ヒロインは本性を隠し、計算尽くでほくそ笑む

藤原遊人

【共通】

第1話 ヒロインは自覚する

入学案内を貰って私は気がついた。震える手で封書の封を切って、この国最高峰の学園へ行ける通知を見たときに稲妻のような衝撃が走った。

「これで私の人生の主人公は私だわ!」とっても普通で、当たり前で、何を今更といったことだったが、私にとっては今ようやく実感したことだった。


「カレン・ステノ様」と書かれた封書はこの辺りの村では滅多に見ない綺麗な紙を使われている。こんな紙を日常的に使える人たちの世界に私はこれから乗り込んでいくんだと思うと、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。


灯りすら節約して、自らの魔法を使って照らした部屋で勉強した日々。昼間は学校と、農作業と、家の事に忙殺されて、全然捗らなかった。その苦労が報われたんだ!



「カレン!おめでとう!」

「すげえな!カレン!」

「ありがとう!」



村で唯一の郵便所で入学案内の封書を受け取れば、居合わせた村人に次々とお祝いの言葉を貰う。

そう、私はこれまで近所のみんなと遊ぶ時間を削って、がむしゃらに勉強し続けて、本の虫と揶揄されてまで勉強して、国で一番上の学校に入学が認められた。


それは村では快挙で、学問所で先生をしている母の願いでもあった。



「母さん!入学案内が来たよ!」

「まあ!すごいわ!おめでとう!」

「母さんのおかげだよ、ありがとう!」



もちろん私が勉強したのは私のため。でも母のステータスにもなる。これで私が中々村に帰って来れなくなっても、親孝行な娘の座は揺るがなくなった。



「あなたの夢に向かって頑張りなさい」

「はい!母さん」



埃臭い母のエプロンに顔を埋めて、これまでの感謝を述べる。私が喜びながら家に帰ってきたから、村の人が何事かとちょっとざわめいている。郵便所に居た向かいの家のおじさんがあちこちで言いふらしてくれているから、開けっ放しのドアからこちらを覗いている隣の家のご夫妻がとても嬉しそうに祝ってくれている。


表向きの私の夢は優秀な官僚になること。そして、辺境と言われるこういう末端の村村を繁栄させたいとしている。


本当の目標は違う。


あくせくと働き続けるなんて、絶対いや。話の通じないおじさんに言い聞かせたり、おばあさんの昔話を根気よく聞いたり、朝早く起きて手を痛めながらお皿を洗うような貧しい毎日から脱却すること。それを達成するには官僚じゃダメ。


そう、私が目指している本当の目標はもっと難しい。貴族の社交やなんやらの技術がなくても、庶民がなってもすぐに殺されたりはしない安全で、働かなくて良い職。



私の目標は「貴族の第二夫人以降の座を得ること」なのだ。



それには貴族が集まる学園に通うのは庶民の私からしたら必須の項目。それをクリアできなければ、働かなくても良い素敵な就職先は得られない。



「母さん、長期休みには帰ってくるよ」

「ええ、待ってるわ。でも、無理はしないでね」



改めて母に抱きしめられながら、今後の私が演じる貴族たちが好みそうなキャラ設定をきちんと考えなきゃねと小さくほくそ笑んだ。

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