第31話~談笑~
バットバットを倒したあと、僕たちは順調に、誰も欠けることなく迷宮を攻略していっていた。多少の怪我も初芝さんたちに治してもらえるからだろう。
「皆さん、そろそろ迷宮主のいる場所です。最後の休憩をとりましょうか」
藤森の言葉に僕たちは従う。藤森は親しい間柄と思われる同じC級タンク系、D級パワー系の探索者たちと3人で話し合いをしていた。
僕は北垣さん、初芝さんの3人だ。他のタンク系の2人と回復系、スピード系の4人はそれぞれバラバラだった。
と言っても多少会話もこなしているし、僕らとも話はする。ただ固まってはいないだけだ。
そう言えばあれから周りの動きを見ていたが、僕はおそらくE級以上D級未満ぐらいの身体能力をしていると把握した。つまりこの中で一番弱い。
「そう言えば篠崎君はまだ19歳だったね。何故探索者になろうと思ったんだい?」
北垣さんがそんな事を聞いてくる。
「……お金が、必要なんです。丁度発現者になったんで、これはもう運命だと感じましたよ」
5年前から眠り続ける妹の水葉の入院費、治療費や僕の学費などは、両親の保険金で賄っていた。だがそれではいずれ貯金は尽きる。僕は一足早く退院したその日からアルバイトを始めた。
両親が死んでもちろん悲しかった。でも、眠り続ける水葉の居場所を死んでも守りたかった。そのために僕は動いた。
幸い発現者という事で、きつい肉体労働にもついていけた。精神的にはボロボロだったけど……。
「僕は危険な高等級の迷宮でもなんでも潜って、沢山のお金を稼いでみせます。そのために一攫千金を狙える探索者を選んだんですから」
「……篠崎さんは凄いですね。私なんて発現者になった時、頭もあまり良くなかったので進学するよりは……って感じだけで探索者になったんです」
初芝さんが自分を卑下するように言う。僕が探索者になった理由に比べて、自分の理由は軽かったと思っているからだろう。
「初芝さん、それがどうしたんです?」
「ふぇ?」
「探索者になる人も理由はそれぞれです。なった理由に大した価値はありませんよ。例えばモンスターを殺したいから、なんて理由でなった人もいるんですから」
例えば藤森とかな! あいつ魔法でモンスターを生きたまま、わざと弱火で殺さずに叫び声を聞いて喜ぶサイコパスの面もあるんだぜ?
「初芝さんの理由も良いじゃないですか。自分を客観的に把握して、こうして命を張りながら、他の人の命を助ける仕事をやってるんです。十分凄いことですよ、むしろもっと堂々とするべきです!」
そんな奴と比べたら初芝さんのなんて凄いこと! まぁ実力第一のこの業界では、理由よりも実力が優先されるのは当然。
……でも、最弱等級の僕を笑わずに優しく、そう最初に接してくれた初芝さんが自分を卑下するなんておかしいもんな!
「あ、ありがとう、ございます……」
初芝さんはそう言いながら顔を赤くしてそれを手で隠す。
ふむ、なるほど褒めすぎたか? あれだけ言われたらそうなるのも理解できなくはないしな!
「篠崎君、君のそれは天然かい?」
「……どれですか?」
「いや、その発言で十分だ」
なんだったんだ? そう考えながら僕は首を捻った。
「主人よ、主人には最初から我など必要なかったぞ。主人は主人の行くままに進んでおれば良いのじゃ……」
エフィーまで!? いったいどう言うことだ!?
「さて、皆さん。そろそろ迷宮主を倒しに行きましょうか」
藤森の発言に、僕は先程までの緩まった気を引き締め直した。……やるぞっ!
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