ゴーレム野郎に聖剣は抜けない

腸感冒

ゴーレム野郎、ギニグにて

 グド・ヒーカンはゴーレム野郎である

 正確にはゴーレム野郎で、かつモヒカン野郎なのだが、その常軌を逸したトサカ頭については一旦棚にあげる。

 グドは物心がついてからこれまで、万を超えるゴーレムを生み出してきた。

 ゴーレム生成とは、属性としては『土』に分類される術式だ。魔力の籠った泥に行動パターン等を入力し、自在に操る技。高度なものになれば、擬似的な人格を植え付けることも可能である。

 実に奥が深い術、ゴーレム生成。幼い頃からこの妙技に触れ、研鑽に研鑽を重ねてきたグドは、だからとても優秀な回地者ローラーなのである。

「そんな優秀な俺なので、聖剣抜きに行ってもいいですか」

「駄目です」

 受付のお姉さんはあいも変わらず笑顔を浮かべ、ばっさりと彼のお願いを切り捨てた。

 本日二回目の切り捨てだった。一回目の切り捨てを食らってから、三分間にも渡って自分の優秀さをアピールしたのに、この仕打ちである。

 受付カウンターを挟みグドと向かい合う彼女は、肩に触れるほどの長さの金髪を揺らしながら、机の上に広げた資料をとんとんと叩いた。

「ここにも書いてあります通り、聖剣が刺さっているとされますフィルの丘は、ギニグワイバーン特別警戒地域です。行ったら最後、骨も残りません。もちろん、人の立ち入りは禁止されています。入地許可は出せません」

「大丈夫ですって、鍛えてますから」

 グドはその言葉に呼応するように、上腕二頭筋に力を入れた。ただでさえ大柄な彼の、ただでさえ分厚い腕が、服越しにも変化が分かるほど膨らんだ。

 それでもお姉さんの笑顔は動かない。口角こそ上がっているが、その青い目は触れれば凍るほど冷え切っている。

 これは困ったと、グドは灰色のモヒカンを掻く。

 なんせ、町役場の受付である彼女の許可を得なければ、大手を振ってフィルの丘までいけないのだ。それはつまり、意気揚々と聖剣を抜いて凱旋したら、不法侵入やら何やらでお縄になるということだ。

「……腕っ節だけじゃなく、装備にも自信あったりして」

 仕方なく、グドは上着を捲った。左腕の肘から先が露わになる。

 彼の太い前腕には、ガチャガチャと骨を重ねて繋ぎ合わせたような、真っ白い腕輪が巻かれていた。

「これなんか凄いですよ。素材はなんと天使の骨。軽くて丈夫な上に、ギミックも半端ない。世界獲れます」

「じゃあ世界で満足して、聖剣は諦めてください。『愚かなゴブリンは棍棒を二つ持つ』、欲をかくと碌なことになりませんよ」

 お姉さんは笑顔を崩さずに言ってのけた。あしらい方が板についている。役場の受付をしていると、面倒な来客の対応に慣れるのだろう。

 しかし、自分が面倒な来客扱いされるのは心外だ。

 グドはため息を吐いた。ここはやはり、主の名の下に強請るしかないか。

「あのですね。これでも俺は回地者なんですよ? かの地母神ティオラに仕える聖職者ぞ? 良いのかな、無下にしちゃって。神罰案件ぞ? 七代祟るぞ?」

「そちらの教義を詳しくは存じ上げませんが、ティオラ様の御身の上で、猿が石器持ってウホウホ言ってた時代とは違うんですよ。許可に必要なのは正式な書類のやり取りであって、主への畏敬の念ではありません。糞田舎の木端町役場の小娘と舐めてたらマジでぶっ殺しますよ」

「あ、すんません。出直しますぅ……」

 お姉さんの笑顔から殺意が見え隠れし始めたので、グドはすごすごと、役場を後にすることにした。

 幸先の悪いスタートだ。まさか、魔物ではなく行政職員が第一の壁になるとは。この町は、そういう土地柄なのだろうか。

 ここはギニグ。ワイバーンと、ほんの少しばかり聖剣の町。

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