第13話 追跡者?

 暫くは新人冒険者らしく薬草狩りからスタートしていたトールだったが、今は――――


「えい! こっのをぉぉ!」とレナは叫びながら杖を振るう。


 標的ターゲットは盗人うさぎと言われる魔物。


 レナの杖を躱した盗人うさぎは


 「KISIKISI……KISIKISI……」と嘲笑う。


 盗人うさぎと言うと可愛らしい容姿を想像するかもしれない。


 事実、うさぎとよく似ているのだが……その種類カテゴリーは、ゴブリンだ。


 進化の過程でゴブリンと枝分かれした魔物。


 冬の雪山に住む生態から、毛に覆われた体。 瞬発性を生かして、人里に下りては田畑を襲う。


 今回は、近くの村に大量発生したため冒険者ギルドへ討伐依頼が来た。


「そちらに行きましたよ!」とレナは叫んだ先には――――


 トール・ソリットがいた。


(いかに俊敏とは言え、杖に仕込まれた剣撃ならば容易い……だが、ここは――――)


地面に両手をついて、魔力を放つ。


土刃グランドエッジ


地形が変わるほどの魔力。 せり上がった土岩が切れ味を有して、左右から盗人うさぎを襲う。


「KISI!? GIGYAAAAAAAAAAAAA!?」と断末魔が上がった。


「まずは一匹……次は、そこだ!」


視線の先、二匹目の盗人うさぎへ狙いを定めて――――


火矢ファイアアロー


炎の矢。 トールの精密射撃が盗人うさぎの体を貫き――――


「トールさま! 駄目です。トールさまの魔力では……」


「あっ!」とレナから言われて気づく。


 初級魔法のつもりで放った『火矢』は目標を貫き、そのまま地面に接触すると――――


 豪快な火柱が立ち上がる。


「あっちゃ……威力がデカすぎた」


 土属性と木属性の魔法を使うと、抉れた地面を埋め直す。ついでに焼けた地面に草木を再生させた。


 新人魔導士としてトール・ソリットの弱点。


 魔力が高すぎるため、『初級魔法』ですら『極大魔法』と見間違うほどの威力になってしまうのだ。


「う~ん、妙だな。 10年の鍛錬で魔力の精度は、それなりに高いって自負があるんだけどな」


「確かに、おかしいですね。トールさまなら、威力調整も完璧にこなせそうですけど……」


「原因があるとしたら……」とトールは自身の服装をみた。


 魔法の媒体となる杖。剣が仕込まれているが、それ以外に奇妙な事はない。


 服は、魔導士として基本的な――――しかし、それなりに効果な物。


「いや、待てよ。 確かハイド神父は、装備を渡す時に……いわくつき一品だと言ってたな」


「神父……それは嫌な予感がしますね」


 レナは世話になっているハイド神父を尊敬しているが、信頼はしていないようだ。


「……仕掛けがあるとしたら、このマントか?」


 トールはマントを外して、ぱたぱたと振る。 それから、透かすように太陽にかざす。


「ん? 何か奇妙な……いや、待てよ。この素材は……吸血鬼だ」


「はい? なんですって?」


 あまりにも唐突なトールの発言に聞き返すレナ。


「これは吸血鬼が力を開放して、巨大吸血鬼になった状態で倒して封印……そのままマントに加工したものだ」     


「えっと……それじゃ、そのマントは生き物なのですか?」


「いや、まぁ吸血鬼が生き物か、それとも死体リビングデッドかによるが……」


「それはダメなのでは……非常に危険な物では?」とレナは若干引いたようで少しだけ後ずさった。


「まぁ、とりあえず昼間は問題ないかな? 夜に血を与えたりしたら、危険だけど」


「それ、夜中に依頼を受けるのは危険ですよね?」


「よし、緊急性はないだろうから、帰ったら対策を考えよう」


「あっ……そのまま、装備するのですね」


 再びマントを装着したトールにレナは、そう言った。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 冒険者ギルドに依頼達成の報告に戻ってきた2人。


「だから! ここにいるんだろが!」と近づくと怒声が聞こえて来た。


 珍しい事ではない。 ここは冒険者ギルドだ。荒くれ者の冒険者も多い。


 だから、気にせずにギルドの中に入ったのだが……


「なぜだ!? 奴は逃亡者だぞ! 個人情報だ? 知るか! 早く……


 早く、トール・ソリットの情報を出せ!」


 「……」とその声が聞こえた瞬間、トールは気配を消して隠れた。


 対応している受付嬢も困った顔をしながら――――


 「確かに、罪人であるトール・ソリットが冒険者として活動しているなら問題ですが、同姓同名の別人だとギルドは確認済です。 無関係である以上は……」


 「だまれ! 関係あるか、ないかは俺が判断する事だ!」

 

 随分と威圧的な態度。


 何者か? トールは観察する。 するとレナが――――


「賞金稼ぎでしょうか? トールさまの名前を聞いて捕まえに来たとか?」


「うん、その可能性はあるが……どこかで見た事があるような気も……」


「彼、看守だったみたいですよ。トールさん、知ってます?」


「あぁ、それで見覚えが……ってリリアか」


 振り向けば、ギルド長リリアが近くで身を隠していた。


「なんで、お前まで隠れている?」


「いや、このままだと、責任者を! ギルド長を出せ! って言いそうじゃないですか? とりあえず居留守を貫こうと……」


「大丈夫なのですか? ギルド長が、職務から離れて」


「いいえ、むしろ業務が溜まっていたからサボるチャンスだったので」


「……」とトールは残念な視線を送った。


「とりあえず、このままじゃ埒が明かないので、ギルド長室に戻りますが、2人も部屋で休みますか? 飲み物くらいなら出しますよ」


 トールとレナは依頼帰りで、疲労がないと言えばウソになる。


 元SSSランク冒険者であるトールであったが……いや、だからこそ、依頼中は気を張り続けるため肉体的疲労はともかく、精神的疲労は少なくなかった。


「それじゃ、お言葉に甘えよう」


 3人は身を屈めた状態で2階へ移動を開始した。 

  

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