第38話~復讐開始~
今の僕には特に特化した能力はない。あるのは元々F級だった頃からぐんと上がった身体能力だけだ。
でも裏を返せば……パワー系、スピード系の人よりも耐久力はあるしパワー系、タンク系の人よりも速いしスピード系、タンク系の人よりも力がある。
こんな僕と同じタイプの人を、僕は1人だけ知っている。と言っても一般人でも知っているような人だけど。
日本で現在4人しかいないS級探索者の1人だ。彼は特に特出する能力もなく、高い身体能力だけを持っていた。それで人々は彼のことを敬意を持ち……万能系と、そう呼ぶ。
全ての能力で尖った部分はないが、全ての能力において頂点に近い存在。彼を僕と同じように比べるつもりはない。そんなことはおこがましい。
でも……僕の憧れの人に、もし追いつけるかもしれないなら……!
なんて考えていた時期もあった。でも今はそうは思わない。初芝さんの仇である藤森を殺すために必要な力……。
それなら欲しい力はもう、決まっている。魔法系はスピード系に弱い。だからこそ藤森も、スピード系探索者の人を一番消耗させる戦い方を展開していた。
俺が取るべきはスピード系だ。藤森を殺すためなら死んでも良い! 力を……寄越せっ!
……って、違う! 死んじゃダメだ。俺は初芝さんに言われたんだ。「生きてください」と。……頼む、奇跡でもなんでも良い! 俺に藤森を殺す力を! ここから生き延びる力を!
***
「っ!」
俺は意識を取り戻すとすぐに倒れていた体を起こし、あたりを確認をした。先程の出来事から何秒、何分経ったんだ?
依然として北垣さんはパワー系の人と戦っているのが見えた。それでも俺たちの先程までの光景を見ていたのだろう。
瞳の下からは涙の跡も見えたし、俺が立ち上がったのを見て安堵した表情を見せていた。……あれ、俺こんな視力良かったっけ? ……なるほど、これも契約を更新した効果か。
「篠崎ぃ! お前のせいで、私の腕がぁ! ぶっ殺してやるっ!」
そんな発言が聞こえた方へと振り返ると、C級タンク系探索者の人がポーションでも持っていたのだろう。藤森の腕がほぼ綺麗にくっついていた。
動かすことは出来ていなかったから戦力ダウンはしているようだ。……それがあれば、初芝さんも死ななかったんじゃないか?
静かに研ぎ澄まされた怒り。それがブワッと生暖かい風が吹くような感じで俺から発せられる。
「殺す? ……藤森、それは俺のセリフだ。……お前ら全員ぶっ殺してやるっ!」
そう叫ぶと同時に地を蹴る。
「っ! どこに!?」
あまりの速さに藤森は俺を見失ったようだ。なるほど、お互いの実力差は分かった。そして後ろのタンク系、お前は俺がどこに移動したか見えていたな。お前を藤森より先に殺してやる。
「藤森さん、向こうです」
「なっ! 馬鹿なっ! 一瞬でこの距離を移動しただと!? あいつは、篠崎はF級だぞ!?」
おいおい、ついにさん付けも無くなったな。まぁ、当然か。俺はそう考えながら、初芝さんの遺体を戦闘の被害が出ないように端の方へと運び終える。次は……。
「ぐっ!」
「あひゃひゃ! ほらほらほらぁっ!」
北垣さんと戦っていた同じ等級同じ系統の探索者が弄ぶように笑いながら叫ぶ。北垣さんは回復系探索者の人を守りながら戦っている。
つまり常に気を配らなければいけないんだ。たしかに傷の回復については北垣さんの方がアドバンテージはある。だが、回復する隙もでかい。
つまりだなぁ。
「死ぬよっ? ほら早く防がないと死ーー」
「死ぬのはお前だ」
俺はそいつの耳元に小さく囁き、次に持っていた短剣をパワー系の首元を突き刺し、そのまま大きく振るって引き抜く。
広がった傷口から多量の血が飛び出ると同時に、さきほどまで北垣さんを追い詰めていたパワー系探索者の人は地に伏した。
はっ、お前なんかが北垣さんが戦うまでもない! 快楽殺人者みたいな言動しかできないお前なんか、人を守るために戦う北垣さんとは比べ物にもならないんだよっ!
「まずは一人。残り二人だ」
俺はそう言って藤森のいる場所へと歩みを進めた。
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