【幕間】神の降りた日~女神誕生祭~

――ここはチョコランタ王国――

 王国という名の通り、王族が国を治めている。


 チョコランタ城が中心に位置し、東側に貴族街が広がり、西側に平民が暮らす城下街、その南西の路地裏に、貧民が暮らす貧民スラム街がある。


 一部の貴族は平民や貧民を差別的に見る者もいるし、平民と貧民の間でも差別がある。その差別の腹いせなのか、貧民スラム街は治安が悪く、足を踏み入れるなと親が子供に教える程だ。


――そんな王国で、この日は“神がこの地に降りた日”として、神の名を取り“女神誕生祭メシアフェスティバル”と名付けられた、平民にとって唯一の祭りが行われていた――


 城下街の北西の街外れに位置する教会に、神メシアに祈りを捧げる為に平民達が訪れ、長い行列ができている――

 城下街から教会までの道のりには出店がたくさん並び、年に1度の毎年恒例の祭りなだけあり、秋を迎え肌寒いにも関わらず朝から晩まで城下街が華やかに賑わう――



――この祭りの日の王族はと言うと、貴族を城の大広間に招待しパーティーを開く。


 パーティー開始早々にこの国の王、“ブライン・チョコランタ”と、その息子の第1王子“ビターズ・チョコランタ”の前に貴族達の挨拶する列ができている――


 ふたり共金髪で翡翠のような緑の瞳を持ち、これぞ王族というオーラがただよう――

 共に容姿端麗で、歳の離れた兄弟に見えてしまう程に王は見た目が若く見える――


 その王が、来年春にも息子に王位を譲るのではと噂されていて、余計にふたり揃った女神誕生祭メシアフェスティバルのパーティーは最後かもと、貴族達の挨拶が長くなっていた――



――空も暗くなり、パーティーもそろそろお開きとなる頃、突如としてまばゆい光が窓から大広間に差し込んだ――


 騒然とざわつく会場――


「なんだ!?」

「……この光は!」


 この光の謎はわからないにしても、ただ事ではないと思う第1王子ビターズこと“ビター”――

 唯一この光の謎がわかっている王ブラインこと“ブライ”――


 ふたりは、光が差し込む窓に近づき外を見た――


 まばゆい光がおさまり、今度は空から地面へと一直線の青白い細い光が伸び、ふたりはその様子を食い入るように見つめた――


聖なる道メシアロード! あの方角は教会のある方じゃないか!)


 ブライが驚きの声を心の中で漏らす。


「親父! なんだよ!? あの光は!」


 ビターは、声の届く範囲にブライしか居ないせいか、王子らしからぬ口調で父親であるブライに話しかけた。


 王と、次に王になる者に戴冠式たいかんしき前日に伝えるほど極秘な情報ゆえ、現状はブライしか知り得ない事で、ブライはどうしたものかと黙って思考する――


「……教えないなら見てくる!」


 ビターはそう言って、大広間のバルコニーへと走り出す――


「あ! こら! ビター! 待ちなさい!」


 ブライがそれに気づき呼び止めるも、騒然と騒がしくなった大広間にいる貴族達の声にかき消され、ビターの足は止まる事はない。


 そんなビターも、周りが騒然としていて、王子である自分を気にしていない状況ゆえ、貴族に捕まることも無くバルコニーへとたどり着いた。


 ビターは周囲の視線がないことを確認したあと、ビターに宿る“神の加護”【風の魔法】を使い、空を飛ぶことをと、ビターの体が宙に浮かび、ビターは光の方角目指して飛び出して行った――


「まったく……困った息子だよ……」


 ブライは、そう言って呆れた溜息を吐くと――


「カイト!」


 ブライは、王族近衛騎士ロイヤルナイトでビターの昔馴染みの友人のひとりでもある、カイト・クルスナーを呼ぶ――

 何処らともなく、黒髪と紺色の瞳の青年が颯爽と現れ、ブライの前に膝をついて礼をした。

 カイトは眠そうなぼんやりした顔ではあるが、整った顔立ちをしている。


「カイト……すまないけど、ビターを追って連れ戻してくれるかい?」

「……はい……」


 カイトは、表情を全く変えることなく颯爽と大広間を駆け抜け、ビターが飛び出して行ったバルコニーから


 王族近衛騎士ロイヤルナイトは身体能力が優れた者が多く、カイトは特にスピード面や身のこなしが優れ、さながらこの世界の本の物語に出てくる忍者のような青年だ。

 そんなカイトには、バルコニーから飛び出し、木々に次々と飛び移るように移動するなんて簡単な事だった。



――大広間に残ったブライの耳に、貴族達から憶測の噂が聞こえてきた。


女神誕生祭メシアフェスティバルの日に光ったんだから、再びメシア様が現れたのでは!?」

「おぉ! そうに違いない!」


 その噂が大広間全体に広がり、再びザワつきだすのを見たブライは、やれやれと溜息を吐いた。

 そして、ブライは騒ぎを収めるべく声高らかに宣言する。 


「パーティーはこれにて閉会とする! 各々おのおの館へ――」

「王よ! あれほどの光を、説明もなくお開きにするのですかな?」


 話に割り込むように大臣の“ランドルフ・ブロバイン”が大きな腹を揺らしながら歩み寄り、納得いかないとばかりに声を上げ、その顔は何か企んでるような不敵な笑みを浮かべている。


――その大臣ランドルフの不敵な笑みに、面白くなさそうに冷たい視線を送る王族近衛騎士ロイヤルナイトの青年の姿があった――


 彼の名は“サンセット・ゲイン”――

 通称“サンセ”と呼ばれ、ビターの昔馴染みの友人のひとりである。ピンクにオレンジを混ぜたようなサンセット色の髪と、薄いオレンジ色の瞳で容姿端麗――


 普段のサンセは温厚で優しく、にこやかな笑顔で人当たりも良く、貴族達(主に令嬢)に人気があるが――

 大臣に冷たい視線を送るオレンジ色の瞳の姿は、まるでのようだった。



――ブライが大臣の発言に対して「……あの光はこちらで調査する」と告げると、大臣は面白くなさそうに反論する――


「いけませんなぁ……有名な絵本【メシアとメシス】によれば、“神の加護を授かった村人”は、“のちの王”になったと……つまりは“王族のご先祖様”なのでしょう? 王族はする気ですかな?」


 嫌味な態度で話す大臣に、先程冷たい視線を送っていたサンセは、拳を強く握り締め、怒りを表情に出さず我慢していた――



「王に対してその発言……無礼では?」


 大臣とブライの間に赤髪の青年が立ち、赤茶色の瞳で大臣を睨んで言い放ったのは、ビターの昔馴染みの友人のひとり、王族近衛騎士ロイヤルナイトのバルバトス・シュタイン――


 通称バトスと呼ばれ、頭が筋肉で出来ている脳筋バカと仲間内で揶揄からかわれているが、そのパワーは王族近衛騎士ロイヤルナイトの中で1番だと認められた青年だ。


 ブライは睨み合う大臣とバトスを横目で見て溜息を吐き、貴族達の前に歩み出て改めて宣言する。


「ひとまず、みな館へ戻ってくれ」


 その場にいた貴族全員が貴族の礼をし、ぞろぞろと大広間を後にしていく。大臣は悔しげにブライの後ろ姿を睨み、自室へと戻って行った――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一方、謎の光を見に行ったビターと、ビターを連れ戻すべく追ったカイトは――


 魔法で空を飛びつつ、上空から教会へと真っ直ぐ青白い光がさしてるのを確認したビターは、飛ぶスピードを早め教会へ急ごうとすると――


「ビター!」


 ビターが声の聞こえた足元の民家を見ると、屋根の上にカイトの姿があった。無表情なカイトの顔でも、連れ戻しに来たと察したビターは――


「あの光を確認するまで戻らないからな!」


 光を指さしカイトに伝えると、カイトは首を傾げた。


「……光?」

「え!? 光ってるだろ?」


 カイトは嘘をつくわけでもなく、本気で光がようで、また首を傾げる。

 それを見て、ビターは城下街で祭りを楽しむ人々に視線を移す。光を気にしていない。


(あんな光の後で騒ぎにもならず、祭りを楽しんでる……これはどういうことだ? 少なくとも、一緒に窓に近づき同じ方向を見ていた親父は見えていたと思う……ひとまず光が先だ!)


 ビターが教会の方へ視線を移すと、光が突然遮ったによって不自然に消えた。


「は!?」


 ビターは急いで教会上空にたどり着き、暗くなった教会周囲を見回しても何も怪しい痕跡もない。地面に降り立ち、教会の窓から中を見ても真っ暗だった。


――その後、カイトがビターに追い付き、ビターは大人しく城に戻って見た事の報告をブライにした。

 ブライは“神を穏便に保護”したかったのだが、大臣がうるさいというのもあり、仕方なく1週間後、神捜索のお触れを出した――



――神を探し求める物語は、この約3年後に動きをみせることになる――



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


次回、城下町から戻ったメティーが再びピンチ!?

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