第34話 切り札のゴーレム
俺がミンチにされてから一週間後。
ライラは工房に引きこもって、ひたすらゴーレムを造っている。
ゴーレムといってもそんじょそこらのではない。
ライラの技術を全て費やし、魔王への対抗策に使うゴーレムだ。
俺はそんな彼女のために、工房に食事を持ってきたのだが……。
「完成しました! どうですか! きっとご満足いただけると思います!」
満面の笑みを浮かべるライラ。
お、おう……どう反応すればいいんだろうか。
ライラの足もと。そこに小さな人形のサイズで、七色に光るクマっぽいゴーレムがいた。
もしかしてこいつが切り札? こんな小さなゴーレムが?
いやそんなはずはない。魔王を相手にできるわけがない。
いくら知力2でもライラは鍛冶に関しては傑物だ。
「このゴーレムが巨大化とか変身するのか?」
「巨大化も変身もしませんよ。この子はこのまま戦います」
……こんな小さなマスコット人形に何ができるのか。
再びゴーレムに視線をうつすと、七色に光りながら挨拶のように片手をあげてきた。
完全に子供向け番組とかで動くクマ人形である。
「……えっと? こいつが魔王に何をできるんだ?」
「はい! この子を魔王と戦う時に躍らせるんです!」
「…………踊ってどうする」
何とか声を絞り出す。もうだめだ、一週間前に無理やり剣を造らせた反動が出たのだ。
ライラの頭がオーバーヒートして焼ききれてしまった。
今の彼女は知力2ではない、おそらくさらに半減している。2から1になってしまった、あまり変わらないな。
「ライラ、すまなかった。しばらく何もしなくていいので休んでくれ」
「えっ……でも私が作業しないとダンジョンが……」
「命を削ってまで無理するな、何とかするから」
「で、でもっ……!」
『待て。そのゴーレム、何やら不思議な力を感じる』
俺がライラを病人のように扱っていると、ヴェルディが念話で話に介入してきた。
不思議とはどういうことか、おとぎの力ならすごく感じているが。
「はい! この子はですね! 踊ることで味方を強化するんです!」
ライラの言葉に合わせるように、子グマゴーレムはちょこちょこと踊りだした。
子グマゴーレムの足もとに魔法陣が発生し、俺やライラの身体が輝きだす。
何やら力が湧いてくる。確かにバフのような魔法がかかっている気がする。
でもどれほどの強化かわからない。
『なんと!? ライラの知力が上がっているぞ!』
「なにぃ!? いくつだ!?」
ヴェルディの言葉に思わず叫んでしまった。
ライラの唯一にして最大の弱点の知力の低さ。それが解消されるならやばい。
もう常に子グマゴーレムに踊っておいてもらうまであるぞ!
『知力が2から3になっておる!』
「ほぼ変わらないだろうが!」
1増えただけじゃねーか! そんなもん誤差だろ誤差!
期待させやがって……。
『馬鹿め、2が3になったのじゃぞ! この意味が分からぬのか!』
「1増えたから何だと!?」
『上昇値だけ見るから小さく見えるだけじゃ。全能力が1.5倍になっておる』
「は? 全能力?」
『左様。ライラの筋力なども全てがじゃ』
俺は踊り続ける子グマゴーレムを見る。
こいつヤバイ。恐ろしい倍率のバフかけるじゃん。
知力を犠牲にして手に入れた馬鹿力が、倍率バフかかるのは大きすぎる。
しかもうちには人間性を犠牲にして、光速で斬りまくる辻斬り少女もいる。
能力特化型が倍率バフは凄まじい能力向上になるな。
「ライラ! よくやったぞ!」
褒められた彼女は少し涙目になりながら。
「は、はい! よかったです……またご主人様に酷いことをして、これで役に立てなかったら追い出されてしまうかと……」
「追い出す? そんなバカな、ライラが出ていったらダンジョン回らないし……」
ライラがいなくなったらなどと、想像するのすら恐ろしい。
正直ヴェルディよりも重要まである。
俺の言葉に感極まったのか、ライラが抱き着いてきた。
距離を取っていたのだが、とっさのことで回避しきれない! 死ぬ!?
だが――。
「ご主人様ぁ!」
ライラが抱き着いているが、ミンチになっていない!?
身体から骨がきしむ音が聞こえてくるが誤差である。こ、これが知力3の力だというのか……!
子グマゴーレム、恐るべし。
とはいえかなり痛いので、ライラを引きはがそうとするがビクともしない。
柔らかい女の子らしい身体の感触は素晴らしいのだが、そのうち骨が折れるか内蔵が破裂しそうだ。
「ら、ライラ、そろそろ俺がプレスされるから離して」
「はっ!? ご主人様、申し訳ありません!」
ライラが俺から勢いよく離れる。
普段ならその反動で俺も吹き飛ばされ、壁に当たって潰れていただろう。
何と言うことか。子グマゴーレムの力ですでに俺は2デス回避している!?
「この子グマゴーレムの名前は?」
いかにもかわいらしい子グマの見た目だ。
名前もメイとかララとか、さぞかし可愛い名前に決まって……。
「はい! カイザーフレスベルグです!」
「却下」
「ダメですか!? ヴェルディ様がこれで間違いないと仰ってたのですが!?」
「むしろどこにいい要素が!? カイザーでもフレスベルグでもないだろ!?」
全くもって可愛さの欠片もないではないか。
とりあえず格好いい単語使いましたってだけじゃん。
するとヴェルディが口を挟んでくる。
『何を言うか。そやつは我の血肉を大量に使った眷属であるぞ。相応しい名前ではないか』
「黙れ。こいつはメイちゃんとかララちゃんとか、そういった名前だろ!?」
『我の眷属がそんな弱そうな名など認めぬ! そもすでに名はついておる! 見せてやれ、カイザーフレスベルグ!』
子グマゴーレムがちょこんと右足をあげ、足の裏を見せてくる。
そこには、【かいざーふれすべるぐ】と記載されていた。
「子供みたいなことしてんな!?」
『我が眷属は全て子よ』
子グマゴーレム改め、カイザーフレスベルグは床に背をつけて、手足をバタバタ動かして遊んでいる。
実にカイザーでフレスベルグだなぁ。俺はカイ君って呼ぶことにしよう。
「……まあ名前はいい。カイ君にライラが先週作った伝説級の剣。これらがあれば魔王にも対抗できるのか?」
「そうですね。後はあの剣の伝説が広まって強くなれば、魔王相手にもある程度勝負になると思います」
「剣の伝説って……広まるのに何十年かかるんだよ」
恐ろしく気が遠くなるような話だな。そんな時間などあるわけがない。
そもそも伝説というが、あの剣に龍殺しとかの逸話などない。
強いて言うなら神龍の素材をふんだんに使った剣だが……むしろ魔王相手に戦うことで伝説になるのでは?
そんなことを考えているとライラが顔を赤く染めながら。
「エイス様が色々な街に訪れて広めてますよ。あの剣は超絶技巧の鍛冶師が有り余る伝説の素材を使い製作した。しかも愛する者を人質にされて救うために、その超絶技巧の限界をも越えて作った神の作品と」
「物はいいよう過ぎるな!?」
あのくだらない脅しの茶番をまあ美化したものだ。
エイスに言葉巧みにできるタイプではない。きっと他の誰か――ルフトあたりの入れ知恵だろう。
それにしたって伝説が簡単に作れるとは思えないが。
「ちなみにすでに魔龍を二体ほど倒したらしいです。名声も広まってるそうで、吟遊詩人がすごく歌ってるそうです」
『無論だ。我のいいところをふんだんに使った剣だ。そこらの龍程度が相手になるものか』
いつの間にか脅しの剣が伝説になってしまったようだ。
……まあいいか。剣が強くなるなら何でも。
これで魔王に対抗するための用意は揃った。
脅しの剣、子グマゴーレムことカイ君。この二つが勝利のカギだ!
……すごく負けそうに思えるのは気にしないことにした。
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