ゆいとゆう

つばさ

恋人の命日

「この人、誰なんだ?」


俺がゆうと同居し始めて数ヶ月。ゆうが居間に飾られている写真を指差して言った。

居間の写真...俺にとってはかつて弟で、そして憧れで、その後に恋人になり、今は亡き人のゆいだった。その写真は結婚写真...もとい、部屋の中でドレス姿になったゆいと、半袖ショートパンツという少年スタイルの俺が写っている写真だ。花嫁と少年というあまりにも華の差がありすぎるのだが、俺はこの写真を気に入っていた。


俺は彼にどう伝えるべきなのか迷った。昔の恋人...ではないと思う。すでに恋人という一線は越していたのだから。

迷った挙げ句に、俺はこう言った。


「俺の家族、だった人だ」

「だった人?今は違うの?」

「ああ。もう遠くに行ってしまったからな」


我ながらなんて説明をしているのだろうか。

こいつはもうものの分別がつかないほどの子供じゃないんだから、「死んだ」という直接的な表現でも良かったはずなんだけどな...


「遠くって、どこに行ったんだよ?アメリカ?ヨーロッパ?」

「...さあ、俺にも分からない。行き先も伝えてもらえずにいなくなったもんだから」

「家族なのに、行き先も伝えずにいなくなるもの?」

「...たまには、そういうこともあるもんだよ」


俺は最もらしいことを言ってはぐらかした。目の前の少女...いや青年は納得しきっていない様子だったが、あえて笑顔を作り明るく振る舞う。


「そう、だったらオレは帰ってくるまでその人を待ち続けるよ、こんな可愛い子と一緒だなんて最高だもん」


俺はその笑顔を見ると切なさを覚えた。

(もうあいつは、帰ってこない...こいつは死ぬまで、そいつの帰りを待っているのだろうか...なあ、ゆい)



夏の暑さも和らぎ始めた9月の中旬。

俺は一人電車を乗り継ぎ、海へと来ていた。既に海開きは終わっており、そうでなくとも海水浴の趣味はない。そんな俺がここに来た理由はただ一つ。


「...ゆい」


呟くと、その場に花束を置き、手前で手を合わせる。今日はゆいの命日だった。俺は一分ほど黙祷を続けると、踵を返して帰ろうとした。その時だった。

俺は周りに気配を感じて辺りを見回す。俺以外にもここに来ている物好きがいるのだろうか?...と訝しげだったが本当にいた。



目の前に一人の人間が立っていた。

黒いサラサラのハーフツインテールはピンクのリボン飾りで彩られ、耳元にはサファイアのイヤリング。首元には太陽のペンダントで飾られ、手には黒い指貫をはめている。黒いタンクトップとデニムのショートパンツを着ており、すらっとした大腿に脚。

足元には赤い鼻緒の草履を履いている。その見た目はアイドルにもアニメの登場人物にも見える少女だったが、見慣れている俺には一目見てゆうだと分かった。


「...ゆう。何でお前がここに?」

「さあ、ちょっとそんな気分だったから」

「海開きがとっくに終わってて、そんなにきれいでもない海は気分で来るようなところか?」

「それはお互い様だろ?」


二人で口論をしているうちに、ゆうは俺の背後にある花束を見やる。それを見てゆうは何かを察したようだった。


「今日は確か...」


ゆうはそこまで言いかけたが、それ以降は口を閉ざしたままだった。帰りの電車は気まずい雰囲気で、一言も交わさないまま家に着いた。

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