チート龍を配下にダンジョンマスター! ~ただし神龍は置物である~

純クロン@弱ゼロ吸血鬼2巻4月30日発売

第1話 異世界転移


 俺、神崎竜馬は名も知らない小さな洞窟の前で唸っていた。

 意味不明な状態に陥って頭が追い付いていないのだ。

 端的に話すといきなり俺は見知らぬ神殿にいて、翼を持ち光の環を頭に沿えた少女。

 見るからにテンプレなロリ天使からこう告げられた。


「君はファンタジーな異世界に転移して迷宮の主をやって、最悪の魔王を倒してね! 安心して、あんたの願いは承知しているわ。特別な優遇措置を与えるから!」


 その言葉と共に強烈な光を浴びて気が遠くなり、起きたら今の状況だ。

 わけがわからん……あの天使関係は夢だとして、誘拐でもされたか? 

 スマホも盗られたようでここがどこかもわからない。

 周囲を見渡しても森のようで情報は得られないし。


「どうすっかな……って雨かよ……」


 どうするか考えているとパラパラと雨が降り出した。

 濡れるのも嫌なのでとりあえず洞窟へと避難すると、思ったより奥のほうへと穴が続いているようだ。

 灯がないので洞窟の先がどうなっているか分からないが、雨がしのげればいいので入り口付近で待つことにする。

 手持ちぶさたに近くにあった木の棒を拾い、ガリガリと地面に線をかこうとすると。


『我が主よ、早く奥へと来い。そんなところで何をしている!』

「!? な、なんだ!? うるせぇ! 洞窟内でスピーカー使ってるんじゃねぇぞ! 鼓膜を破る気か!」


 凄まじい音量の声に思わず両耳を塞ぐ。

 洞窟の奥でライブでもやってんのか!? とんだ野外ライブだなおい。

 いや洞窟内だから野内ライブ……? いやまて、そんなことはどうでもいい。

 

「人いるじゃねぇか! ヘルプミー! 助けてくれー!」


 持っていた木の枝を、役目は終わったとばかりに地面に叩きつける。

 そして音源の方へと走っていく。この時の俺はテンションが高まってバカだった。

 真っ暗闇の洞窟を勢いよく走り何かに引っかかり、豪快に地面にダイブした。


「いってぇ!? ひ、膝がぁ!?」

『バカか、我が主よ……仕方あるまい』


 再び大音量の声が洞窟内に響くと辺りが光で照らされていく。

 どうやら声の主が俺に気づいて、照明をつけてくれたようだ。

 まずはずきずきと痛む膝を確認……うわぁ、血が出ているしズボンも破けている。

 勢いよく転んだ結果がこれだよ畜生!


「くそっ! こんなところに引っかかるものを置くな……って人の骨ェ!?」


 腹が立ったのでつまずいた物に当たろうと確認すると、人の骨が辺りに散らばってた。

 落ち着け。野生の人の骨が今の現代日本にそうそうあるわけがない。

 照明のある洞窟、つまりこれは作りものだ。


『そんな物で遊んでないでさっさと来い、我が主』


 奥の声もそんな物とか言ってるし作りもののようだ。

 最近のお化け屋敷はよくできているんだなぁ。


「うるせぇ! さっさと行くから助けてください!」

『偉そうなのか腰が低いのかどっちだ……もう転ぶなよ』

「暗くなけりゃ問題ねぇよ! こちとら去年はこけた記憶がねぇ!」

『普通は数年単位で転ばぬと思うが』


 足の痛みに耐えつつ、再び走って声の元へと向かっていく。

 照明によってもうコケる心配はないので、しばらく走るとまた転んだ。


「いってぇ!? 油断したぁ……」

『……暗いから転んだのではなかったのか。こいつダメじゃな』

「傷つくからダメとか言わないでくれます!?」


 二重のダメージによって、大きく機動力を削がれながらなんとか奥へと進む。

 しばらく進むと大きな部屋へとたどり着いた。

 そこには中央に陣取るように、超巨大な竜の作りものが置いてある。

 翼を持つ四足竜、目算だが全長は二十メートルを超えそうだ。

 

「……お化け屋敷だと思ったが博物館だったのか? でもこんなバカげた恐竜いねぇよなぁ、てかなんか見覚えが……」

『よく来たな、我が主』


 再び爆音上映のごとく部屋内に声が響き渡る。

 どこから声が出ているのかと見回すが、スピーカーらしき物はない。


「お、俺は誘拐されたんだ。助けて欲しいんですが! 貴方はどこにいるんですか!?」

『目の前にいるだろう』

「目の前にいるのはコテコテのファンタジー竜なんですが」

『……コテコテで悪かったな。そもそもデザインしたのは我が主だろうが』

 

 ……目の前の竜を再度よく見る。

 一望しきれなかったのと動揺していたので気づかなかったが、はまっているゲームで俺がキャラメイクしたドラゴンだ。

 全ての能力を最大まで上げた神龍――ヴェルディ。

 何故断言できるかと言えば、翼に俺の名前を変形させて作った紋様がある。


「う、嘘だろ……俺の竜が実物大でリアルに……はっ!? 俺の大ファンが作ったのか!? それで見てもらいたくて俺をここに!?」

『前向き過ぎるだろ、我が主。喋っているのはこの我本体だ、天使に説明を受けただろうが』

「俺の夢の中でな!」

『夢ではないぞ。我が主は迷宮主となりこの世界を救うのだ』


 どうやら俺はバカにされているらしい。

 そんな与太話を誰が信じるか。


『はぁ……仕方あるまい。ならば刮目せよ、我が主よ』

「何を刮目しようがそんな与太話を誰が……」


 俺は目を疑った。目の前にあった超巨大な竜の作りものが動いた。

 首を四方に大きく振り回した後、こちらに近づいて息を吹きかけてきた。

 生臭くて湿っていて、端的に言うと気分悪い。

 そして最後に前足で地面を叩きつける。

 すると立っていられないほどの巨大な地震が起き、俺は尻もちをついてしまう。


「……は?」

『これでもまだ与太話と言うか?』

「信じます、信じますから食べないでください」

『食わんわ、不味そうだし』


 どうやら引きこもり気味で不健康なのが功を奏したようだ。

 しかし信じがたいがこの竜は本物のようだ。いや俺が考えた竜なのに本物ってどういうことだとは言いたいが。

 竜は再び微動だにせずに話を続ける。


『ようやく話が出来そうだ、だがまだ半信半疑だな?』

「いやいや、もう信じさせていただきますとも! あっ、足の爪を磨きましょうか!」

『……我が主よ、いきなり卑屈になりすぎだ』


 俺は揉み手で竜に対してへりくだる。

 こいつを怒らせれば俺はアリのように潰されてしまう。

 そんな危機感に突き動かされる、自分の身が可愛いのだ。


『まぁよい。とりあえずはこのダンジョンの防衛設備を整えねばな。我が主よ、魔物を召喚せよ。それで半信半疑もついでに吹き飛ぶだろう』

「へへぇ、やらせて頂きます!」

『その喋り方をやめろ! 何度も言っていると思うが、お主は我が主なのだぞ! 偉そうにとまでは言わぬが普通に話せ!』


 ものすごく大声で怒られたので揉み手をやめる。

 何かわからないが俺はこいつの主らしい。確かにキャラデザしたのは俺だけども。

 

「お、おう。わかった、これでいいか?」

『それでいい。では召喚の仕方だが……そうだな、最初だけは特別召喚が可能なはずだ。とりあえず我の言霊に復唱せよ。《世界の理よ。我が牙に恐れよ、我が爪に砕かれよ、我が意に沿いて魔を呼び寄せよ》』


 竜の言霊とやらを脳内で記憶した後、口を開いて声に出そうとする。

 だが――。


「世界の理よ。訴えるぞこの野郎、ネットで叩かれたくなかったら、強い魔物出しやがれ! ……あれ? おかしい……思ってることと言ってることが違うぞ!?」

『あー、やはりか。我の牙や爪などは、お主の身体の物で変換されるのだ。だが呪文にはなる』


 竜の言葉の通りかは知らないが、俺の目の前に光で構成された陣――俗にいう魔法陣が発生する。

 どうやら本当にあれが召喚の呪文で成立したようだ。俺の爪と牙、しょぼすぎる。

 陣の上に光が集まって人型の姿を構成していく。そしてそれははじけた。

 

『ほう、これは今の我々には当たりだ。久しいな、ライラ』


 はじけた光の跡地にいたのは、少し小柄な少女だった。

 一見すれば銀色の長髪のメイドだ。ただしその手に持った自分の背丈よりも大きな槌を除けば。

 そしてこの少女も、俺がゲームでメイキングした記憶のあるキャラだった。

 名前はライラ。メイド兼鍛冶職としてメイクした……少々問題のあるキャラだ。


「当たりとか……なんかソシャゲのガチャっぽいなおい」

『なんだ知っておるのか。この召喚方法はガチャと言うぞ』


 そのまんまじゃん。

 特別召喚とか言ってたから、さっきのは初回特典SR確定ガチャとかそんなのか。


「ご主人様! 会えてうれしいです!」


 ライラは勢いよく俺に抱き着いてくる。

 すごい美少女に密接できて、思わず笑みを浮かべるのだが……待て、身体が滅茶苦茶痛いんだが!?


「ご主人様! ライラにお任せください! 何でもやってみせますから!」

「ちょっ、まっ、し、しぬっ!? これやばっ……」 

『愚か者! お主の筋力で加減なく抱き着けば、貧弱な我が主など木っ端みじ……』


 そして俺は意識を失った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る