第30話~疑い~
「《
迫り来るバットバットに対して最初に動いたのは、リーダーである藤森だった。《炎波》と言う名前の魔法を使う。
《炎波》は熱波に炎としての形を持たせて実体化させたような魔法だと聞いている。まぁ、炎も実体は持たないが細かいことはいいだろう。
激しく燃え盛る炎の波が上空にうごめくバットバットに放たれた。その行動で三分の一ほどのバットバットが死亡し、地面へと墜落してくる。
僕らはそれらを避けつつ、仲間の死体のおかげで生き延びた残りの三分のニほどのバットバットを相手にする。
このバットバットと言う名のモンスターの強さはE級以上D級未満と言ったところだ。基本的に迷宮とモンスターは同程度の等級の強さを持っているが、無論差はある。
キシャアァァァァァッッッ!!!
「ぐっ!」
バットバットが超音波のようなものを発する。洞窟内で反響し、すごい音だ。僕たちもとっさに耳を塞いでしまう。
しかしそれでは勝てない。ならばすることは一つ、特攻あるのみだ。いくら怪我をしようと、生き残りさえすれば初芝さんたちに治してもらえる。
僕は超音波を放つ最短距離にいた1匹のバットバットに向かっていく。突如耳から入る強烈な音。まるでライブ会場の最前列にあるかのような、ビリビリと鼓膜が揺れる感じがする。
それでも僕は前に進み、体の大きさに似合わない巨大な翼を狙いジャンプして剣を振るう。バットバットに避ける間も無く僕の振るった剣は直撃した。
翼を片方失い平衡感覚を失ったバットバットは、そのまま唐突に地面へと落ちてくる。僕は着地すると同時に落ちてきたバットバットの体に向けて再び一閃。
1匹のバットバットを討伐することに成功する。しかし喜んではいられない。耳から脳へと直接響くような音を我慢して、僕は次の獲物を狙う。
北垣さんたちも同様にバットバットを次々と処理していく。やはり別の迷宮でも慣れている分、彼らの方が速い。
無論、最初に攻撃を放った藤森も《炎球》などの魔法で支援をしていた。しかし味方に当てるわけにもいかず、あまり数は飛んでこないし、当たるのもごく僅かだ。
……それを利用してか僕にはあまり……と言うか一回しか魔法の支援攻撃は飛んでこなかった。多分追及されたら『F級の君に万が一にでも当たってしまうのが怖くて……』なんて言うつもりだろう。
でも、僕は身をもって知っている。藤森がそんなことを全く気にせず、危うく僕は一度殺されかけたことを。
あの時は謝られたし、まさかあんな囮なんて扱いを受けるとは思っても見なかったからすぐに許していたけれど……。
おっと、集中しろ集中! 僕は意識をバットバットに向けて、残りを狩っていった。そして数分が過ぎ、下にはバットバットの死体だけが残っていた。
「皆さん、怪我をしていたら私に言ってくださいね! 篠崎さんは大丈夫ですかっ? どこか怪我とかは」
「あはは、見ての通り大丈夫ですよ」
「ほ、本当ですかっ? 無理はしないでくださいねっ?」
初芝さん、F級の僕を心配してくれるのは嬉しいんだけどさすがに大袈裟なんだよな〜。まぁ、そう心配してくれるのはめっちゃ嬉しいんだけど……。
「あ、北垣さんも無事なようで何よりです」
「ははっ、篠崎君こそ大した物じゃないか。見たまえ、D級パワー系探索者の彼も怪我をしているのに、君は無傷だなんて……本当にF級なのかと疑いたくなるよ」
「あ、あははは、やだなぁF級に決まってるじゃないですかー」
こえぇぇぇぇ!!! めっちゃ疑われてそうな雰囲気なんだけど!?
「篠崎さん、先程の動きは凄かったですね。まるで別人のようだ」
北垣さんをなんとか誤魔化そうとしていると、そこに藤森がやってきた。彼も僕を見て不思議そうな目を向ける。それと警戒の目も……。
「運が良かっただけですよ」
「へぇ、とてもそうにはーー」
「じゃあ藤森さんは、僕がF級だと詐称していると? そう言いたいんですか? 何故そのようなデメリットしかないような行為を?」
よし、このまま無理やり押し通そう。わざわざ僕の等級を測り直そうなんて言うはずもないだろうし、これでいけるだろう。
「ふむ、それを言われると痛いですね。……まぁ、私の勘違いとしておいてください。それでは」
さすがの藤森も北垣さんの前で怒鳴りつけるような真似はしないようだ。もし僕と2人っきりならどんな目に合っていたか……。考えただけでも恐ろしい。
……そういえば、僕の等級は一体どうなっているのだろうか? 僕はそんな疑問を抱きながら、バットバットの素材や魔法石を回収しにいった。
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