第16話 大型魔物討伐へ 雪キャンプ?

 トールたちが住む中央都市から、北に行けば北の町…… 南にいけば南の町……


 この国は4つに分かれている。 ――――いや、正確に言えば旧スックラ領がある。 魔王の死後、スックラ討伐戦争に加わった4つの国が分割支配する領土となっている。

 

 しかし、スックラを治める正統なる……そして最後の王族である少女――――レナ・デ・スックラはここにいる。


「冬のようだと聞いていましたが、こ、これほどでしたか……」


 自分の体を抱きしめるように震えに耐えるレナ。


 北の町へ到着すると2人は、目的へのルートに馬車を選択した。


 馬車の小窓から外を見れば、そこは雪国だった。


「まだ、マシなくらいだ。あと2、3か月のすれば本格的な冬になる」


「これから気温が下がるのですか! 住んでる人は、どうやって生活を?」


「まぁ、そこは雪国の知恵だな…… あるいは大体は冬を迎える用意をして家に籠るとか……」


「私には、ここに住む事はできないかもしれません」


 すでにトールとレナは情報を集め、討伐目的の大型魔物の正体を掴んでいた。


「そろそろ目的地です」と馬車の従者の声。


 レナは――――


 (どうして、この真っ白な景色で目的地がわかるのでしょうか?)


 そう素直に疑問に思った。 

 

 冒険者ギルドからの特別指令ミッション 『大型魔物討伐』


 そういう理由もあり、選ばれた従者もただ者ではない。


 元冒険者だ。 それも凄腕……元のランクは、Sランク冒険者だそうだ。


 今は冒険者の案内役を兼ねて馬車を操っている彼だが、中央都市で活躍した経歴である。


 しかし、だからと言っても雪国に特化した能力はないはずだが…… 


 なんの目印もなしに目的地に向かえるのは、長く雪国に住む者が有す知恵と経験測にようものなのだろう。


 やがて……馬車が止まった。


 従者は「この近くで大型魔物の目撃例が相次いで報告されています」と言う。


「そうか……」と呟いたトールは装備や荷物の確認を素早く終わらせ、


「ここで降ろしてくれ」と外に出た。 慌てて準備をしたレナも後に続く。


 白銀世界に足跡を残したトールとレナ。


「ご武運をお祈りします」と馬車は道を引き返していく。 

 

「さて――――」とトールは、重装備を言える荷物から、何かを取り出した。


「魔物を引き付ける餌……ですか?」


「あぁ、周囲に魔物がいないのは、目的ターゲットがあまりのも強すぎて生態系が乱れているからだろう。だから、大型魔物は腹を空かせている」


「つまり、大型魔物が他の魔物を襲って食べているという事ですよね?」


「その通りだ」


「それなのに……この周辺で食べ物魔物の気配がないと言う事は……」


「近い内に、獲物を求めて人里に近づいて行く……そう言う事だ」


 無論、それは人を食料にするために村を襲うと言う意味だ。 


 大型魔物に分類される生物の戦闘能力はAランク冒険者10人で、ようやく討伐できる強さ。


 もしも、村が襲われれば、大規模な自然災害に等しい被害に見舞われるだろう。


「では、必ず成功させないと……」とレナは自分の杖を強く握る。


「……そうだな」トールは微笑み、レナの緊張をほぐすために頭を撫でた。


「さて、大型魔物はその巨体から出現に前兆がある。餌に釣られて出現しないのであれば俺たちは、この雪の中で目的ターゲットを探索しなければならない」


「見つかりますか? この白一色の世界で?」


「……長期戦になるだろうな」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


雪国の野営キャンプは過酷だ。  


雪を強く踏みしめ、硬くした地面をブロック状に切り取る。


これを積み上げて壁にする。 風や雪から天幕テントを守る必要があるからだ。


魔導士なら、金属に熱を通して簡単に雪のブロックが作れる。


いや、それだけではなく大抵の力仕事は魔力を使って簡単にできるのだが……


しかし、いつ戦闘になるかわからないため、魔力は極力温存しなければならない。


それは体力も同じことだが、薄っすらと汗が浮き出る重作業になってしまった。


トールは慣れた手つきで雪の壁を完成させ、天幕を張った。


「これで、寒さを凌げるのですか?」とレナは不安げだった。


「もちろん、これだけじゃ危険だ。 解氷効果のある薬品を天幕にかける必要もある。 あっ……そこの空間は、火を焚いて食事を作ろう」


「流石に慣れてますね」


「あぁ、今の冒険者は、もう少し便利な道具があるんだろうけど……俺は、こういったやり方しか知らないのでな」


「いえ、凄いと思うます。こんな工夫だけで……ってやっぱり中も寒いじゃないですか!」


 天幕に入ったレナが驚きと抗議の声を出した。


「風や雪から身を守れる分、まだ救われますが……」


「いや、暖房ストーブを使うんだ」


「暖房ですか? 煙とか大丈夫なのですか?」


「室内用で使われる暖房の小さな型だ。燃える水を燃料にするから中毒の危険性もない」


「それでも換気の必要はあるが」と付け加え設置を始めるトールをレナも手伝った。


「凄い! 温かくなってきました!」


 氷点下の中での作業。 気づかぬ内に、冷えた体は体力の消耗も激しくなる。

  

消耗した体力を回復するように2人は簡易な食事を口にした。


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