熱き教育実習と登校拒否④




給食の時間となり、生徒たちはお腹を空かせている様子だ。 調理実習での一人頭の量が少なかったためか、体育の授業があったためか分からないがとりあえずホッとしていた。


「腹減ったー!」

「俺もー!」

「いや、家庭科の時間にハンバーグ食べたじゃん」

「でもあれは半分こだっただろー」


男子たちが騒いでいる中、数人の女子が教室から出ていこうとした。 給食当番も学校の方針で男子はやらないことになっている。 もちろん、熱司がそれを見逃すはずがなかった。


「あ、君たち待った!」


女子たちを一度呼び止めると、教卓の前に立って言う。


「調理実習に男子も参加してもらったんだ。 ということは、給食当番も女子だけっていうわけにはいかないよな?」


言っていることは自然なはずだが、男子生徒たちは驚いた様子を見せる。 調理実習とは違い日常的に行われる給食当番の決まりが変わることに抵抗があるようだ。 

ただ困惑はしているが、不満そうにしているわけではない。 熱司の言っていることがゆっくりと理解できたのか、段々と納得する顔を見せた。


「家庭科の時間にも言った通り、男子も給食当番をやるべきだと思うんだ」

「でも熱司先生! 給食当番は全員ではできません」


女性生徒は段取りが分かっているためか、多くの人数で行うのが無理だと知っている。 

普段は女子だけで当番グループが決められ交代制で行っているのだが、今日と明日はその取り決めはいったん置いておくことにした。


「あぁ、その通りだな。 だから・・・」


教室を見渡し今日あまり活躍できていない生徒を男女込みで六名指名した。


「今言った君たちに、給食当番を任せたいと思う!」


そう言うと指名した中の一人の男子が手を挙げる。


「せ、先生! 一応僕、先生の分を配膳する役目があるんですけど・・・」

「あぁ、それはいいよ。 俺は自分で自分の分を用意するから」


そう言うと生徒たちは一斉に教室の後ろにいる斎藤先生を見た。 斎藤先生は何を思われているのか察して慌てて言う。


「え、あ、僕も、今回は自分で用意しようかな、はは・・・」


―――これは別にやり方を変えようとは思っていなかったんだが。

―――斎藤先生、今回ばかりは巻き沿いにしてしまってごめんなさい。


それ程悪いと思っているわけではないが、心の中で謝っておく。 目上の者を敬う気持ちは重要だ。 だが、自分でできることを生徒にやらせる必要もないと思っていた。 

男女の連携が必要なため、昨日までより多少段取りは悪くなるが特段問題はない。 

学校の方針として男女を区別するようになっているが、調理実習の時は協力できていたし生徒たちの仲が悪いわけではなかった。 


「あ、そうだ! 給食当番の分は、隣の席の子が用意してくれー!」


そう言って熱司も列に並ぶ。 それを見た生徒が熱司の分を大盛りに注ごうとした。


「あぁ、いいよ。 そんなに注がなくて」

「いや、でも」

「みんな平等。 生徒と先生は一緒の量で」

「はい・・・」


必要エネルギーは大人の方が多いかもしれない。 だが、それをすると身体の大きな子もたくさん必要ということになる。 それはそれで構わないのだが、その分、割を食う子が出てしまうということだ。 

給食の摂取エネルギーは栄養士によって管理されている。 その量を著しく変更するのは子供の成長にとって望ましくないと思っていた。


―――先生と生徒は極力平等な位置にいるべきだと思う。

―――もちろん立場はわきまえる。

―――先生だからといって、全てが偉いというわけではない。


そしてみんなの配膳が終わり食べる時間となった。 この二日間は斎藤先生の机を熱司は使わせてもらうことになっている。


―――うん、いい眺めだ。

―――生徒たちを一度に見渡せるっていいな。

―――早く本当の教師になって、クラスを持ちたい。

―――・・・そう考えると、このクラスと別れるのが寂しく感じるな。


給食を食べていると一人の女子がお皿を持ってやってきた。


「・・・あの、熱司先生。 これ、残してもいいですか?」


そう言って浅いお皿に乗っている魚を見せてきた。


「もしかして苦手?」

「はい・・・」

「じゃあ、半分頑張って食べたら残してもいいぞ」


そう言うと女子は頑張って半分食べた。 アレルギーの有無は調理実習のこともあり、クラス全員既に調べてある。


「おぉ、偉いじゃないか! よく頑張ったな」


もちろん生徒が善い行いをした時に、褒めるのを忘れたことはなかった。



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