第30話 なぜか始まるレナとグリアの冒険
掲示板に貼られた依頼を眺めるレナ。
「では、これを……」と取った依頼をグリアに見せる。
「え? 薬草狩りなの?」
「はい。でも依頼を一緒に受けるなら、戦闘のない依頼の方が良いかと思いまして……」
「ふ~ん 私に遠慮したって事ね。そんなの必要ないわよ」
彼女は掲示板に手を伸ばして「これにしなさい」とレナに手渡した。
「これは魔物討伐……え?」とレナは固まった。
推奨ランク A
討伐対象
「これAランクが推奨になってますが?」
「え? だから、アンタはAランクでしょ?」
「あっ……すいません、新しく更新されたので失念していました」
「あぁ、何か武勲を数多く立てて上がってきたタイプなのね?」
「そう……言われると、そうかもしれまん。ですので、いきなりAランクは困ります。私は回復術士で支援職なので1人だと、非戦闘系の依頼でないと……」
「あら? 心配しなくても私が前衛してあげるわよ」
「え? それは、監査にならないのでは?」
「そうかしら? 監査官が、対象業務を試すのは監査の業務範囲だと思うのだけれども?」
「そうなのですか?」
「そうなのよ! 決定だわ! 人工魔獣討伐ね!」
グリアは掲示板から依頼書を取り、受付窓口に向かった。
「ちょっと待ってくださいよ!」とレナは後ろを追いかけた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
はしゃぐように歩くグリアにレナは――――
(これは……困った事になりました)
グリアがいなければ、その場でうずくまって頭を抱えているような状態だ。
(本当ならトールさまと2人用の依頼を受けて帰るだけでしたのに……トールさま、申し訳ありません)
「ところで、これなんだけど……」とグリアの声で、レナは現実に引き戻された。
「はい、地図ですか?」
「えっと、ここが冒険者ギルドよね。今は、ここを歩いているわけだから、目的地は……ここ?」
「いいえ、あの今の道は、ここですので……目的地はここです」
「凄い! 流石は本業の冒険者ね。 地図の確認なんて完璧じゃない!」
「そのくらいでしたら……」とレナは動揺する。
(か、考えてみたら、グリアさんはブレイク男爵のご息女。 1人で地図を見ながら歩く経験も初めてかもしれませんね)
そう思うと、肩かた力が抜けた。
「地図というのは、この位置で大まかな方向を見ます。 そして、左右の線を見比べて……」
「凄い! 凄い!」と簡単な事で喜び興奮するグリア。 そんな彼女に警戒心を解き始めたレナだった。
そこそこの距離を歩き、目的地に到着した。
「ここが
目的地は、町の外れの建物。
「はい、元々は病院の研究施設として使われていた建物だそうです」
「ふ~ん、そこで人工的に魔獣を改造したヤバイ奴がいたってわけね! さぁ、いくわよ! レナちゃん!」
「ち、ちょっと待ってくださいよ! 簡単な打ち合わせもまだです!」
「そんなの出たとこ勝負でしょ!」
「もう無茶苦茶ですよ! そもそも監査目的だったのでは?」
「あっ……忘れていた」
「……」とジト目で見つめるレナだった。
「でも、打ち合わせって? 私が前衛。貴方が後衛で終わりでしょ?」
「いえ、違いますよ! 互いに使える魔法と確認したり、
「……そっか。私、監査に来てよかったわ。冒険者の事、何も知らなかった。ねぇ、もっと教えてよ!」
目をキラキラとさせてくるグリア。 レナは若干、引き気味だったが、悪い気もしなかった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「います」と短く声で指示をレナが出す。
前衛と言っても、いきなりAランクの依頼だ。グリアを前で自由に歩かせるわけにはいかない。
だから、基本的にはレナが様子を窺いながら先行して、魔物の姿を確認したらグリアが――――
「ヤッホー! 行きますわよ!」と一気に前方に飛び込んでいく。
グリアの手は剣。 刃は太く、大剣に部類される剣だ。
彼女の目前には、黒い狼のような魔物。 名前も、そのまま
好戦的であり、瞬発能力の高い魔物だ。 それも――――3匹。
「まずは……1匹ですわ」
瞬殺のダッシュ斬り。
走りながらも剣先がブレない剣技。 鮮やかとも入れる技で最初の1匹を葬り去る。
しかし、1匹目は奇襲による攻撃。 残り2匹は、襲撃者を確認して戦闘態勢に移行している。
「UUUGURUGURU……GURUGURU……」と唸り声。
極端な前傾姿勢から、飛び掛かってくる。
人間の頭部くらいなら簡単に飛び越えるジャンプ力。
それを使い、頭から食らいつくようように
「遅い……遅すぎですわ!」
グリアはしゃがみ込むように低い体勢で黒狼の攻撃を回避。 低い体勢で滑るように移動。
一瞬で黒狼の背後を取ると薙ぎるように剣を振るい――――
「2……いや、3匹目も同時に倒せましたわね」
「わ、私のする事がありませんでした」とレナ。
彼女は思い出す。 彼が慕うトールが言ったグリアの評価は――――
『俺でも勝てるかどうか……』
その時は、何を大げさな……と思っていたけれども、
「この人、本当に……」
その後に続く「トールさまよりも強いのかもしれない」と言うよりも早く、グリアが見ている事に気づく。
「本当に? なにかしら?」とグリアは、髪を整える余裕を見せながら聞き返してきた。
「い、いえ、なんでもありません」
「ふっふふ……面白い子ね。さて、どんどん行くわよ!」
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