シャツの店

@gokoutouki

第1話シャツの店

ここがシャツ専門のお店か‥

とりあえず入ってみよう。


や、つぎ?なんて読むんだこれ。

学校からの帰り道ふと店の看板を見るとこんな看板を見かけた

矢次發洋服店

その時は名前を読めないまま帰ったが、不意に思い出し母に名前の読めない店があったと話してみると。

あぁ、やじはつさんのお店でしょ。ここ最近になって新しくできたのよ。たしかシャツの専門のお店だったっけ…名前難しいから一度見たら覚えちゃうわよね。

と笑いながら話していた。

そこで話が終われば、この話は続かないのだがまだ話は続く。

この話をした翌朝家を出るときに。学校から帰るついでに母に自分用のシャツを追加で買ってきてこい。と言われて今に至るのだ。

とりあえず入ってみよう。

「いらっしゃいませー」

「あのう、新しいシャツを買いたいのですが‥」

「シャツですか!ほほう?お客様どんなシャツをお求めで?あ、私名前は木田矢次發といいます。木田が苗字で矢次發が名前です。

「はい、よろしくお願いします。え、と。学生用の白いシャツが欲しいんですけども。」

「学生用のシャツ…分かりました。じゃあこちらで用意しておきますので、しばらく店の中でお待ちください。」

店内は明るいカフェのような雰囲気でいたるところにシャツが綺麗に置いてある。こんなにシャツがあると何を選んだらいいか分からなくなりそうだ。…シャツの種類ってどんなものがあるんだろう。えーと、会社員用、幼稚園用、学生用…青いシャツ、ストライプ。生地が硬いもの、柔らかいもの…ん?なんだこれ…“重いシャツ“?

「お客様、ご用意できましたのでカウンターへお越しください。」

「あのう…木田さんこのシャツ何ですか?」

「これは…重いシャツ“ですね。御試着なさいますか?」

「え、じゃあお願いします。」

僕は重いシャツを手に取り試着室に入る。持っている感じは見た目通り軽いんだけど、これの何が重いんだ?

よ、と手を袖に通して、試着室に付いている鏡の前で自分の姿を見ていると急にぐんっと肩が重くなった。え?え!え?と驚いていると肩だけじゃなくシャツに触れてる全部が重く感じる。く、苦しい…お、重い…

僕はやっとことでシャツを脱ぎ店員さんに聞きにいった。

「木田さん!このシャツすごく重いんですけど!」

「そりゃそうですよ。“重いシャツ“なんですから。」

「はぁ?」

「このシャツはですね、私が開発した特別素材が織り込まれておりまして、ある一定の温度をシャツ全体に受けると重さが変わるというシャツなのです。私も長年いろんなシャツを開発してきましたが、いやぁ、これを開発したときはそりゃあもう嬉しかったですよ。なんせ注文してきた客が、なぁ、運動用に使えるシャツはないかと言ってきたものですから、そんなものあるか!とも言いたくもなかったので、なんとか硬い頭から捻り出して作ったもので、いやぁもう大変」

「あ、あのちょっと待ってください!」

「はい?」

「他にもあるんですか?」

「何がですか?」

「さっき言ってましたよねたくさんシャツを開発してるって。他にもあるんですか?」

「そりゃあ、ありますともたくさん作ってますからね。」

「他の変わり種のものってありますか?」

「はぁ?」

「いや、だからこの重くなるシャツみたいなものは他にもあるんですかって聞いてるんです。」

「ええ、ありますありますとも、例えばそうですね……あぁ、これだ。」

「なんですかこれ、画用紙かなんかですか。でもなんか袖を広げたシャツ見たいに見えますけど…」

「あ、わかりますか!あたりですよ。」

「え?」

「これもシャツなんです。」

「これは硬いシャツといいましてね、さっきの重いシャツとはまた違うもので。なんとこれは乾燥すればするほどシワがなくなるシャツなのです!シャツのシワをなくすというコンセプトでこのシャツをお作りしました。」

「へぇ〜…シワですか、確かにない……ですね。というか着れるんですかこれすっごく硬くて一枚の紙みたいなんですけど。」

「ええ、そりゃあ硬いシャツですから。」

「……………これ、ただ硬いだけで着れないじゃないですか!」

「いえ、着れますよ。このシャツはですね水分をかけると……ほら!」

霧吹きでシャツに水を吹きかける。

「あ!画用紙のようなシャツが見る見るうちに柔らかく…」

「ほら、これで着れます。試しに来てみてください。」

「あ、いいんですか。」

「ええ、ぜひ。」

「着心地はいかがですか?」

「なんか、服が肌に張り付いて気持ち悪いです。」

「左様ですか、では乾かしてみましょう。」

近くにあったドライヤーで服を乾かしていく。

「ああ…なんだかわいていい感じに…ああ!

が、がが、シャツが!シャツが乾いて、いで、でででででで!!!ぷ、プリーズ水をプリーズ!」

「左様ですか。」

シャツに水を吹きかける。

「ああ、痛かった…何するんですか!」

「いや、なんか気持ち悪そうでしたので」

「気持ち悪そうとかじゃないですよまったく!」

「え、気持ちよかったんですか」

「………もう良いです。」

「かしこまりました、では次のシャツにいきましょうか!」

「ちょっと待ってください、まだあんなシャツあるんですか?」

「はい、お客様がご試着なさったのと合わせてあと1583着ございます。」

「多いなぁ…‥…あ、そうだあのこんなシャツってあったりしませんか?」



それから僕は学校用のシャツともう一着別のシャツを購入して家に帰った。

次の日、僕はもう一着買った方のシャツを着て学校に行った。それからの僕はもう最高で、学校の行きには同じ学校の子たちからチラチラみられるようになり、帰りには女の子に囲まれてしまうほどモテるようになったのだ。それもそのはず僕があの店で買ったのシャツは「カッコいいシャツ」というものだ。これさえあればどんなことがあっても人から助けてもらえそうだ。僕の人生はもう順風満帆間違いなしだ!そんなことを思いながら下校していた矢先、目の前の横断歩道で子供がトラックに引かれそうになっていた。あぶない!と思って僕は目をつぶってしまった。恐る恐る目を開けると、なんと、僕は裸になっていた。

そして轢かれそうになった子供はなんと一着のシャツに抱えられて助けられているではないか。え?え?え?と思った瞬間キャー!キャー!と僕を囲んでいた女の子の黄色い歓声が上がり。僕のシャツを取り囲む。僕は気づいてしまった。あれは僕がカッコよくなるシャツではなく、"シャツ自体がカッコイイシャツ"だったのだ。僕はそのあと風邪を引いて2日ほど学校を休んだ…

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