第3話 願いの力

――私が渡そうとした小石が、鈴になったのには驚いた。【願いの力】かぁ……ほんとに、なんだなぁ――


 この世界の言葉がわかったり、見覚えない字も読めたり……あ! 書くのは勉強しないと無理そう!『この漢字読めるけど書けない』っていうのに似てる。


 そう思った後、私が“違う”と思ったのか、もやがかかったようにボヤけ、“違和感”だけが残る――


 神の力の【癒しの力】や【願いの力】についても、“使い方も知らない”のに使えたり……よくわからない。

 使えた時を思い返すと、しーちゃんの傷を治したいと、しーちゃんの事を守ってくれますようにと――


 もしかして、で? それだと、迂闊うかつにものを言えないなぁ―― 


――うーん……それにしても……食事が入手出来ないこの状況はまずい! どんなに真面目な事を考えていようが、どうしたってお腹は減る――


(お腹空いたぁ……ご飯欲しいぃ……)


 どうしようと困り、何気なく思ったつもりだった。


 すると、私の手が白くぼんやりと光り、私の食事のミルクだったり、しーちゃんのお子様ランチ的な食事が


(え!?……これもまさかの願いの力?)


「わぁー!」


 迂闊うかつにものを言えないと言ったそばから、やってしまった!


 驚きで固まった私の隣で、しーちゃんは“願いの力”だと肯定するように頷き、興奮気味にはしゃいでいる。


 いやいやいや! これは……いくらなんでも!?


 でも、幼い子供ふたりの現状、食事を手に入れる事すら困難な訳で……この使い方なら、神様も許してくれるよね?


(――って、私がその“神様”なのか……)


 改めて絵本のページを見ると、お金や食べ物などを、村人達に与えているような挿絵が描かれていた――


 え! この村人達は大人だよ!? 自分で仕事してお金稼ぐなり、畑耕すなりできるのに! これこそズルチートでしょ! これを続けたら


 子供も読む絵本だもんね……文章ではさすがに教育上ハッキリと書けないのもわかる。


(努力しないでいいってなっちゃうもん! こんな風になったらダメ!)


 そんな事を思いながら百面相していた私に、しーちゃんが「……たべちゃだめなのー?」と、不安そうに首を傾げ、猫耳もその気持ちをあらわすようにしょんぼりと垂れている。


 私はわなわなともだえる――


(猫耳の幼い子の破壊力が……可愛すぎてなんでも与えてしまいそう!……努力したしーちゃんに使う“願いの力”は許して!)


 そういえば、“ちっちゃいキャラ”好きだったなぁーと、しみじみ思った所で疑問が湧く。


 赤ちゃんなのに昔って? は、しーちゃんを年の離れた弟のように可愛く思えちゃう年齢だった?

 そう思えば、今まで感じていた“違和感”の理由も頷ける――


 すると、ズキッと頭痛がして、痛くてそれ以上考える事が出来ない――


「だいじょうぶ!?」


 しーちゃんが、私を心配して顔を覗き込む――


 しーちゃんはお腹空いてるだろうに、まだ食べずに待ってくれてる。


(……大丈夫……ありがとう……食べよ?)


 しーちゃんを心配させないように痛みに耐えつつ微笑み、早くしーちゃんにご飯を食べさせてあげたくて食事を促した――


「おいしー!」


(おいちー!)


 しーちゃんが、美味しそうに頬張って喜んでる顔を見ると、ご飯を出せて良かったと思う――


 ふと、さっきの“努力したしーちゃんに願いの力を使うのは許して”と思った事が浮かぶ。その理論だと、私が1番働かざる者食うべからずだと、ピタリと固まる。


「……めしあは、ごはんだしてくれたから はたらいてるよ?」


 しーちゃんは、当然食べる権利あると言いたげに私をじっと見て首を傾げる。


(しーちゃん! 天使!……あ! 久しぶりに名前呼んでくれた!)


「え!?」


 しーちゃんは、狼狽うろたえるように真っ赤になって可愛い。そんなしーちゃんを見て、私はケラケラ笑う――


 そういえば、考えないようにしたせいか、頭痛も自然とすぐ治まった。

 まるで、とでも言ってるような頭痛でなんだか怖い――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「――っ!」


 私を抱っこして走るしーちゃんの体がグラッとふらつき、私はハッと思考から現実に戻された。


 捕まえようとする人達に追われ、しーちゃんは私を抱っこして逃げてくれてるのに、しーちゃんとの出会いを思い出してる場合じゃなかった!


「しーちゃん! だいじょうぶ!?」


 私が慌ててしーちゃんの顔を見ると、しーちゃんの顔色が悪い――


(そっか……獣人だからたくさんの人の心の声が聞こえすぎて、人混みはつらいに決まってる……)


 それなのに、止まることなくしーちゃんは走り続ける――


 こんな風になりながら、いつもひとりで買い出しに行ってくれてたなんて……初めて一緒に連れてきてもらったからこそ気付けた。


(今度は私がしーちゃんの役に立つ番!)


「しーちゃん! おりりゅ! ひとしゅくない とこりょで やしゅんでて!」


 私はそう言って、しーちゃんにしがみついた体を離そうすると、しーちゃんは立ち止まり私を強く抱きしめた――


「え? しーちゃん?」


 私が戸惑いながらしーちゃんを見ると――


「……嫌だ……メティーどうせ迷子になるし……その方がめんどくさい」


 しーちゃんはつらそうながらも、最後の言葉が私に冗談だとわかるように笑ってみせ、更に私をぎゅっと抱きしめた。


「うー」


 冗談抜きに確かに迷子になりそうと思ったら、他にしーちゃんに休んでもらう方法が浮かばず、私はうなるだけで言葉が出てこない――


「――いたぞ!」


「「あ!」」


 立ち止まっていた間に追っ手に追いつかれ、私としーちゃんは同時に声を上げ、しーちゃんは再び走り出した――


(追っ手は3人……。少しでもしーちゃんが楽に逃げれるように……何かないの!?)


 ふと、浮かんだであろうものを試してみよう――


「たらい! あのひとたちを あしどめちて!」


 すると、イメージした通りの金ダライが空中に現れ、追っ手の人達の頭にちょうど落ちるようなタイミングで落下した。


 ゴン! ガン! ゴン! と、痛そうな音と共に追っ手の人達はその場に倒れ気絶した――

 それを見た周りの人達から笑いが巻き起こり、注目も追っ手に集まり、私達はその隙に逃げ出せたのだった――



――無事に岩穴へと戻り、着いて早々しーちゃんは笑いだした。


「光の神メシアが“願いの力”を使うなんて……あはは」


 しーちゃんはお腹を押さえずっと笑ってる――


 確かにあの時、しーちゃんは最初意外そうに驚いていた。それから必死に笑いを堪えて走って逃げてたんだね……にしても、笑いすぎ!


 金ダライは“某ゲームの技”でもあり、そのゲームも“昔のお笑い”をもとにした技なんだろうけど……周囲を笑わせる技で、足止めにもなるかなと思って――


 “こんな風に”たまに思い出す事はあるのに、相変わらず自分がわからないまま――


 来たばかりの頃と変わった事は、神の力を上手く操れるようになった事――

 操ると言っても、勘違いしてただけだった。んじゃなくて、と発動する。


 叶えたい思いが強いほど、願いになる――


 最初にご飯を出したあの時も、お腹が空いてピンチだったから“強い願い”になって叶ったんだ――



――私を捕まえたがるのは、あの絵本のように楽したいからって事なんだと思うけど、そんな人達の為に“神の力チート”は使いたくない……私はこれからも逃げ続ける――



――序章 神降臨 完――



▼ ▼ ▼ ▼ ▼


次回は、【幕間】として“お触れを出したという王族側”の物語。3年前のメティーが降りて来た日に何があったかわかる!?

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