていたいと望む。でも……精霊としてかどうかは……分からない。
…………あぁもう! ごちゃごちゃ考えてても仕方がない! 決めた!
「エフィー、頼む! 初芝さんを生き返らせてくれ。……そのあと初芝さんと話をして、それでも死んだままが良いと答えられたら、また殺してあげてくれ。優しく、痛みの無いように……できる、か?」
なんて都合の良い話だろう。自分で言っていても引くレベルだ。しかも、エフィーに人殺し……いや、精霊殺しをさせるかもしれないのに……。
「落ち込むな主人よ! たとえ初芝が断ったとしても、我はそうすることに悲しみはないのじゃ。だからもっとシャキッとするのじゃ! そんな顔じゃ初芝のやつに笑われるぞ?」
エフィーはニパッと歯を見せて笑顔をこちらに向ける。
「…………エフィー、お前最高。かわいい! 愛してる! 抱きしめて良いよね?」
「ってもうすでに抱きしめておるでは無いか!」
はぁ、こうしてるだけで癒される〜。かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい〜〜〜っ!!!
「……ふふっ、まぁ悪い気はせんぞ? 存分に堪能するがーー」
「よし、初芝さんを生き返らせよう!」
「うぉーい!?」
エフィーがノリノリにツッコんでくるけど一体どうしたんだ?
「まぁ良いのじゃ。では、やるぞ?」
「(コクン)」
エフィーの目配せに首を縦に振る。頬を軽く赤くして照れた様子のエフィーが軽く口元を緩めるのが見えた。
エフィーが小さな手をゆっくりと初芝さんの遺体上にかざす。すると色鮮やかな魔法陣が僕たちを包み込む。
白っぽい……でも薄い水色といっても良いかもしれない色が、イルミネーションのように光り輝く。辺りをフワフワと何かが飛び回る。
これは……魔力か? 魔法を使えない俺にも見えるほど濃密な魔力だ。可視化された魔力が次第に初芝さんを包み込む。
「汝、癒しの精霊よ。その身を焦がすほどの熱量の思いを糧にし我、精霊王エフィタルシュタインの名において顕現せよ!」
目を開けるのも難しいぐらいに魔力が眩しく光る。魔法陣の発光が俺たちを包み込み、世界が光に包まれる。
「エフィー、成功したのか?」
うっすらと目を開けながら尋ねる。まだはっきりとは見えないが、初芝さんの傷は塞がっていた。
「うむ……成功、じゃ」
エフィーがフラフラと左右に揺れ、俺の胸に倒れる。……おつかれ、エフィー。ありがとうな。
エフィーのサラサラとした白銀の髪と頭を撫でて、俺は心の中でお礼を告げた。エフィーは気を失ったように眠りにつき、妖精の姿となった。
今日一番の功績者を優しく胸ポケットに入れ、改めて未だ目を閉じている初芝さんに意識を向ける。
「は、初芝さん……?」
恐る恐る呼びかける。
「……んっ。……しの、ざきさん……?」
微かな吐息を漏らし、うっすらと目を開ける。その小さな瞳に俺を捉え、名前を呼んだ。
「うん、そうだよ」
目尻から溢れそうな涙を堪え、俺は涙声で答える。
「なら、ここは天国? ……それじゃあ、遠慮しないで良いですよね?」
「は、初芝さん? 一体何を言って……んぅっ!?」
名前を呼んた次の瞬間、彼女は俺もびっくりの速さで俺の唇を奪った。
驚く俺の顔を強引に引っ張り、頬に回された初芝さんの両手。そして柔らかな唇。温かい……。
「……ぷはっ。……えへへっ、幻想とはいえ篠崎さんとキスしちゃいましたっ。えへへへ〜♪」
…………はっ! 思考が止まってた!? き、キキキキ、キスされた!? なんで!?
「う〜ん、それにしても……私の幻想だと分かっていても感覚はリアルなんですね〜。最高じゃないですかっ! い、いずれはあんなことやこんなことも……」
……お、落ち着け俺! そうだ、初芝さんの発言から理由を探し出そう! 俺は一応告白されてた……はず!
つまり、初芝さんは俺を天国で見れる幻影だと勘違いしてやりたい放題してるってことだ!
「あの、初芝さん……?」
「ふぇ? 幻想なのに勝手に喋ってる……? リアルですねぇ。なんですか篠崎さん?」
やばい、これリアルですって言ったら初芝さん恥ずか死するんじゃないか? 逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!
「あ〜、生きてますよ?」
「はい?」
「初芝さんは死んでません。生きてます。……俺も本物です」
初芝さんの目が点になり、ゆっくりと手を自分の頬へと伸ばす。そのまま思いっきりギュッと摘んだ。
「……いたいれふ」
「そりゃ、そうですよ」
初芝さんが頬をつねった痛みで目の焦点が俺の顔に合っていく。そして徐々に赤くなる頬。つねったからではないだろう。
「いやぁぁぁぁぁっ!?!?!? うそっ? うそっ!? 嘘ですよねっ? 嘘だと言ってください〜〜っ!!!」
「…………」
「も、もういっそ殺してください……っ」
いや殺さないけど!? 恥ずかしさでそうなるのは分かるけど、今は冗談でも言っちゃいけないよっ!?
「ううんっ……とりあえず初芝さん」
「な、なんでふか〜? ど、どうせからかうんですよねっ? こんな誤爆した私の醜態を笑うんですよねっ?」
あぁ、照れた顔つきから壊れたロボットのような顔つきになっていった。……もう、ひどいの一言に尽きるほどだ。
「いや、そんなこと言わないですよ。…………生き返って良かったです、初芝さん……生きててくれて、ありがとうございます!」
俺はついに溢れ出た涙と共にその言葉を告げた。
「……はいっ!」
初芝さんがニパッと笑顔を浮かべる。……エフィー、多分今日が俺の将来で一番契約して良かったと思える日だと思うよ。
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