第2話 ぼっちなあたしは、探索者になります。
昔、二国が争っていたとき、この地に魔物の災害が起きました。
それは、争っている余裕もなくなるほどの、恐ろしい状況だったそうです。
双方とも手を取って戦わないと駄目なほどで、魔界、人界の両国から物資が集められ、二国の間に討伐本部が作られました。
その後、討伐本部がそのまま、リターグになったのだと、学校で教わりました。
初等部から通っていた学校も、再来年には卒業になります。
朝起きて、宿屋のお給仕を手伝って、お弁当を持って学校へ行きます。
おかずを分けてもらって、自分で作ったお弁当を中庭で食べて、日課を済ませてから教室へ戻ります。
夕方、学校が終わったら、宿屋へ戻ってお給仕のお手伝い。
兄の知り合いの宿屋は、酒場も経営していて、とても繁盛しているんです。
毎日のように、仕事を終えた、探索者のおじさんや、お兄さんたち、お姉さんたちがご飯を食べて、お酒を飲んで、お疲れ様と仲間を労っています。
お給仕の仕事は、くるくると立ち止まる暇もないほどに忙しいので、誰もあたしの眼のことを気にする人がいないように思えます。
この世界には、ひとつの仕事を極めようと努力をすることで、〝加護〟を得ることができると言われています。
あたしの兄は、家を継ぐまでは、メルディアの王家に仕える騎士として、鍛錬を続けてそれに見合った加護を獲たと聞いていました。
姉も、メルディアの治癒院に勤めおり、見習いから頑張って加護を獲たと聞きました。
あたしはまだ、何の加護も獲ていません。
それはまだ、何を目指したら良いのか、決めかねているからだと思います。
あたしは、お世話になっているこの宿屋と酒場で、お給仕の仕事を六年間続けています。
ですが、未だに加護を得ていないということは、お給仕に応じた加護はないのかもしれません。
調理場のお手伝いならば、加護を得られたかもしれませんが、学校に通っているので、そこまで時間がありませんでした。
そんなとき、ふと、ある噂を聞きました。
とある加護に関する噂話。
あたしは、『これです!』と思いました。
どうしても、その加護が欲しくなったんです。
その日のうちに、あたしは、宿屋のおかみさんに相談をしました。
おかみさんは、あたしがやりたいことを見つけたのを喜んでくれました。
しばらくの間は、朝だけ、お給仕のお手伝いをするのを条件に、屋根裏部屋を今まで通り使っても良いと言ってくれました。
そのおかげもあって、翌日には、あたしは探索者になるべく、紹介所の門を叩いた、というより、登録をすることになったわけです。
最初は、簡単なお使いのような、お仕事しかもらえません。
宿屋の酒場でのお給仕のときに、もらえるチップの方が実入りが多かったですね。
あたしは、学校に通うための制服と、普段着も兼ねている、このお給仕さんの服くらいしか持っていません。
いつも清潔な服装をするためと、宿屋のおかみさんが四着も用意してくれました。
懐がいつも寂しいあたしにとって、とても助かりました。
可愛らしくて、結構気に入っているんです。
宿屋の壁と同じ、赤土色に染められた丈夫な生地で、縫い上げられたこの服。
擦れや油染みなどにも強く、天日で干すと、とても良い香りがする生地。
王侯貴族の侍女さんたちが着る服装に少し似ていて、とても可愛らしいんです。
もちろん、紹介所から受けたお仕事を片付けるときも、この格好です。
探索者の等級は最下位から始まって、ある程度上がらないと、魔物退治などの依頼を受けることはできない仕組みになっていたんです。
庭仕事や畑の収穫、お店のお手伝い、などを繰り返して依頼を遂行していきました。
半年かかってやっと、位がひとつ上がって、やっと害獣駆除の依頼を受けられるようになりました。
そのころから、徐々にですが依頼の達成による報酬が高くなってきて、お給仕でもらえるチップの金額を超えることができたんです。
父は生前、あたしの育った町の領主で、探索者でもあったと聞いています。
あたしがまだ生まれたばかりのときに、人界で発生した魔物災害の討伐で亡くなったそうです。
困っている人を放っておけなかった父は、魔界だから、人界だからと言わず、探索者の責務を果たすために、あちこち飛び回っていたのだそうです。
それでも母は、父を誇りに思っていると、父のようになりなさいとあたしたちを育ててくれました。
そのあとは、兄が成人するまでの間、母が領主代行として頑張っているのです。
あたしは小さなころから、兄からは武器の使い方を、姉からは治癒の術を学んできました。
学校では、魔術学科の治癒術専攻に進みました。
まだ進路は決まってはいませんが、治癒の術を学んでいけたら、姉のような立派な治癒師にもなれると思っていましたし、できれば、父と同じ探索者になって、皆の役に立ちたいというのもありました。
だから今、探索者になって、父の背中を追えているのが、少しだけ嬉しかったりするんです。
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