第37話~死、そして契約上書き~
「嘘、だろ?」
そう呟いている間にもどんどん初芝さんから血は溢れていく。僕は上着を脱ぎ、傷から溢れ出る血を抑えようと圧迫する。
「くそっ! 止まれっ! 止まれよぉ!」
止まらない……血が止まらない!? もう1人の回復系は……?
後ろを見ると、北垣さんはパワー系の人の相手でギリギリの様子だった。回復系の人も北垣さんを治すので手一杯。こちらに来たらジリ貧で北垣さんが死ぬ。無理だ。
……もう1人のタンク系は? 辺りを見渡すと、藤森の方にいた。僕と同じく藤森の傷を押さえているようだった。とりあえずこの間に攻撃されないのは助かる。
「……しの、ざき……さん」
「初芝さん!? 喋らないでください! 傷に響きます! 待っていてください、必ず助けますから!」
僕はなんの根拠も無いのにそう告げる。どうする? どうするどうするっ!? このままじゃ……初芝さんが死んでしまうっ!
「……エフィー! 頼む! 助けてくれ!」
「主人……残念じゃが、無理じゃ。もしここで契約を上書きしたとしても、回復させる能力はつかないのじゃ。もちろん、我にもそんな能力はない。……残念じゃが……」
エフィーでも無理……なのか。
「しのざき、さん。あの、お怪我はない……ですか?」
「い、今は自分の心配をしてください! 僕は大丈夫ですから……。それより、自分で自分を回復することって?」
僕が
「……篠崎さん、私もう、ダメみたいです。……視界もあんまり見えないですし……」
「初芝さん、何を言って……? そんなのダメだ! だって……嫌だ! 必ず助けるから! 諦めないでくれ!」
虚な瞳をした初芝さんがそう言う。何か、何かないのか? この状況をどうにかする方法が何か! …………ダメだ。思い、つかない……。
「篠崎さん、最後にこれだけ、言いたかったんです」
「最後だなんて! ……なん、ですか?」
そんな事を言わないでくれ! そう思った。でもそんな自分の気持ちに整理がつかないからと言って、彼女の言葉を遮って良いはずがない。そう思い直し、僕は尋ねた。
「好き、でした。ずっと、初めて会った時から……」
「……えっ?」
初芝さんが涙を堪える僕の頬に、優しく片手を当てて告白する。
「ふふっ、やっぱり気づいてなかったんですね……。これでも、結構アピールしてたんですよ? ……最後にこの気持ちを伝えることができて、良かったです……。篠崎さん、生きてください……ね? ……最後に、これを……《回復》……」
初芝さんは僕の火傷を治してそう言い残し、安らかに目を閉じた。僅かに支えていた筋肉の力が無くなり、首が重力に引っ張られる。温もりが……どんどん無くなっていく。
「う、あ……」
「主人! しっかりするのじゃ! 意識を保て!」
エフィーの焦る声が聞こえた。何を言ってるのかまでは耳に入らない。目の前も歪む。……これは涙だよな? 3年ぐらい流してなかったから気づかなかったよ。
……そっか、
「あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
憎い憎い憎いっ! 殺して! 殺してやるっ!!! 藤森、殺してやる。藤森の味方をした残り二人もだ! 全員殺してやるっ!
「エフィー! 契約を更新する!」
「しょ、正気か主人!? 今のままでは五分五分だと伝えたはずじゃ! 最悪死ぬぞっ!?」
あぁ、もううるさいなぁ。
「良いからやれよエフィー。……どうせやらなきゃ僕も……いや、俺も殺られる。なら……当然の判断だろ?」
「……分かったのじゃ。なら血を我に捧げーー」
俺はエフィーが言い終わるよりも早く、短剣で指を深く切り、大量の血をエフィーに舐めさせた。別に深く切ったことに大した理由はない。
より強くなるための契約なんだから、前みたいに一滴ではないだろうという判断が一つ目の理由。
もう一つは、俺が弱かったから。契約の上書きを藤森に裏切られてすぐにしなかった。そのせいで初芝さんが死んだんだ。ならちょっとした罰くらい受けないと、という心情も抱いていたんだと思う。
「……これで、契約は完了じゃ。死ぬでないぞ? 主人」
ペロリと血を生々しく舐めたエフィーの言葉と共に、俺の体を激痛が襲った。
「ぐっ!? があ、あぁ……ぁぁあっ!」
痛い……。すごく痛い……っ! 体全身を針で刺されるような痛みだ。もしかして悪い方の五分を引いたのか? でもそれは困る。……俺は藤森を殺すと決めたんだ。
初芝さんに託されたんだ。生き残ってくださいと。頼む……!
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
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