「ヒント、やるよッ……!」

 俺は言った。この情報は使える……! 駆け引きだッ……!

「ヒント。五十円玉のギザギザの数は、120本だ」

 さあ悩め。苦しめ……! 五十円玉が120本なんだぞ? 百円だっていかにも同じっぽいだろ? あるいは……。

「フフッ……。それは、墓穴よ」

 少女は怪しく笑った。

「まずかったわね。既に120なんて割りやすい数は、候補から外れてるもの。だとしたらその情報は……」

 彼女は少し間を置いて、声を大きくした。

「ずばりッ、私をミスリードさせるため! 『五十円玉が120本なら、百円玉はもっとギザギザが多いんじゃないか』と思わせる。そういう意図がバレバレねッ。つまり、正解の数は、120より小さいというのが真実……!」

 畜生っ! このガキっ、どこまでお見通しなんだっ!

「73から144の間の素数の数は、14個だった。その中で120以下は10個。73、79、83、89、97、101、103、107、109、113、よ」

 10個……。いつの間にか、確率10分の1は負ける勝負になっている。俺は数字が読み上げられる間、正解の数に反応しないように必死だった。

「この中で……、101は、ありえないわね。『百円玉のギザギザの数は101本』、だったりしたら、トリビアとして広まってるはずだもの」

 残り9個……。少女は再び定規を眺めた。

「ギザギザの幅を改めて考えても、1ミリとか0.9ミリっていうのは太すぎる気がするわ。そうすると、7、80本は考えにくい……。89だと、ギザギザ0.8ミリ……。113だと、0.6ミリちょっとか……」

 少女はそう言いながら、メモ帳に書いた数字を、少しずつ斜線で消していく。

「候補は97、103、107、109。次点は89と113。こんなところかしら?」

 少女の言う通りだった。その数個の中に、正解はある。本命4つに対抗2つ……。サイコロでピンが出るより、確率高そうじゃねえか……!

「……決めたわ……。それじゃあおじさんも、覚悟はいいかしら?」

 少女はそう言って俺の目を見据えた。俺は今にも逃げ出したかった……。

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