第39話 帰り道。 グリアの覚悟?

 肉が焼ける匂いが周囲に漂う中、なわなわ……と震える科学者。


「ま、まさか、ワシの人工魔物キメラが……いや、全ての人工魔物が踏破される日が来るとは」


「え? 今まで、誰も成功していない依頼だったのですか!」とレナは天を仰いだ。


「おぉ、その通りじゃ!」と科学者は笑みを浮かべる。どうやら、震えていたのは歓喜から来るものだったらしい。


「ついに、成功者がでてきた。 高まるぞ! 想像力が高まる!


 なるほど、なるほど、口内で直接的に魔法を発射する。うむ? そもそも、その馬鹿げた魔力はどうやって手に入れた?」


 トールの方を見ると迫るように質問してくる科学者。


 「ん~」とトールは視線を逸らした。 


 彼の魔力の鍛錬法。 思い出すのは牢獄での鍛錬。


 夜な夜な看守が見えなくなると、細工をしていた手枷と足枷を外していた。


 歯で指の皮膚を切り、血を流して地面に魔法陣を描く。


 そこに座り魔素を感じながら目を閉じる。 鍛錬法としては基礎中の基礎。


 しかし、それを10年間休まず、毎日、長時間行う。


(まさか、そのまま言うわけにも…… それに基礎だけの鍛錬って信じられないだろうなぁ)


「……」と無言のトールを見て、どう勘違いしたのか科学者は、


「うんうん。そうか、そうか! 流石は魔導士! 手の内は明かさぬという事か!」


「かっかっか……」と笑いながら「お主の名前は?」と尋ねる。


 一瞬、グリアの方を見て躊躇したが、


「トール・ソリットと言う」


「おぉ、その名はしかと覚えたぞ。次は必ず、指名で依頼させてもらう。 その技を再現させてみせよう」


「へっへっへ……」とまるで、いたずらっ子のように笑いながら、科学者は帰っていく。


 その姿が見えなくなった頃、グリアが思い出したように――――


「あっ! しくじった! これ以上、被害がでないように捕まえて、憲兵に突き出さないといけなかったわ!」


 そう頭を抱えて、しゃがみ込んでいたが、 


「全く、とんでもない依頼だったわね。これ、冒険者ギルドへの監査とかで済む問題とは思えないのだけれども……まぁ、なんとかなるでしょう」


 彼女はため息をつきながらも笑みを浮かべた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 帰り道。


 気まずい空気が流れる。


「どう誤魔化しますか?」とレナは声のボリュームを下げてトールへ言う。


「うむ……やっぱり、同姓同名の別人設定を――――」


「何を2人で話してるの?」


「グ、グリアさん!? 今の話聞いてましたか!?」


「いえ、内緒話に聞き耳を立てるのは淑女として有るまじき! って言われて育ちましたので」


「本当は聞こえていても、正直に言う事はありませんわ」とグリアは呟いた。


 それからトールの方を向くと


「そうそう、貴方に聞きたかった事があるのよね」

  

「俺になんだい?」


「貴方は今、幸せですか?」


「――――ッ!? あ、あぁ、そうだな……」とトールは誤魔化すように視線を外す。


それから――――


「今は幸せだよ。 こう言ったら恥ずかしいけど青春ってのを感じている」


「青春ですか?」


「あぁ、やってみたかったんだ。 平和な世界で、冒険したり――――」


「友達を作ったりですか?」


「友達……あぁ、いいよな。そういうの」


「そうですか、わかりました」


「?」とトールは、どういう意味か聞き返そうとも思ったが――――


「そろそろ、出口が見えてきそうですね。今日は楽しかったです。もしかしたら私にも、冒険者になるなんて選択肢があったかもしれまんね」


「――――そうか。冒険者として、そう思われるのは、少し嬉しい」


 そうして、トールたちとグリアは別れた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 翌日、トールとレナは冒険者ギルドに向かったが、


「なんです! この人だかりは!」 


 レナは人込みに流されて行きそうなりながら、悲鳴のような声をだした。


「なんでぇ、お嬢ちゃん知らないのかい? 今日はギルドが閉まってるみてぇだぞ」


「閉まっているのですか? ギルドに休日があるなんて初めてしりました」


「がっははは……ちげぇよ。なんでも監査に引っかかって、業務停止命令だとよ! 保管されている内部資料を没収されて、確認と業務改善命令が出るまで2~3日は開かねぇてよ」


「あ、教えてもらってありがとうございます」とレナは頭を下げて、人込みから離れていった。


「監査って……グリアさん、本当にやっちゃったみたいですね」


「まぁな。アイツならやるだろう」


「何? トールさまは、私の事をそんなに知ってるつもりなわけ?」


「むっ! グリア? どうしてここに?」


「どうして? ギルドを調べるのが私の仕事だからね。 それと、もう少し、この町にいる事にしたのよ」


「……そうか。それは、理由を聞いてもいいのかい?」


「いいわよ。理由は単純、貴方に興味があるからよ。これから貴方の徒党パーティに参加させてもらうからよろしくね!」


「お前、もしかして気づいてるのか?」


「……あはっ、何を今さら言ってるのよ」


「――――ッ!」


「それから、アンタに言わなきゃいけない事があるの」


「それはなんだ?」と覚悟を決めたトールに対してグリアは――――


「私と結婚してください」


どう考えても、間違う事のないプロポーズの言葉だった。


思考がついてこないトール。 思考がついてこないレナ。


2人は、同時に――――


「「はぁ!?」」  


叫び声を上げるのだった。

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