第46話 帰ってきたリリコ⑤
リュウが目を覚ましたと聞いて、次の日、瀬戸とロキが見舞いにやって来た。瀬戸がリュウの枕元に座り、その隣にロキが座った。
「リュウ、大丈夫か?」
瀬戸の声に、リュウの瞼がピクピクと動き、ゆっくりと目を開けた。
「瀬戸さん、ロキさん、忙しいのにすみません。」
「かまへん、かまへん。お前、大丈夫なんか?」
瀬戸が心配そうな顔でのぞきこんできた。
「まだ、あんまり動けんのですけど、ボチボチです。」
「話ができて良かった。昨日、リリコが来て、大変やったらしいな。津田さんがこぼしてたで。」
ロキの言葉にリュウはギョッとした。
「なんや、お前知らんかったんか?リリコ、お前が離婚してもうすぐ自分が嫁になるってもと子に面と向かって言ったらしいで。」
「そうそう、もと子ちゃん、ショックで固まってしもて、代わりに津田さんがやり合ったらしいで。」
「…え?」
瀬戸とロキの話にリュウは青ざめた。
「で、お前、離婚すんの?リリコと再婚するわけ?」
瀬戸が目つき鋭く、リュウに尋ねた。
「まあまあ、瀬戸さん、リュウはまだ体、治ってませんし。その話は元気になってからでも。」
ロキが、ムッとした瀬戸と焦るリュウの間に入った。
「ないない!ないですから!」
リュウは目を丸くして、必死に否定した。
「…」
プッ!瀬戸とロキはお腹を抱えて大笑いをした。
「すまん、すまん。ちょっとからかっただけや。」
「もう、勘弁して下さいよ。リリコと再婚なんて。もとちゃんが聞いたら大変ですやん。」
リュウはホッとした顔をした。リュウの言葉に瀬戸とロキは揃って怪訝な顔をした。
「…お前、リリコが乗り込んで来たの、知らんの?リリコがもと子ちゃんに、もうすぐ自分が嫁やって宣言したのはホンマの話やで。」
「え!マジですか?俺が寝てる間にそんな事が…」
「ホンマに知らんかったんやな。また八重通じてもと子にフォローしとくわ。お前は早く体を治せ。」
「は、はい。」
リュウは今朝のもと子がなんだか悲しそうな顔をしていたのは、こういうことやったんかとようやくわかった。
「それにしても、なんでお前、素人のオッサンに刺されたんや?」
「俺も不思議に思いました。あり得へんやろって。なんかの間違いやろって。」
「あ、あれはオッサンがナイフ持って部屋に飛び込んで来たのを見て、リリコが果物ナイフで応戦しようとしたんすよ。それを止める間にやられました。」
リュウの話に2人は、ああ、と大きなため息をついた。
「そういうことか。」
「リリコをかばうだけやったらオッサン取り押さえて終わりですよ。」
「リリコ、暴れたんか?」
「俺がオッサンとリリコの間にわざわざ入ってんのに、俺の前に出て俺を守ろうとするんです。」
リュウは目を伏せ、疲れたように呟いた。
「大きなお世話ってやつやな。」
ロキはウンザリしたような顔をした。
「せっかく俺を捨ててパリに行って、1人でやっとここまでになったわけでしょ。万が一、アイツがオッサンに怪我させたら、もう舞台に立てなくなりますやん。それだけはさせたらアカンって思って、…やらかしました。」
「リュウ、お前はもう嫁っていう家族がおるねんから自分を大事にせなあかんで。お前にもしものことがあったら…もと子ちゃんのこと一番に考えたれ。」
苦笑いしていたリュウをロキは固い表情でじっと見た。妻子のあるロキには身につまされる話だった。
「ホンマですね。」
「そやな、もうもと子を泣かさんようにせんとな。」
3人はしんみりと黙ってしまった。
リュウの病室の手前でアンリが立っていた。アンリはこの会話を聞いていた。
「リリコの歌のため…」
先日、リュウの病室でもと子や津田と大もめしたことで主治医からしばらくリリコは見舞いを遠慮するよう言われていた。そのためアンリはリリコの代理で見舞いに来た。リリコを守ろうとしてとは思ったが、まさかリュウがリリコの歌手としての立場も守ろうとしていたとは。アンリはドアに背を向けて歩き始めた。
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