地下路の魔物

 光の届かない闇。

 

 しかし、確かにはいる。


 直感的に目が合っていることを理解する。


(バカな、気配はなかったはず……結界の効果? いや、そんなはずはない)

 

 思考の乱れ。それは百戦錬磨の冒険者であるトールにも訪れ、明確な隙となる。


 野生動物の如く鋭い感を有する魔物はそれを見逃さない。


 だから、当然……魔物は飛びかかってくる。

 

 (――――疾い! だが、こいつは!)


 相手は、どうやら小型の魔物。狭い地下路で動きが制限されるトールに対して、自在に動きながら接近。

  

 大きくジャンプして、頭を狙ってきた。


トールは剣による追撃は間に合わないと判断。


「だったら!」と襲い掛かってくる魔物に腕をで払うような動作。 だが――――


 防御に回した腕に衝撃。 


「ぐっ」と苦痛の声が漏れる。


 牙……それから、何か鈍器で叩かれたような衝撃。


 しかし、トールが着込んだ革の服を貫通するには到らない。

 

 まだ、体に纏わりつき攻撃を狙う魔物。しかし、トールは、


「このっ!」 


 魔物の喉を絞め、自身の体から剥がす、そのまま――――


 投げ一閃。


 喉を絞めたままの投げ。魔物を後頭部から地面に叩きつけた。


 人間ならば一撃で絶命する強烈な投げ。


 しかし、魔物は投げの衝撃で緩んだトールの束縛から脱出。


 そのまま猫科動物のように体を回転させ、背後へ大きくジャンプ。


 距離を取る。


「凄いなぁ……今の投げでもダメージを受けたように見えない。やはり、ただの地下路じゃないだろ? ただのゴブリンが、こんなに強いのだからな」


 トールの視線の先にいる魔物。闇に眼が慣れるにつれ、その正体が明らかになった。


 ゴブリン。


 小柄な魔物であるが、目の前の個体は、通常よりもさらに小さい。


 トールの腕を叩いた物体の正体だろう。 錆びついた鉈のような武器を手にしている。


 その姿に対して、トールの背後から息を飲む音が聞こえる。



「ゴブリン!? 最弱と言われる魔物がこんなに強いなんて!」


「グリア、扉を閉めろ。コイツを外に出すのはまずい」


 背後で扉が閉まる音。 再び、周辺を闇に包まれるも、トールは既に目が慣れている。


 目前にいるゴブリンを暗闇で見失う事はない。


(だが……コイツだけではない。まだいる!)


「2人とも気をつけろ! コイツ、1匹だけじゃない」


 そのトールの声が合図となったように隠れていたゴブリンが姿を現した。


 1匹……いや2匹、3匹と増えていく。おそらく、まだ姿を見せず隠れたままのゴブリンもいる。


「コイツ等、何匹隠れて――――いや、仕方ない。もう吹き飛ばさそう」


「え? トールさま?」と背後からグリアが心配そうな声。


「すまない。手加減してる場合じゃなくなった。もしかしたら、地下路を壊すかもしれない」


「ちょ! それは、流石にやり――――」


火球ファイアボール


 その魔法は初級魔法。 覚えが早ければ子供でも使える。


 しかし、トールが使用した時――――その魔法は原始にて最強。


 赤い閃光は狭い通路を染め抜き、思い出したかのように衝撃と高熱がトールの前方に向けて発射された。


「うん、ガスとか爆破物の気配はなかったが……やっぱり、閉所で攻撃魔法は怖いからな」 


 まだ周囲には炎が残り、闇に包まれていた地下路を灯す。


 かつて魔物だったらしき物体が転がり、独特の異臭をばら撒いている。


「流石にやりすぎよ。破壊音で生徒が集まってくるかもしれないじゃない」


 グリアが抗議の声を上げた。


「すまない。ここのゴブリン、特殊な環境で進化したタイプかな? 少しだけ強かったから……つい……」


「確かにそうね……レナちゃんは、どう思ったの?」


「私ですか? そうですね……」とレナは少し考えて、


「地下に閉じ込められていたのが原因か、通常のゴブリンと比べても小柄で素早いのは確かですね。それに暗闇ですから、気配が薄く、五感が発達しているのではないでしょうか?」


「そうね。そう考えると私たちの知ってるゴブリンとは別物って感じかしら」


「ゴブリンだけじゃないだろう。他の魔物も特殊に進化しているかもしれん。ここは日を改め、正式に冒険者ギルトに依頼を手配した方が……」


「え?」と気づけばグリアは先に進んでいた。


「冒険者ギルドに依頼なんてしなくても、ここにブラテンを代表する冒険者が2人もいるのよ?」


「まさか、ギルドに依頼する賃金を節約しようと思って、俺たちを?」


「――――さて? なんの事かしら?」


「お前なぁ」とトールは、ため息を1つ。 それから、こう続けたのだ。


「いいけど、俺とレナの正規の依頼料と同額は貰うぞ」


「ぐっ! 仲間割引は効きますか?」


「やっぱり、お前……安く済まそうとしてるじゃないか」


 そんなやり取りも交わして、3人は地下路の奥へ進んだ。

 

 すると――――   

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