チート龍を配下にダンジョンマスター! ~ただし神龍は置物である~
純クロン
第1話 異世界転移
俺、神崎竜馬は名も知らない小さな洞窟の前で唸っていた。
意味不明な状態に陥って頭が追い付いていないのだ。
端的に話すといきなり俺は見知らぬ神殿にいて、翼を持ち光の環を頭に沿えた少女。
見るからにテンプレなロリ天使からこう告げられた。
「君はファンタジーな異世界に転移して迷宮の主をやって、最悪の魔王を倒してね! 安心して、あんたの願いは承知しているわ。特別な優遇措置を与えるから!」
その言葉と共に強烈な光を浴びて気が遠くなり、起きたら今の状況だ。
わけがわからん……あの天使関係は夢だとして、誘拐でもされたか?
スマホも盗られたようでここがどこかもわからない。
周囲を見渡しても森のようで情報は得られないし。
「どうすっかな……って雨かよ……」
どうするか考えているとパラパラと雨が降り出した。
濡れるのも嫌なのでとりあえず洞窟へと避難すると、思ったより奥のほうへと穴が続いているようだ。
灯がないので洞窟の先がどうなっているか分からないが、雨がしのげればいいので入り口付近で待つことにする。
手持ちぶさたに近くにあった木の棒を拾い、ガリガリと地面に線をかこうとすると。
『我が主よ、早く奥へと来い。そんなところで何をしている!』
「!? な、なんだ!? うるせぇ! 洞窟内でスピーカー使ってるんじゃねぇぞ! 鼓膜を破る気か!」
凄まじい音量の声に思わず両耳を塞ぐ。
洞窟の奥でライブでもやってんのか!? とんだ野外ライブだなおい。
いや洞窟内だから野内ライブ……? いやまて、そんなことはどうでもいい。
「人いるじゃねぇか! ヘルプミー! 助けてくれー!」
持っていた木の枝を、役目は終わったとばかりに地面に叩きつける。
そして音源の方へと走っていく。この時の俺はテンションが高まってバカだった。
真っ暗闇の洞窟を勢いよく走り何かに引っかかり、豪快に地面にダイブした。
「いってぇ!? ひ、膝がぁ!?」
『バカか、我が主よ……仕方あるまい』
再び大音量の声が洞窟内に響くと辺りが光で照らされていく。
どうやら声の主が俺に気づいて、照明をつけてくれたようだ。
まずはずきずきと痛む膝を確認……うわぁ、血が出ているしズボンも破けている。
勢いよく転んだ結果がこれだよ畜生!
「くそっ! こんなところに引っかかるものを置くな……って人の骨ェ!?」
腹が立ったのでつまずいた物に当たろうと確認すると、人の骨が辺りに散らばってた。
落ち着け。野生の人の骨が今の現代日本にそうそうあるわけがない。
照明のある洞窟、つまりこれは作りものだ。
『そんな物で遊んでないでさっさと来い、我が主』
奥の声もそんな物とか言ってるし作りもののようだ。
最近のお化け屋敷はよくできているんだなぁ。
「うるせぇ! さっさと行くから助けてください!」
『偉そうなのか腰が低いのかどっちだ……もう転ぶなよ』
「暗くなけりゃ問題ねぇよ! こちとら去年はこけた記憶がねぇ!」
『普通は数年単位で転ばぬと思うが』
足の痛みに耐えつつ、再び走って声の元へと向かっていく。
照明によってもうコケる心配はないので、しばらく走るとまた転んだ。
「いってぇ!? 油断したぁ……」
『……暗いから転んだのではなかったのか。こいつダメじゃな』
「傷つくからダメとか言わないでくれます!?」
二重のダメージによって、大きく機動力を削がれながらなんとか奥へと進む。
しばらく進むと大きな部屋へとたどり着いた。
そこには中央に陣取るように、超巨大な竜の作りものが置いてある。
翼を持つ四足竜、目算だが全長は二十メートルを超えそうだ。
「……お化け屋敷だと思ったが博物館だったのか? でもこんなバカげた恐竜いねぇよなぁ、てかなんか見覚えが……」
『よく来たな、我が主』
再び爆音上映のごとく部屋内に声が響き渡る。
どこから声が出ているのかと見回すが、スピーカーらしき物はない。
「お、俺は誘拐されたんだ。助けて欲しいんですが! 貴方はどこにいるんですか!?」
『目の前にいるだろう』
「目の前にいるのはコテコテのファンタジー竜なんですが」
『……コテコテで悪かったな。そもそもデザインしたのは我が主だろうが』
……目の前の竜を再度よく見る。
一望しきれなかったのと動揺していたので気づかなかったが、はまっているゲームで俺がキャラメイクしたドラゴンだ。
全ての能力を最大まで上げた神龍――ヴェルディ。
何故断言できるかと言えば、翼に俺の名前を変形させて作った紋様がある。
「う、嘘だろ……俺の竜が実物大でリアルに……はっ!? 俺の大ファンが作ったのか!? それで見てもらいたくて俺をここに!?」
『前向き過ぎるだろ、我が主。喋っているのはこの我本体だ、天使に説明を受けただろうが』
「俺の夢の中でな!」
『夢ではないぞ。我が主は迷宮主となりこの世界を救うのだ』
どうやら俺はバカにされているらしい。
そんな与太話を誰が信じるか。
『はぁ……仕方あるまい。ならば刮目せよ、我が主よ』
「何を刮目しようがそんな与太話を誰が……」
俺は目を疑った。目の前にあった超巨大な竜の作りものが動いた。
首を四方に大きく振り回した後、こちらに近づいて息を吹きかけてきた。
生臭くて湿っていて、端的に言うと気分悪い。
そして最後に前足で地面を叩きつける。
すると立っていられないほどの巨大な地震が起き、俺は尻もちをついてしまう。
「……は?」
『これでもまだ与太話と言うか?』
「信じます、信じますから食べないでください」
『食わんわ、不味そうだし』
どうやら引きこもり気味で不健康なのが功を奏したようだ。
しかし信じがたいがこの竜は本物のようだ。いや俺が考えた竜なのに本物ってどういうことだとは言いたいが。
竜は再び微動だにせずに話を続ける。
『ようやく話が出来そうだ、だがまだ半信半疑だな?』
「いやいや、もう信じさせていただきますとも! あっ、足の爪を磨きましょうか!」
『……我が主よ、いきなり卑屈になりすぎだ』
俺は揉み手で竜に対してへりくだる。
こいつを怒らせれば俺はアリのように潰されてしまう。
そんな危機感に突き動かされる、自分の身が可愛いのだ。
『まぁよい。とりあえずはこのダンジョンの防衛設備を整えねばな。我が主よ、魔物を召喚せよ。それで半信半疑もついでに吹き飛ぶだろう』
「へへぇ、やらせて頂きます!」
『その喋り方をやめろ! 何度も言っていると思うが、お主は我が主なのだぞ! 偉そうにとまでは言わぬが普通に話せ!』
ものすごく大声で怒られたので揉み手をやめる。
何かわからないが俺はこいつの主らしい。確かにキャラデザしたのは俺だけども。
「お、おう。わかった、これでいいか?」
『それでいい。では召喚の仕方だが……そうだな、最初だけは特別召喚が可能なはずだ。とりあえず我の言霊に復唱せよ。《世界の理よ。我が牙に恐れよ、我が爪に砕かれよ、我が意に沿いて魔を呼び寄せよ》』
竜の言霊とやらを脳内で記憶した後、口を開いて声に出そうとする。
だが――。
「世界の理よ。訴えるぞこの野郎、ネットで叩かれたくなかったら、強い魔物出しやがれ! ……あれ? おかしい……思ってることと言ってることが違うぞ!?」
『あー、やはりか。我の牙や爪などは、お主の身体の物で変換されるのだ。だが呪文にはなる』
竜の言葉の通りかは知らないが、俺の目の前に光で構成された陣――俗にいう魔法陣が発生する。
どうやら本当にあれが召喚の呪文で成立したようだ。俺の爪と牙、しょぼすぎる。
陣の上に光が集まって人型の姿を構成していく。そしてそれははじけた。
『ほう、これは今の我々には当たりだ。久しいな、ライラ』
はじけた光の跡地にいたのは、少し小柄な少女だった。
一見すれば銀色の長髪のメイドだ。ただしその手に持った自分の背丈よりも大きな槌を除けば。
そしてこの少女も、俺がゲームでメイキングした記憶のあるキャラだった。
名前はライラ。メイド兼鍛冶職としてメイクした……少々問題のあるキャラだ。
「当たりとか……なんかソシャゲのガチャっぽいなおい」
『なんだ知っておるのか。この召喚方法はガチャと言うぞ』
そのまんまじゃん。
特別召喚とか言ってたから、さっきのは初回特典SR確定ガチャとかそんなのか。
「ご主人様! 会えてうれしいです!」
ライラは勢いよく俺に抱き着いてくる。
すごい美少女に密接できて、思わず笑みを浮かべるのだが……待て、身体が滅茶苦茶痛いんだが!?
「ご主人様! ライラにお任せください! 何でもやってみせますから!」
「ちょっ、まっ、し、しぬっ!? これやばっ……」
『愚か者! お主の筋力で加減なく抱き着けば、貧弱な我が主など木っ端みじ……』
そして俺は意識を失った。
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