第10話 研修オリエンテーション①-3
演説は終了し、男やその左右の従者はふっと消えた。代わりに壮大な建物がぱっと姿を現した。今まで完璧なまでに見落としていた。いや正確には「見えなかった」のほうが正しいだろう。ここにいる全員があっけにとられていることは誰一人わからなかったのだから。
現れた建物はさながらヴェルサイユ宮殿のごとく豪華絢爛、なおかつモンスター対策だろうか堅牢な城壁で囲まれている。しかしその性質の異なる柔と剛のものでさえ、一つの建物として調和している。宮殿は左右対称で白を基調とした石造りのものだ。中央には杖と剣を交えている銅像と赤色の花を描いた旗が堂々とたなびいている。花には詳しくないので何の花かはわからない。さらにその宮殿を見下ろすかのように奥にそびえたつのが、超巨大な中世風の城だ。ディズニーのシンデレラ城やハリポタのホグワーツ城などが劣って見える。高い山の上にそびえ立ち、二重の城壁に囲まれ、また四方にはそれぞれ三角の鉄塔?がある。城の周りは大きな水堀で囲まれ、城への道は宮殿とつながる石造りの桟橋しかない。またキャンドルライトのような暖かな光で満ちているのがより視線を釘づけにさせた。
「は~い、皆さん。支給品がありますのでこちらに列になって各自とっていってください。それと最後にウェポンの適性検査を行いますので研修棟A教室の指定の番号の部屋、えっと中央ホールに入って三階です。案内に従って順番に入ってくださ~い」
唐突なアナウンスに我に返る。あの宮殿みたいなのは研修棟か。渋い呼び方だな。ふと隣を見ると演説が始まる前に話しかけた男子はいなくなっていた。遠目に見るとほかの男子と仲良さげに話している。多分彼が一次試験とやらのパートナーなのだろう。もう慣れたことだ。私の周りはいつもこうして誰一人いなくなる。小学校中学校高校大学で何回も経験してきた。慣れたことだ。
すでに大半がもう理解を捨て、あきらめて人の流れに身を任せて案内通り支給品を受け取りに行っている。どうも話がうまく進みすぎているような気がするが、これ以降どうすることもできない。振り返ると降りたはずの駅のホームが消えており、帰り先もわからない。私も同様、すでに先に行った集団を追いかけるように支給品受け取りに向かうしか手がなかった。
受けとったものは制服なのだろう胸にあの宮殿の旗と同じ花の紋章がついた白いローブやテキストのようなものを何冊か、部屋の鍵、その他文房具や日用品の類だ。
「えーと、次はA101教室だっけ」
案内表示に従ってそこへ着くとすでに長い行列ができていた。私が最後尾だ。ただ行列の消化スピードは速い。周囲が会話で盛り上がる中、私はただ一人行列を待ち続けた。
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