第62話 スックラ後継者決定戦!?

「さて」とルキウス王も席に座る。 それから、目を向けたのはレナだった。


「まずは、すまなかったな」と頭を下げたルキウス王。


「いえ、そんな! 頭をあげてください」


「いや、そなたの処遇は、全て俺がふがいないばかりに……すまなかったな。レナ姫、いやレナ・デ・スックラよ」 


「い、いけません!」と勢いよくブレイク男爵が席を立った。


「他ならぬ王自ら、その名を出せば彼女の存在を認めた事になりますぞ!」


「下がれ、男爵。 元よりそのつもりよ……事態は、お主が思っているよりも深刻に進んでいるのだ」


「――――っ! 一体、何が……」


 それ以上、言葉が出なかった男爵は再び席についた。


「この国、ブラテンは未曽有の危機に見舞われている。皆の知っての通り旧スックラ領は周辺の国家4か国で分割管理していた。 しかし、この国を除く3か国が領土の所有権について裏で動き合った」


「侵略でしょうか? しかし、それならば情報が――――」


男爵の言葉に「いいや」とルキウス王は首を横に振る。


「分割した領土を1つに戻し、旧王族に返却を申し出て来た」


「――――馬鹿な、王族の生き残りなぞ……」


「1人しかいない」とレナを前に口を止めた男爵だった。


「その通り……否、そのはずだった。奴らは過去、数千年の歴史から本物かどうかわからぬ王族の末裔を用意した」


「王族の……末裔ですか?」と反応したのレナだ。


 自分以外に正統とされる王国の後継者。 それが偽物の可能性すらあるとすれば彼女の心情はどのようなものだろうか?


「だから、3か国は――――事もあろうに王族による後継者決定戦を表明したのだ」


「後継者決定戦!?」とそれぞれが驚きの声を上げた。


「うむ、有するに――――分割したスックラの領土を1つに戻し、傀儡として王を置く」


「無論、仮初の王だ」と吐き捨てるように加えたのは王としての矜持か?


そしてルキウス王は、こう続けた。


「そうして、勝ち残った1か国のみがスラックスを実質支配を行うのが――――各国王の目的」


「待ってくれ。それに、後継者決定戦にレナを出すつもりか?」


「いいや、違うぞ。トール・ソリット」と王は首を横に振る。


「国の再建に後継者同士が直接殺し合うなど、3か国が行おうとしても他の国が介入するだろう」


「――――決闘代理人か?」


決闘代理人。それは、当事者の代わりに決闘を代行する者たちだ。


「うむ、俺はその決闘代理人にトール・ソリット。お前を推奨する」


しかし、その言葉を止めるようにブレイクが


「我が王、それは――――」


「黙れ、ブレイク。ならば、この国からトール以上の強者を用意できると言うのか!」


「――――」と一瞬の沈黙の後、覚悟を決めたように


「はい。このブレイクならば、トール以上に強き者を……まして信頼できる人間を用意しましょう」


 これには「ほう……」と王は笑みを浮かべる。


「ならば決めるか? 誰が、決闘代理人として相応しいか? 誰が、後継者決定戦に出場するのに相応しいか? 予選としてブラテン代表者を決する戦いを行う!」


「わかりました。命を賭けて、最強の戦士を用意して見せましょう」


「面白い! ならば俺自らも出場しよう! 貴様らは挑戦者。俺は文字通りの王者として迎え撃つ――――それからレナ姫!」


「は、はい!」


「どんな手を使ってでもトールを勝たせよ。 他国にスックラの領土を総取りされるくらいならば、先祖の土地を返却してくれるぞ!」


「――――帰れる。私の祖国に、みんなと暮らした場所に……」


 レナの瞳に涙が溜まる。 それを満足気に頷き、席を立つルキウス王。


「無論、それなりの見返りは貰うがな……それでは皆の者。報を待つがよい!」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「それでは、そろそろお帰りいただきたいですね」とハイド神父。


相手はブレイク男爵と猟犬部隊。 さらにコリンに対しての言葉だ。


「命拾いしたな。本当なら貴様らまとめて捕縛して牢獄送りだったぞ」


「できますかね? なんだったら、今この場でも構いませんよ」


「ふん、止めておこう。王に歯向かうわけにはいかない」


「引くぞ」とブレイク男爵は部隊の引き上げを行う。 それから思い出したかのように、


「グリア、お前は本当に――――」


「はい、トールさまと一緒にいます」


「そうか……もしも、スックラを彼らが取り戻したらお前は――――いや、言うまい。お前もわかっての選択だろう」


「そうですね。ですが……もしも、全てが終わったら、実家に挨拶へ行きます」


「ふん、もう実家と呼ぶのか。いつでも帰ってきない。いつだって、あそこはお前の家だ」


「はい、お父様」と親子は、それだけ言葉を交わして別れた。


 

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