第56話 竜巻鮫との海戦


 竜巻鮫シャークトルネード


 それは自然災害と同質……嵐や台風と同じ物とされている。


 ――――いや、そもそものきっかけは嵐や台風により怒り狂った精霊。


 水の精霊と風の精霊が入り混じり、その人格が消滅。


 それに巻き込まれた生物と融合して魔物と化す。 しかし――――


「デカい。本当に白鯨モビィデックと同じくらい」とトールは呟いだ。


 その大きさは鯨と同じ。 そして、白い鮫が宙を浮いていた。


 まさに変質した怪物―――― まるほど、そこまで異常に変異した個体ならば、3か月も嵐を、この地に及ぼす事も可能だろう。


 ギロリと視線をトールたちの船に向ける。そして、信じがたい事に竜巻鮫は口を開いた。


 「おぉ、人間。そなたらは人間であるか?」


 「……喋った。 あぁ、俺たちは人間だよ」


 「初めて見る。大地に住む者……広大なる海に相対する者たちよ」


 「……」


 「ならば、我は贄を求める。 年に1度、子供たちを船に乗せ我に食わせろ」


 「なるほど……じゃ、ここでお前を滅ぼさないといけないな」


 「……くっくっく、はっはっは! 矮小な人間が我を滅ぼす。笑わせるでは――――」


 だが、竜巻鮫は言葉を途絶えさせた。 トールの横――――ハーマンが銛を投擲したのだ。


 「じゃかあしい。白鮫なんて紛らわしいじぁ! 精霊の力を得て増長してんじゃねぇぞ」


 すかさず、2本目の銛。


 その銛にはロープが繋がっている。そして、ロープの先は船と繋がっていた。


 竜巻鮫に突き刺ささる。 竜巻鮫が、どんなに逃げようとしても船からは逃げれないだろう。


 しかし、問題は、竜巻鮫に逃げる意思はないという事だ。


 「人間ごときが、我に痛みを与えるか!」


 その白い体が光る。 光の正体は魔力。 


 船を飲み込みかねない巨大な水の塊が発射された。


 「水球アクアボールと同じ魔法か。もっとも威力は違うが――――斬れる!」


 トールは船から飛びだし、竜巻鮫と繋がったロープの上を駆けだすと


 『ソリット流剣術 魔法龍の舞い』


 「なっ! 魔法を切断しただと? 人間がっ!?」


 「いや、流石に人間を舐め過ぎだろ」とトールは剣により一太刀を浴びせる。


 「おぉ! あの竜巻鮫を斬りやがった! あれが、あの強さが冒険者か」


 絶賛するハーマンだったが、「ご冗談を」と船の上。グリアは笑みを浮かべて呟く。


「あれは、私の旦那さま、トール・ソリットだからこそ可能な妙技……私でもできるかどうか……ですわ」


「ほう、オタクはアレの嫁だったか。とても、そうは見えなかったが……」


「それは見る目がないだけ――――」


「あの……何が起きているんですか? 船底だと、よくわからないのですが――――」とレナが出て来た。


「う、浮いてる鮫!? トールさまが戦っている。 どうして呼んでくれないのですか!」


「ん~ そうね。 それじゃ、そろそろ助太刀に行きましょうか?」とグリアも剣を抜いた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


空中歩行エアウォーク


 空中に足場を生み出す魔法で空を駆けるトール。


「おのれ! 人間が」と竜巻鮫。


 その巨体ゆえか、自ら肉体を使った攻撃を行わない。 基本的には水と風の魔法による攻撃。


「その風貌に似合わず、魔導士か。 魔導士対決だな」とトールは剣を輝かせる。


「黙れ、貴様のような魔導士がいるか!」


「ふっ、お前に言われたくはないさ!」


竜巻鮫の攻撃魔法が連続でトールに降り注ぐ。 それを剣によって切断するトール。


(だが、これが精一杯。攻撃が成功したの最初の一刀のみ……こうも魔法の弾幕を張られると、接近に持ち込めない……か!)


そう思った、次の瞬間だった。


「むっ!?」と竜巻鮫。


「これは!」とトール。


 竜巻鮫の魔法威力が落ちた。 それどころ、周囲の嵐がおさまったのだ。


 「これは……レナの結界か!」


 船に視線を動かす。 そこには杖を構えたレナが―――― 


 『聖なる領域サンクチュアリ


 結界が、竜巻鮫とトールを覆い尽くす。加えて――――


 『聖なる光ホーリーライト


 固定砲台のようなレナの魔法が飛ぶ。


「くっ……ならば、あの小娘を先に喰い殺して――――」


「それはさせてあげませんよ」とグリアの声。


 なぜ、彼女まで空中に? そう思うかもしれないが……


華の盾フラワーシールド』 


 レナの防御魔法を足場にして立っていた。


 そして、拳に気を浸透させた打撃を――――竜巻鮫に叩きこんだ。




 

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