感染症

2●XX年、未知のウイルスが世界中で猛威をふるった。

インフルエンザのような、その感染症は、ごく稀に感染者の味覚、嗅覚を奪ってしまう。

というのも、そのウイルスはある国の知覚研究をしていた研究室から漏れてしまったからだというのだ。

その研究室では、人から痛みをなくす研究をしていた。



ん?

特製の味噌煮うどんの味が弱く感じる。

数日前から風邪気味で、なんとなく味が感じにくい気もしていたが、、、

体温は36.5℃、いたって平熱。

ただ少しの不安もあり、検査キットを手にする。


結果は、陽性。

CとTにくっきりとピンクの線が引かれている。

彼氏に連絡する。


「今流行りの感染症にかかった」


看病して欲しいわけではない。

だって、会ったらうつってしまうかもしれないから。


しばらくの隔離期間。

便利な時代だ、手元のスマートフォンでどことでも繋がれる。

ネットスーパーで1週間分の食事を漁る。


味のしない雑炊、噛んだ感じのするだけの麺、冷たい液体。

これはまずい、もしかして僅かな確率の味覚障害に陥ったか?

そう思って、急いで冷蔵庫からチューブのワサビを出して口に含む。

普段から絶対こんなことしない。

鼻を抜ける独特の味。

まだ味覚は残っている。


ネットで情報をさらに調べる。

「突然味覚がなくなる人もいれば、徐々に味覚がなくなる人もいます」

「一度失われた感覚は、基本的には戻ってこないと見たほうがいいでしょう」


うーん、まずい、、、

本当に味覚がなくなったら、

最後に私は何を食べる?


きっと彼を食べるんだろうな。

煮て、焼いて、揚げて、

さまざまな調理法で

中華、フレンチ、イタリアン、和食

お料理はそんなに得意じゃないけど、

少しずつ味覚と嗅覚が消えていく。

最後はなんの味付けもしていない、

下処理も不十分、生臭さが残る

普段だったら絶対食べられないような

そんなそのままの君を、

ナイフとかフォークとかそんなお上品なもの使わずに

手を使って口に含んで

動物のように貪る。

消えゆく味覚と嗅覚のように

どんどんどんどん罪悪感という痛みが消えて

彼と私はひとつになる。


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