ラズエルの正体 顕現するは――――
「え?」とその戦いは酷く呆気なく終わった。
ゴトリと音を立てたのは地面に落ちた腕。
赤い噴水のように舞い落ちるのは鮮血。
しばらく、それを理解できない様子で見つめていたラズエルは――――
「なぜ……私が遅れを……」
それだけ言って倒れた。それを見届けたカエリは、
「ワシは体から衰えを隠せぬ。しかし、それは老いだけではなく――――」
そこで言葉を止め、それから――――
血を吐いた。
「父上」と駆け寄るトール。
吐血。
人の中にこんなにも血液が流れ出てくるのか?
そう思わざる得ないほどに大量の血液だ。明らかに尋常ではない。
しかし、トールは何もする事ができない。
「くっ、父上……今、医者を呼びます」
「……いや、構わうなトール。まだだ……まだ終わっておらぬ」
「え?」とトールは意味が分からなかった。しかし――――
「なるほど、老いだけじゃなく病んでいたのか。さっきの太刀筋、我と戦っていた時よりも遥かに優れていたぞ」
誰の声だ? その声は、倒れていたラズエルから聞こえてくる。
しかし、その声は先ほどまでの彼とは明らかに違っていた。
そのまま立ち上がるラズエル。
いや、変わっているのは声だけではない。顔をあげて見せた表情は別人。
――――いや、それは表情だけではない。
父親とは違い『天眼』どころか『心眼』にも到らぬトールにもわかるものがある。
その圧力から感じ取れる戦闘力は先ほどとはまるで違う。恐怖を覚えるほどの跳ね上がっている。
ラズエルは自身の傷を確認するように見る。
切断された腕。胸には致命傷と思われる傷。
本来ならば戦闘不能……いやそれどころ致命傷でもおかしくないダメージ。
……そのはずだ。 しかしラズエルは、そんな傷ですら意に介した様子はない。
それどころか――――
「塞がっている? あの傷が?」とトールは気づいた。
「ん? 傷を塞ぐくらい治癒魔法を使わなくても容易いことよ。さすがに腕は再生できぬがな」
彼は気の効いたジョークを言ったかのように笑う。それからこう続けたのだ。
「改めて、久しいなカエリ。よく我が四天王の1人ラズエルを倒した。驚いて本体である我が出てくるほどだったぞ」
「貴様……一体、いや、その魔力はまさか……」と動揺を見せるカエリに対して、
「ん?んん?」と怪訝な表情を見せるラズエルだった者は、
「そうか、これは失敬。貴様ら人界でいう四天王とは4人の有能な人間だったな。もっとも我は、自ら分断させた4つの精神の意味で使っていたわ」
「やはり、貴様の正体は!?」
「あぁ、我こそが魔王本人よ。なに、そう驚く事もなかろう……亜人戦争が暇すぎでな。一足先に人界に来てみただけの事よ」
愉快そうに笑うラズエル――――いや、魔王。
それと対極的にカエリの表情には絶望が浮かんでいた。
「どうした剣聖、そんな浮かない顔をして? なに、心配ないさ。ここで我を殺せば、全人類が望んだ幸せが手に入るぞ?」
そう言うと魔王はフィンガースナップ……パチンと指を鳴らす。
「なぁに、そう案ずるな。我とて手負いではあるが、病魔に侵されたお前相手に全力出すのも大人気ない……剣で勝負だ」
それを証明するかのように時空が歪み、何かが落ちるように出現した。
それは剣だ。そのまま4本の剣が床に突き刺さった。
「うむ」と魔王は一本の剣を手に握り、他の剣にも魔力を剣に流していく。
「部下たちは人間を弱者として見下している、かつて人界での戦争は、その油断がために命を落とす者が多くでた。だが、我は違う。貴様ら人間の技を評価している」
魔王は確かめるように剣の素振りをする。すると、床に突き刺さっていた剣も浮遊して、様々な動きを見せた。
まるで、魔王が4本の見えない腕で剣を操っているように――――
「腕を一本失った代わりだ。魔力で剣を操る四刀流……まさか卑怯とは言うまいな?」
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