新たな……そして学園島最初の友? 

 公式なスックラ独立までの準備期間。


 外部からの雑音。誰もが誰もスックラ独立に賛成というわけではない。


 そんな悪意ある者たちからトールの身を隠すため、


 学園島と言われる島で生活することになった。


 島と言っても、広大な土地に近代的な都市がまるごと……強引に詰め込んだような場所。


 その都市とも入れる島の中核、主軸経済は学校運営だ。


 ただ巨大な学園が島を支配するように聳え立つ……わけではない。


 様々な専門分野を学ぶ事を目的とした学校が複数あり、その中でトールたちが通うのは王族や貴族たちが帝王学を学ぶ場所。


 スコティ学園。


 「まさか、この歳で学園生活を送ることになるなんて」


 トールは、きっちりと体に合わせて仕立てられた制服にまだ慣れずに窮屈そうに首元を直す。


 「お似合いですよ」とレナは微笑む。


 馬車が校門の前に止まり、2人は外に出る。


 すると浴びるように大量の注目の視線によって迎えられた。


「あれが独立国家スックラの新国王か?」


「隣はレナ姫……」


「本当に本物か? 行方不明だったのだろ? ルキウス王の庇護下で姿を隠していたなんて噂もあるが?」


「何にせよ、冒険者崩れが国王か。まるで前時代の英雄だな」


 そんな声が聞こえてくる。


 しかし、それは自己矛盾であると彼らは気づかない。


 貴族というものの始まりは、基本的に戦場で武勲を重ねて出世した兵士。


 さらに王族の始祖には荒唐無稽とも言える建国神話がつきものだ。


 例えば、魔族が支配する領土に軍を引き連れて攻め込み、敵を打ち取るとその領土を自分たちのものとした。 


 よくある神話だ。 酷いものになると――――


 神聖なる山より自然と生まれた始祖が神秘の力を使い、たった1人で国を支配する邪竜を滅ぼして……


「大丈夫ですか?」とレナが心配そうに見てくる。


「問題ないさ。冒険者なんてヤクザな商売だから陰口なんて慣れてるさ」


「まぁ、投獄された10年間は陰口どころじゃなかった……」と言いかけたが、それは冗談ですまないので飲み込んだ。


 しかし――――


「スックラなんて人類の敵だろ。よく顔を出せたな」


 誰かが言った言葉がトールの耳に届いた。 


 それを口にした人物の不幸は、冒険者の強化された聴覚がどれほどのものか知らなかったこと。


 そして、それはトールにとって禁忌タブー。それ以上にレナにとって……


「お前か?」


「え?」とその学生は、自分の身に何が起きたのかわからなかった。


 離れている場所にいたはずのトールが目前にいて、自分の胸倉を掴んでいる。


(え? え? 今、離れた場所にいたのに、どうして? どうやって? この距離を? 魔法……いや、それならわかるはず。でも、目を離していなかったのに!?)


 その少年は、ある国の王族。普段なら天井知らずの矜持を振りまいて、暴力的に他者を支配しようとする少年だった。


 しかし、この時ばかりは矜持も傲慢も抜け落ちていた。


 突然、得体のしれない化け物に襲われたかのような感覚に陥り、思考もまともに働かない。


 王族として生まれた少年には初めての経験だ。


「い、いや、すまない。 君を……スックラのトール新王を侮辱するつもりはなかった」


 気がつけば謝罪を口にしていた。 


 普段の彼ならば絶対に行わない行為である。しかし、死すら連想させられる恐怖に彼の精神は、緊急事態として謝罪を選択したのだ。


「……俺の事はいい。だが、スックラという国そのものを侮辱するということは国に住む者全員を侮辱することだ。王族や貴族ならばこそ安易に行って許されることではない」


「あっ……それは、本当にすまない。王族として失念していたこと……いや断じて失念してはならないことだった。改めて正式な謝罪をさせてもらいたい」


 それは意外なほど真摯な謝罪だった。 「……」と無言で睨みつけていたトールだったが……


「いや、謝罪をするのは俺の方だ。怒りに我を忘れて胸倉を掴むなど、俺もまだ若い……これは罰せられて当然だ。しかるべき機関に出頭しよう」


「ばっば、ば……」


「ば?」


「馬鹿なのか! 君は!?」


「むっ……この場合、常識的な行為だと思うのだが?」


「そんなわけあるか! 非礼はこちらだ! 君が出頭すると言うなら僕だって出頭する!」


「それは不毛な」


「そうだ! 不毛だとも、嫌なら君も出頭を取りやめたまえ」


「……わかった。君が正しい」


「では」と王族の少年は手を差し出した。


「?」と首を傾げるトールに


「うむ、仲直りの握手をいこう。僕の名前はシン。シユウ国の第三王子……シユウのシンだ」


「シユウ国と言えばコウ王の大国の……」


「コウ王は父上だ。これからよろしく」


「うむ」とトールは差し出された手を握り返して、


「俺の名前は、トール・ソリット。 新しく独立国家として誕生するスックラの新王……になる予定の男だ」


「おう! では、新たな王である友との出会い。近いうちに宴に招待させてもらうぞ!」


 そう言いながらシユウのシンは上機嫌で去って行った。


「もう、新しいお友達ができましたね」とレナ。


「うん、しかし……」


「しかし、なんです?」


「王族ってのは、どこもあんな感じなのか?」


「それはもしかして……シユウのコウ王子を見て、ルキウス王に似てると思われたのですか?」


「……」とトールは沈黙で肯定した。 



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