元SSSランク冒険者だった咎人は脱走して人生をやり直す！ ～幽閉された10年で鍛えた魔力は最強魔導士に～ 若返った俺を捕まえようとしてももう遅い！

新章？ 新たなステージは？

　スックラ近代史

　亜人連合軍を撃破した魔王軍は、総大将である魔王の負傷。

　人界であるスックラ手前で進撃を止める。　

　スックラ軍と魔王軍は大規模な衝突はないにしても何度となく小競り合いを繰り返す。

　魔王不在の好機にスックラ優勢。　このまま大攻勢を予定するも――――

　スックラ王女が倒れる。

　これには諸説あり、大病説、暗殺説などあるが……

　王女死亡後、後を継いだ嫡子は幼く、旧王女の弟である王弟が摂政として政権を取り仕切る。

　多くの兵士が戦場で戦う最中、突如としてスックラ無血開城を宣言。

　それでも戦場に取り残された兵士たちは抵抗を止めず、

　ゲリラ戦を行いながらも後退。

　そのままスックラ本国に戻ることも許されず、周辺諸国に分散しながら――――

　生存できたのは極少数だった。

　そして現在――――

「……さま。……さま、起きてください」

　揺れる馬車の中、トールは覚醒した。

「寝てしまっていたのか」とトールは驚く。

　熟睡。眠気を誘う馬車の揺れとはいえ、自分が気を許してる……癒されているという事実に驚いたのだ。

「スックラの独立と復興。その政策作りとお疲れでしたから」

　　馬車の隣には幼さが残る少女……とは言え、今のトールとは同じくらいの年齢に見える。

　彼女の名前はレナ・デ・スックラ。

　現在、分割統治されていたスックラを独立させ、王女の地位にいる少女だ。

　加えて、

　「その……もしも、おつかれでしたら」と彼女はトールに抱きついてきた。

　「……む！？」と予期せぬ（それも悪意なき）奇襲に希代の達人であるトールは抵抗できずにレナに抱擁を交わす。　そのまま「え、えい！」と彼女の剛力によって強制的に膝枕の状態になった。

「い、いかがでしょうか？」

「これは……なに？」

「えっと、お疲れの殿方を癒すにはこれが一番有効的だと聞きましたので」

「それってグリアがいってたの？」

「はい、よくおわかりで」

「……」と少し文句を口にしようとしたが止めた。

　グリアはともかく、勇気を出した（間違った方向ではあるが）レナに悪いと思ったからだ。

「具合はいかがでしょうか？　だ、旦那さま？」

「うん、悪くない……いや、とても良いよ」

　旦那さま……トールとレナは結婚した。　もちろん、スックラ王権復興のためだった。

　例の戦いで有耶無耶（うやむや）になりそうだったが、正式にトールはスックラ統治権を周辺諸国から認められ、王権者となったトールは正式に結婚。

　トールとしては偽装結婚。このまま王権をレナに渡して、自分は死んだことにして旅にでも出る。

「……そのつもりだったのだが。人生はままならないものだなぁ」

「？　なにかおっしゃいました？」

「いや、なんでもない」とトールは瞳を閉じて眠る準備に入る。

　トールはスックラ王権者として認められたが、完全な独立国家として認められるには、まだ年月が必要だ。

　今日から独立しました。よろしくお願いします……と簡単にいく話ではない。

　そのために、今回トールたちはある場所で数年間を過ごさなければならない。

　渋るトールに対して

「国の統治を学ぶためには重用な場所である」とルキウス王を代表に説得され渋々受け入れたのだ。

　それでも気が重い。その理由の１つはレナにある。

　偽装結婚だとレナも理解しているのだが……

　夫婦になって以降、レナから過剰とも言えるアプローチを繰り返してくる。

　そんなレナと同室で数年間生活をしないとない。

　（このままでは、何か間違いが起きるのでは？）

　そんな不安がトールにはあった。

　いやいやいや、間違いもなにも……

　どちらにしても、スックラ王室存続のためにレナ１人に国の統治を任せるだけではなく、後継者作りも重用なトールの役割である。

　しかし、１０年に及ぶ世間との隔離生活が原因か？　そこら辺の認識がトールはよくわかっていない。

　もっとも、最初に

『スックラ復権のために手を貸してください。そのために脱獄の準備はできています』

　そう牢獄において咎人との面会の許された神父――――ハイド神父の思惑。

　レナを王女に返り咲かせるだけではなく、冒険者の名誉称号でもあるSSSランク冒険者を持つ青年を王まで押し上げ、強国にする。

　そんな計画だったとは知らずにトールを乗せた馬車は目的地に近づく。

「旦那さま、見えてきました」

「……ん？　あぁ」とトールは外を見て、憂鬱な表情に変わった。

　外には海にかかる大きな橋。その向こう側。

　目的地の周辺には、レナやグリアと同じくらいの年齢の少年少女たちが歩いている。

　その数は数百人はいるのだろう。

　この場所は学園島。　文字通り、島そのものが学校となっている。

　多くの貴族や王室この学園島で学ぶ。帝王学など統治者として相応しい振るまいを学ぶのだ。

　そう……

　レナとトールは、スックラが完全に独立が可能になるであろう３年間をここで学生として生活することになったのだ