第15話~初芝さん~
E級迷宮のゲートが現れた場所は駅の近くだった。普段なら何十人もの人が行き交っていたその場所は閑散としており、そこにいた人の数は十数人と少ない。
「皆さん、お集まりくださりありがとうございます。今回パーティリーダーを務めるD級探索者の
「あの〜、まだ1人来てない人がいます」
北垣さんが少し緊張した様子で挨拶を始めるが、ここは空気を読まず僕がそう指摘をする。説明中やその後に来られるよりはマシだろう。
「す、すみませーん! 遅れましたー!」
すると後ろからそんな声と共に走ってくる1人の女性がいた。彼女は「はぁ、はぁ」と荒い息を立てて歩みを止める。遅れそうになって遠くから走ったんだろうな。
「D級探索者の
「よ、よろしく……」
そしていきなり、彼女は元気そうにそう名乗った。僕以外の人は完全にドン引きだったけど。
「ううんっ……全員が揃ったことですし、改めて自己紹介を。今回パーティリーダーをーー」
北垣さんが改めて説明を始める。多分リーダーになったの初めてそうだったし、ちょっと今回は可哀想だな……。
「あの〜、あなたなんて名前なんですか? 私は初芝です!」
急に遅れてきた人が北垣さんの話を聞かずに話しかけてきた。
「……知ってますけど」
「えぇ!? なんで私の名前を!?」
自分で名乗ってたじゃねぇか! まじでこの人大丈夫か? でも、少なくとも19歳以上は確実なんだよな……。
この国の法律では、一応18歳までは発現者となっても探索者にはなれない。彼女もおそらく僕と同じ、なりたての19歳だろう。
「F級探索者の篠崎です」
「F級? 大丈夫なんですか? 危険ですよ?」
ち、遅刻してきた奴に心配されるのなんか腹立つな。でも、一応、仮にも、彼女はD級探索者なんだから言い返せない!
「D級探索者が2人もいるんです。死にはしないでしょう」
「むぅ……では、ちゃんと私の後ろに隠れておいてくださいね? お姉さんが守ってあげますから」
……? …………? は? お姉さん? 身長150cmぐらいしかなく、中学生にしか見えないこの人が?
「失礼だけど……歳はいくつですか? 僕は19歳ですが」
「ふふん、見ての通り21歳です!」
嘘だぁぁぁぁぁ!?!?!?
「初芝さん、女性でも年齢詐称はいけませんよ?」
「してませんよっ!?」
初芝さんが心外だというような口調で声を荒げる。
「そこ、ちゃんと説明は聞いてましたか?」
「もも、もちろんですよ?」
初芝さんとおしゃべりしていたら北垣さんに注意された。初芝さんが明らかに聞いてない様子で嘘をつく。
僕も正確には聞いてなかったが、こっちにはエフィーがいる。僕は彼女に事前にこう言っておいた。
もし僕1人の手に余る状況になった時には、迷わず助けて欲しい。うん、今はその時だろう。
「エフィー、北垣さんはなんて説明していた?」
初芝さんから離れて、僕はエフィーに小声で尋ねる。
「別に大した話はしておらんかったぞ? 一言で言うと、私についてこい、じゃな」
本当に大した話じゃなくて良かった。
「それでは行きましょう」
北垣さんを先頭に、数人がゲートを通る。
「篠崎さん、ちゃ〜んと私の後ろに隠れておいてくださいね?」
「……初芝さんって何系ですか?」
発現者には主にアタッカー、サポーターの二つに分けられる。
アタッカーはその中からさらにスピード系、魔法系、パワー系、タンク系の4つ。サポーターは回復系、強化系の2つに分けられる。
後ろに隠れろと言うことは、彼女は見かけによらずタンク系か?
それにしては盾や防具の一つすら持っていない。いくら稼ぎの少ない低ランク帯とはいえ、さすがにおかしいぞ?
もしくは……彼女にはそんな物が必要ないほど硬いのかもしれないな。
「私ですか? 私は回復系ですよ?」
俺は何も言わずにゲートへと突入した。
「あぁ! 篠崎さん待ってくださ〜い!」
後ろから初芝さんの声が聞こえたがもうしらん。回復系と強化系は一番後ろにいるのが定石じゃねぇか!?
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