第99話 温泉回 グリアの愚策
「「「いらっしゃいませ」」」
その声は、その動作は一糸乱れない。
まるで軍隊のように訓練され、洗礼された動作。
きっと、自然と頭を下げたいと思うから感謝なのだろう。
宿泊先に到着したトール一行たち。 旅館には女将らしき人物が中居さんを引き連れての挨拶によって迎えられた。
「す、凄いですね。 少し、圧倒されてしまいました」
「あら、王族のレナちゃんでも圧倒されるものなの? この温泉地は貴族や王室御用達だから、迎い入れる側もそりゃもう……精鋭揃いよ?」
グリアは貴族出身なので、そこら辺は詳しいのだろう。
もしかしたら、何度か来ているのかもしれない。
「それでは、荷物をお持ちします」と誘導され、部屋に到着する。
「こちら朱雀の間になります。ごゆっくり~」
この時、グリアの脳内には――――
(計画通り)
邪悪な笑みを浮かべていた。
父親、ブレイク男爵は到着時にこう言っていた。
『――――無論、今からなら変更を効くぞ』
この時、ひっそりとグリアは部屋の予定変更を伝えていたのだ。
実の父親相手に、年頃の女の子が男性と一晩同じ部屋で過ごすと伝える。
ブレイク男爵の心情を察するに余りあるが……もはや、勝利のために羞恥心と言うものはない。
(くっくっく……まさか男女3人が同じ部屋とは思うまい。最初は抵抗がありながら、もう変更はできない。このまま、なし崩し的に夜を迎えれば――――合法的に3人は肉体関係へ!)
しかし――――
「うむ……男女3人で相部屋か。こういう場所では珍しいな」
「そうですね」
トールとレナは気にした様子はなかった。
(これは照れ隠し? ――――いや、ち、違う!)
グリアは気づいた。
トールとレナは生粋の冒険者だ。 ならば、日常――――男女が共に寝るのは過酷な冒険者稼業において日常に他ならぬ。
まさに皮肉。 羞恥心を捨て去っていたを思っていたグリア。
その実――――真に羞恥心がなかったのは彼女ではなく、トールとレナだったという皮肉。
(いや、まだだ……まだ、終わりはしないよ!)
「トールさま、レナちゃん、こっちを見てください! 凄いですよ内風呂です。みんなで入りましょう!」
外へ繋がるドアを開ける。 なんてことでしょう! この旅館は部屋ごとに露天風呂が完備されているではありませんか!
「いや、凄いけど……普通はみんなでは入らないだろ?」
「そうですよ! 男女が一緒にお風呂なんて……は、はしたないです」
両者、ドン引きの対応。
「ぐっ……!?」とグリアに受けた精神的ダメージ。 決して軽傷ではすまない……
「そ、そうですね。 もちろん、冗談ですよ、冗談。 それでは浴衣を持って温泉巡りに行きましょうね」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「困りましたね。まさか、完璧に思えた計画が到着して1分も経過する間もなく全壊してしまうなんて……」
頭を抱えながらトコトコと歩くグリア。先行するレナとトールは、
「見てください。これ、足だけ入れる温泉みたいですね」
「足を温める事で血行を良くなり、全身が温まるのか……なるほど」とトールは立て看板に書かれている説明を読み、1人で納得している。
「呑気ですね……いえ、これが正解かもしれませんね。もとより、2人の疲労を癒すための旅行ですから」
もう、これでいいか……と納得してきたグリアだった。
しかし、この時、彼女に天啓が下りた。
「はっ! そうだ! この手がありました」
ニコニコニコニコと満面の笑み。
足湯でキャッキャッと楽しんでいるレナに近づいて、
「さて、レナちゃん、最初の温泉にいきましょうね!」
「え? あれ? グリアさん、もう少しだけ……あれ?」
新しい計画。 グリアは……
(くっくっく……覚悟しておいでくださいねトールさま、レナちゃん。今はまだ……本番は夜! 温泉で癒しと疲労が同時にやってくる、その瞬間!)
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