神人の師匠

渋谷かな

第1話 師匠は最後に美味しい所を持っていく

「キャッハッハー! そんな訳ないだろうが!」

 お笑い番組のテレビを居間で見ながら馬鹿笑いしながら横になりお腹をかきながら屁をこく女。天人のエルエル。自堕落極まりない俺の師匠だ。

「エルエル。」

 俺は神人の築。高校3年生の18才。

「キャッハッハー! 面白い! 面白い!」

 しかしテレビに夢中の天人には俺の声は届かない。

「・・・・・・。」

 俺のストレスは徐々に上昇する。

「おい、エルエル。」

「キャッハッハー! そうくるか! やるな!」

「こら! 居候分際で俺の話を聞け!」

 遂にキレる俺。

「居候ではない。私のことは師匠と呼びなさい。このバカ弟子が。」

 真顔で俺に一言を食らわせる天人。

「な、な、何をー!?」

 俺の怒りは最高潮に達する。

「やったー! 1位だ! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「ダメだ。こりゃ・・・・・・エルエルには勝てない。」

 弟子はお祭り好きの師匠に投げやりな態度を見せる。

「お茶。」

「はい、ただいま。」

 俺は師匠の天人にお茶を出す。

「おやつ。」

「はい、直ぐに。」

 台所と居間を駆け回るパシリな俺。

「熱燗。」

「はい、熱燗一丁喜んで!」

 自分の家の中で既に居酒屋の定員とかしている俺は甲斐甲斐しく天人の世話をする。

「おつまみ。卵焼きがいいな。」

「はい、直ぐに焼きます!」

 普段料理なんかしない俺は師匠のために卵焼きを焼いた。

「えー!? 真っ黒焦げなんですけど・・・・・・まずそう。」

 もちろん俺は料理なんかできる訳がない。

「仕方がない。卵も焼けない弟子のために天人である私自らが卵を焼いてやろう。」

 天人はフライパンに火をつけ卵を焼き始めた。

「ホイ! ホイ! ホイ!」

 手際よく出汁を入れて卵を焼いて撒いていく。

「できました! エルエル特製卵焼き! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 俺の背中を見ろ的に華麗に料理を作り終えた天人。

「お、美味しそうだ。」

 意外に美味しそうな卵焼きが出来たので度肝を抜かれた俺。

「見たか! お嫁さんにしたい天人ランキング1位の実力を!」

 そんなランキングがあるのだろうか。

「どこで料理を習ったんだ!?」

「私は神様のお食事を毎日作っていたんだ。だからどんな料理もお手の物なのだ。私は決める時は決めるのだ! 伊達に自堕落はしてないぜ! キャッハッハー!」

 得意げに私の背中を見ろと指さす天人。

「ま、負けた・・・・・・。」

 師匠の前に完膚なきまでに敗れる弟子。

「クソッ!? 何かがおかしい!? 俺はこんな人間ではなかったはずだ!?」

 俺は師匠との出会いを思い出してみた。


回想。

俺と師匠のひょんな出会い。


 ある日。

「ウワアアアアアー!?」

 朝、目が覚めると全身が痛い。まるで体から蒸気があふれ出て体が燃えるように痛い。痛さで目が覚めた。

「はあ・・・・・・、はあ・・・・・・、一体何だったんだ!?」

 俺は自分に何が起きたのか分からなかった。

「おまえ、人を殺したな?」

「はあ!? 俺は人なんか殺していない!?」

「いいや。おまえは人を殺した。」

「誰を!? 私がいったい誰を殺したと言うんだ!?」

「自分自身だ。」

 俺は自分自身を殺した。

「はあ!? 俺は生きている!? 何を言っているんだ!?」

「違う。確かにおまえは自分を殺した。死んだのはおまえの心だ。」

 確かに俺は自分の心を殺した。


(辛い)

 俺は腐っていた。

(生きるのが辛い。楽しいことなんて何も無い。幸せになんてなれない。)

 俺の人生は何一つ上手くいかない。学校も就職も何一つ上手くいかない。誰とも会話する訳でなく一人でスマホをいじるだけの日々。でも俺は自殺する勇気もない臆病者だ。

(そうだ。死のう。生きながら死のう。自分が死んでいると思えば苦しまなくて済むはずだ。そうしよう。今の俺は生きているのか死んでいるのか分からないのだから。俺だけではない。多くの人間が何のために生まれてきたのか? 何のために生きているのか分からない人生を送っているのだから。)

 俺は心を殺した。


「そうだ。俺は自分の心を殺した。辛いことや悲しいことを感じなくさせるために。自分が傷つかないように。人間として生きるのには、今の時代は余りにも辛すぎて。」

 俺は救われたかっただけかもしれない。この何も無い世界から。死ぬことでしかこの残酷な世界から抜けだす方法は俺にはなかった。

「大丈夫! あなたの人生は今から変わります!」

「え?」

「私があなたの人生を変えてみせます!」

 君に出会うまでは。

「ニコッ!」

 俺は死にながら生きる以外に、普通の人間が生きる虚無世界から抜け出す方法があることを初めて知った。明るく笑っている君がいるだけで俺の中の何かが変わろうとしていた。


「おめでとうございます! あなたは超レアな神人になりました! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 大はしゃぎする君。

「神人?」

「はい! 自分自身を殺したら普通は殺人になるのですが、極稀に神様により救済さ神人になれるんです! 私も神人なんて初めて見ましたよ! 1億人に1人の確立です! 宝くじよりも当たりにくいんですから! あなたはスゴイんです! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「え・・・・・・。」

 俺はレアキャラになったらしい。

「すまん。意味がよく分からないんだが?」

「え!? 頭が弱いんですか!? 残念な人ですね・・・・・・。」

「違うわい! そんなややこしい説明で分かったら誰も苦労しない!」

「仕方がありません。最初から説明しましょう。」

「よろしくお願いします。」

 分からない時は教えてくれる人に素直に頭を下げる俺。

「罪を犯していない人間は純人。」

「罪を犯した人間は罪人。」

「死んだ人間は死人。」

「人を殺した人間は殺人。」

「そして、あなたは神様に救われた神人です。」

「ありがとうございます。なんとなく分かりました。」

 俺は教えてもらったので感謝と一礼をする。

「分かってくれましたか! それは良かった! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「そしてあなたは騒ぐのが大好きな変態の変人ですよね。」

「はい、その通り! ・・・・・・なんでやねん!」

 君はノリつっこみもできた。

「私は死んで天使になった天人です! これでも神様の使途なんですからね! エッヘン!」

「見えな~い。」

「そんなにいじめないで下さい。うえ~ん! うえ~ん! うえ~ん!」

 天人は大声で泣きだした。

「ウワア!? 分かった! 分かったから泣かないで! 俺が悪かった! 君は立派な天人だ!」

「本当に?」

 少し泣き止み確認する天人。

「本当に。」

「本当にの本当に?」

「本当だ!」

 意外に疑り深い天人。

「やったー! 私は立派な天人だー! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「なんて面倒臭い奴なんだ。」

 天人は喜怒哀楽が激しかった。

「死んで天人になってから弾けたんだ。後悔しないように生きようと。我慢するのをやめたんだ。これでも私は生きている時は大人しかったんだぞ。」

「絶対に嘘だ。」

「イエーイ! パーティーだ! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」


「あ。」

 天人は何かを思い出した。

「自己紹介が遅くなりました。私、こういう者です。」

 天人は一枚の名刺を差し出す。

「神人の師匠?」

 名刺には神人の師匠の天人エルエルと書いてあった。

「はい! 私があなたを一人前の神人にして見せます! 今日から私のことを師匠と呼びなさい!」

「パス。」

 しかし俺は天人の申し出を断る。

「ええー!? どうして!? こんなにカワイイお姉さんがあなたの師匠になってあげようとしているのに!? どこに断る理由があるのよ!?」

「俺はお化けとかオカルトに興味はないし、それに。」

「それに?」

「俺はただ平和に毎日が暮らせればいい。」

「え?」

「俺は嫌なことが無くて、普通に生きていければいいだけなんだ。」

 俺は嫌なことが多すぎる人生に疲れ切っていた。

「あ、そっか。忘れてた。こいつ自分の心を殺しきれるぐらい腐ってるんだった。」

 そう、俺は賞味期限が過ぎた生きる人間として腐っていた。

「引きこもりに入る所だったのね。若いのに人生を捨てるなんてもったいない。これから部屋に閉じこもって一人でスマホばっかりいじってる寂しい時間を過ごすのね。可哀そう。」

「うるさい! ほっとけ! 帰れ! 帰れ!」

 自分がダメな奴だと自分自身が一番分かっていた。


「クソッ! 嫌になる! まるで自分の心と話しているみたいだ。」

 俺は心を見透かされたように図星だったので自分自身の不甲斐なさに苛立っていた。

「トイレはあっちだよ。」

「そりゃあ、どうも・・・・・・はあっ!? なんでおまえがまだいるんだよ!?」

「私はおまえの師匠だからな。ニコッ!」

 現れたのは天人だった。

「俺のことは放っておいてくれ! 俺に取り憑くな! 魑魅魍魎め!」

「おお! 天人の私を妖怪扱いとは、おまえ中々見込みがあるじゃないか!」

(神様から神人の教育を命じられたのに、今帰ったら私が神様に怒られてしまう! それだけは避けなければ!)

 これが天人の本音である。誰しも自己の利害を追求するものである。

「まあ、気にするな。天人の私の姿はおまえにしか見えない。今日から私たちは家族だ! よろしくな! ワッハッハー!」

「勝手に家族になるなよ!? この背後霊が!? 俺に取り憑くな!」

「酷い言われようだな。これでも私、可愛いのに・・・・・・。」

「勝手に落ち込まないでくれ!?」

 暗くなる天人。

「なら一緒に暮らしていい?」

「勝手にしろ!」

「いただきました! 同棲許可! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「既に勝手にしてるんだよな・・・・・・。」

 俺は変わった天人と一緒に暮らすことになった。


「築、ご飯よ。」

「はい。」

 息子を呼ぶ母親の声がする。

「やったー! ご飯だ! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「おまえの分はないぞ。」

「安心しろ。私の姿はおまえの家族には見えない。コッソリ食べるから。丁度お腹が空いていたんだ。アハッ!」

「なんて厚かましい奴なんだ。」

 少しも悪びれない天人。


「・・・・・・。」

 特に家族の会話もなく食卓に置かれたコンビニ弁当を黙々と食べる俺。

「おい。」

「なんだよ?」

「もっと、こう「美味しい!」とか「おかわり!」とか「今日、学校で楽しいことがあったんだ!」とか家族の会話や笑い声はないのか?」

 天人エルエルの素朴な疑問。

「それはいつの時代の日本だよ? 今の時代は家族でもケンカしたくないから会話しないし、ご飯を食べながらでもスマホばっかりいじってるし、親や兄弟がいても他人と暮らしている様なものだよ。」

「悲しいな。これでも家族か? 子供が親から愛されたっていう実感がないんだろうな。そりゃあ、暴力やいじめをする奴も発生するだろうし、おまえみたいに引きこもるわな。」

「ほっとけ! 父さんは仕事仕事。家にいても「勉強しろ!」しか言ってこないし。母さんは既に家事を放棄している腐女子だし。小学生の妹の相手をしても疲れるだけだからな。」

 天人に同情される不憫な家族を持つ俺。

「美味しい! 最近のコンビニ弁当は美味しいんだな! 天界にもコンビニできないかな?」

「おまえ!? 俺の話を聞いてるか!?」

「この煮物の出汁は昆布か? カツオで出汁を取った方が美味しそうだな。」

「俺の話を聞け!」

 一つのことに集中すると他人の話を聞かない天人。

「築、ご飯は静かに食べな。うるさいお父さんがいなくて家の中が平和なんだから。」

 俺の母さんは、バブル崩壊後に何の楽しいこともなく生きてきて就職先も無いから結婚相談所で就職している父親とお見合いして俺を作って結婚に持ち込み、お金を手に入れた損得勘定のできる女である。

「築お兄ちゃんは頭がおかしいんだよ。それにお父さんもお母さんに愛想を尽かして若い女と浮気しているんだよ。」

 可愛げのない妹は、まだ小学一年生。しかしスマホも使えるし、知らない言葉はネット検索するので発言はませている。それでも子供でもスマホが使えないと就職どころか進学するできない時代がやって来ている。

「いや~、愉快なご家族だ。」

「うるさい!」

 本当に今の生きる人間は天人から見れば同情されるばかりの生活だ。家族なんて親の性処理とお金だけで成り立っているだけの関係なのかもしれない。


「あれ?」

 ふと母親を見ると黒く見えた。

「なんだ? 目がおかしい。」

 妹は白く見える。

「魂の色だよ。」

「魂の色?」

 天人は何事もないように普通に答える。

「魂色ともいう。おまえの母親は何らかの罪を犯したから魂の色が黒いので黒く見える罪人。妹はまだ幼く純粋な魂を持っているから純人だ。」

 白人と黒人では人種差別に抵触するので呼び名を訂正した。

「なんだよ!? それ!? まさか!? さっきの話は本当だったのか!?」

「今更理解したのか?」

「じゃあ、おまえは食事泥棒の悪霊ではなく天使の天人だというのか!?」

「はい! その通り! 良く出来ました! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 いちいち騒がしい天人。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・。」

「おい、大丈夫か? おまえだいぶん疲れてるな。」

「分かってくれるか? これぐらい個性の強いキャラクター作りをしないとテレビアニメになれないんだ!」

「おまえはどこを目指しているんだ?」

「もちろん、おまえの師匠だよ。エヘッ!」

 俺に取り憑いたのは幽霊でもお化けでもなく天使の天人だった。

「ジッー。」

 妹が天人を見つめている。

(見えるのか!? 俺の妹には天人の姿が!?)

「お嬢ちゃん。お名前は?」

 天人は妹に尋ねてみた。

「ポーちゃん。」

「ポーちゃん?」

「カワイイからポーちゃんなの。」

「カワイイね。ポーちゃん。私はエルエルだよ。」

 不思議と天人と妹の会話は成立していた。

「ポー、見えるのか!? この変態が!」

「違う! 私はカワイイ天人だ!」

「見えるよ。きれいなお姉さん。」

「なんて可愛いんだ! 兄とは違って。」

 確かに妹には天人の姿が見えていた。

「おい、どういうことだ? 俺以外の者にはおまえの姿は見えないんじゃなかったのか?」

「極稀に子供みたいに純粋で汚れていない者には稀に見えることはある。」

「こいつのどこが純粋だ! ただのマセガキだぞ!」

「おまえの家族がレア過ぎるんだよ!」

 俺の家族はレア家族らしい。

「エルエルお姉ちゃんは築お兄ちゃんの彼女?」

「違うよ。私はお兄ちゃんの家族だよ。だから私はポーちゃんの家族でもあるんだ。」

「分かった。彼女じゃなくて奥さんなんだ。」

「こらー!? なんでそうなるんだ!?」

「バレた。その通りだよ。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「やったー! アハッ!」

 妹は大正解したらしい。

「おかしいだろ!? おまえは俺の師匠なんだろう?」

「深く考えるな。私とおまえは師弟であり、時に家族であり、時に友であり、時に恋人、妻にもなりうる存在だ。」

「なんじゃそりゃ!?」

 こうして神人になった俺に嫁ができたらしい。

「確かにおまえは私の弟子だ。ニコッ!」

「そういうおまえも俺の師匠だ。ニコッ!」

 俺と天人はお互いに認め合える弟子と師匠、師弟になった。

 

「そのケーキは俺の物だ!」

「いいや! 私のだ! ケーキを師匠によこせ! バカ弟子が!」

「師匠なら可愛い弟子にケーキぐらい譲ればいいだろ!」

 一つのケーキを奪い合う師弟は時には宿敵にもなりうる関係でもある。

「夫婦ケンカはほどほどにね。」

 優秀な妹は夫婦関係を注意喚起する。


 だが、これだけで終わらなかった。

「ただいま。」

「おかえり、父さ・・・・・・ん!?」

 俺の父親が仕事から帰ってきた。

「赤だ。真っ赤っかだ!?」

 帰ってきた父親の魂は俺には赤く見えた。

「まさか!? 父さんは人を殺したのか!?」

 息子の俺に衝撃が走る。

「おまえの父ちゃんは人殺しだ。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「茶化すな!」

 天人は人を馬鹿にする癖があるので困る。


「おやじ! おまえは人を殺したのか?」

 父親に詰め寄る俺。

「築!? なぜおまえは私が人を殺したと知っている!?」

「な、何となくだよ!?」

「実は・・・・・・会社で上司のパワハラが酷くて耐えきれなくなって、カッとなって殺してしまったんだ。」

 父親は人間を殺した殺人になってしまった。

「そ、そんな!? 俺の父さんが人殺しだなんて!? 何やってるんだよー!? ウワアアアアアアアアー!」

 俺には自分に起きたことが理解できなくて錯乱した。

「すまん。」

 下を向いて反省するしかできない父親がいた。

(なんだ!? なんなんだ!? 自分の父親が人殺しで!? 普通に家族でご飯を食べている!?)

 ご飯を食べている父親が母親や妹と一緒に過ごしている異様な光景に俺は気持ち悪くなる。


「はあ・・・・・・。」

 落ち着いた俺だがため息が零れる。

「そう落ち込むな。これも神人になったおまえの宿命だな。」

「俺は好きで神人になった訳じゃない!」

「でも神人にならなければ、おまえは引きこもりで一生一人ぼっちで自分の家の中に閉じこもる生活を送っていたはずだ。」

「なっ!?」

 その通りなので何も言い返すことができない。

「力を得たからには、何か反動や副作用はあるものだ。誰だって全てが上手くいくわけじゃない。」

 哀れな俺を慰める天人。

「あのな。落ち着いていられるか。自分の、自分の父さんが人を殺したと考えてみろ! 気持ちが悪くなるぞ!」

「落ち着け。興奮するな。でも殺した相手が罪人で良かったな。」

 死んだのは父親のパワハラ、いじめ上司。

「どこが良かったんだよ!?」

「もし白い魂の純人を殺してしまったら、大変なことになるぞ。」

「大変なこと?」

「それはその時のお楽しみに取っておこう。さあ、風呂にでも入って嫌なことは洗い流そう! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 これでも天人は落ち込んだ俺を慰めてくれている。師匠というよりは友とやけ酒を飲みながら他人の悪口を言いまくるように。


「これから俺は他人の魂の色を気にしながら生きなければいけないのか・・・・・・はあ・・・・・・。」

 俺は湯船に沈みながら人生を考えていた。

「頼もう!」

 そこに裸の天人が入ってくる。

「な、なに!?」

「気にするな。読者サービスだ。エロ要素もないと人気がでないらしい。それに死人から天人になった私には生きているおまえは触れることすらできない。だからお化けの私は裸ぐらい見られても恥ずかしくもない。ワッハッハー!」

「そういうものか?」

「そういうものだ。」

 俺は天人と混浴する。見れても触れないのではエロ画像を見ているに過ぎない。

「生きてるってどんな感じだ?」

「え?」

「私は死んでしまってから命があることの大切さが分かる。もっと生きてる時に何でもやっておけば良かったな~っと後悔している。」

 天人は俺に人生を大切にしろと言っているのが分かる。

「お化け屋敷、ジェットコースター、崖の上から自殺未遂する奴、大食い選手権・・・・・・彼氏ができたらキスとかしてみたかったな。怖がらずにやっていれば死んでからもいい思い出だったんだけどな。」

「すごい未練だ。だから地縛霊になったんだな。」

「違う。私は天人だ。」

 しんみりする天人。

「俺を励ましてくれているのか?」

「そうだよ。引きこもるな。引きこもるくらいなら何でもやって戦死しろ。一人ぼっちに負けない強さを持て。おまえは私の弟子なんだからな。」

 いつも騒がしいのが元気がなくなると、逆にこっちが気を使ってしまう。

「おまえ、いい奴だな。」

「よく言われます! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 少し元気を取り戻す天人。

「触れられないなら形だけだがキスしてやろう。」

「おっ!? いいのか? 頼む。これで私のこの世の未練が一つ減って成仏できるわ・・・・・・なんでやねん!」

 ドキドキしながら天人は目を閉じる。

「チュ。」

 俺は天人の唇に自分の唇を当てる。

「うん!?」

 俺と天人は目を丸くする。唇が触れ合う感触があったのだ。

「ギャアアアアアアー!? なんでおまえは私に触れられるんだ!?」

 天人は俺を吹き飛ばす。

「知るか!? おまえが知らないものを俺が知る訳ないだろうが!」

「それもそうだな。うん。納得。」

 思わず納得する天人。

「だが私に触れると分かった以上は私に近づくな! 出ていけ! これは乙女の危機だ! この変態野郎! 覗き! 痴漢! 私は弟子をそんな風に育てた覚えはないぞ! 汚らわしい!」

 たらいやジャンプーの容器などを投げつける天人。

「ウワアアアアアアアアー!? いったい何なんだよ!?」

 走って風呂の外に逃げる俺。

「まったく男という生き物はスケベだな・・・・・・でも良かったな。キス。アハッ!」

 生きてる人間は生人。生人は生人にしか触れられず、天人には触れられない。だが神人になった俺は生人にも天人にも触れることができるようだ。

「風呂上がりの生ビールって美味しいんだろうな。」

 生人を生ビールと同じニュアンスだと感じる俺だけではないはずだ。

「私の夢が一つ叶いました! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 天人の彼女は言う。

「私は生きている時は目立っていじめられないように静かに息を殺して生きてきましたよ。」

 と、まったく現在の姿からは想像できないお言葉でした。 


「久しぶりの学校だな! アハッ!」

 天人は俺について学校に行くつもりだ。

「おまえ、俺の学校についてくる気か!?」

「当たり前だ! 私はなんてったって師匠なんだからな! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 そうだ。こいつが騒がしくて忘れていたが俺は高校三年生。大学入試に落ち、就職先も決まらない。春にはどこにも属さない無味無臭のある意味で高貴な存在になる。

「おお!? 俺が自分の心を殺した理由を思い出したぜ。」

 勉強や仕事をしない生活は落ちこぼれの俺もお金持ちの生活と同じ。違うのはお金があるかないかだけで暇な毎日が待っているのだ。

「行ってきます。」

 これから何が起こるか知らない俺はいつも通りに家を出た。


「なんじゃこりゃ!?」

 通学路を歩く俺の視界に奇妙な光景が広がっている。

「白、黒、赤、また白・・・・・・うえ~。気持ち悪い。」

 道を歩く人の魂の色が見えてしまうのだ。子供は罪を犯していない白色、中高生辺りから罪を犯した黒色が混ざってくる。大人のほとんどが魂の色が黒色だったことにはビックリだ。

「師匠、俺の視界を普通に戻してくれませんか? 人酔いしそうだ。うえ~。」

 俺は目が回りそうで気持ち悪かった。

「無理。これも神人の特権だ。いいじゃないか、どいつが良い奴で、どいつが悪い奴なのか一目で分かるんだから。みんなの憧れだぞ。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「ええ~い!? 外に出ても騒がしい!?」

 確かに生きている人間が自分の周りの人間が心の中で何を考えているか分かれば騙されずに済むし危ない奴には近づかなく良いので安全だろう。だが人々の憧れのスキルは実際に手に入れてしまえば地獄のようなものだった。笑っている人間も黒、きれいなお姉さんも黒。この世は罪人でできているのかよ。

「意外に人殺しも多いしな。なんで誰かを殺したのに人間の中に紛れて普通に暮らしてるんだ。全く理解できねえ。」

 人を殺した者は魂の色が赤色になる。俺の父親もそうだ。そうしないと生きていけないのも分かる。だが自分が人を殺したことがないのでどういう気持ちになるのか分からねえ。共感できない。

「うん?」

 俺は赤色の中に点滅している者を見つけた。

「師匠、赤色で点滅しているのがあるがあれはなんだ?」

「あれは罪を犯していない者を殺してしまった者を知らせるために点滅しているんだ。罪を犯していない者を殺した者は本当の殺人者だ。それ相当の同等の報いを受ける必要がある。」

「等価交換? 殴られたら殴り返してもいいみたいなやつか? 自分を無くさないために。」

「そうだ。他人を殺した者は自分の命で償わなければいけない。誰の命でも命の重さに違いはない。命は誰にでも平等だからな。」

 俺は師匠から命の大切さを学ぶ。

「くるぞ。奴が。」

「え?」

 その時、魂が赤く点滅していた者の首が飛ぶ。

「なんだ!? 今、赤く点滅している人の首が飛んだように見えたぞ!?」

 実際には魂が赤く点滅した人が道端に倒れて急死した。

「あれ? 魂の色が見えなくなった。」

「死んだのだろう。魂を狩られたんだ。」

 倒れた人の側に黒装束を着て大きな鎌を持った人間が立っていた。

「あいつに。」

「なんだ!? あの危なそうな奴は!?」

「死神の死人のキルキルだ。」

 死人とは死んだ人間のことである。ただし死人は天使の天人になるものもいれば、死神の死人になる者もいる。

「エルエルー!」

 死人が天人に笑顔で親しみを込めて猛スピードで近づいてくる。

「俺と付き合ってください!」

「嫌です。」

「俺と結婚してください!」

「無理。」

「俺の子供を産んでください!」

「落ち着けー!!!!!!!」

 危険な死人を拳の一撃で粉砕する天人。

「見たか! 天人お嫁様にしたいランキング1位の実力を!」

「それは置いといてストーカー規制法で警察に訴えようぜ。」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「なんて危険な奴なんだ!?」

「ある意味な。」

 俺は死人に恐怖を感じる。

「エルエル。こいつはなんだ!? おまえには俺という立派な伴侶がいるのに!?」

「いや、私はおまえのものではないぞ。」

 そしてしおらしくキャラクターチェンジした天人は言う。

「ごめんなさい! キルキル! 私の唇はこいつに奪われてしまったんだ! ウエ~ン!」

 嘘泣きまでして可愛い子ぶる天人。

「なんだとー!?」

 自分が好きな女が他の男とキスをしたと聞いて驚く死人。

「許さんぞー!!!!!!!! 俺のエルエルを泣かせたなー!!!!!!!」

 怒り狂う死人。

「え? あれって俺のせい?」

 合意の元に求められてしたキスだったので首を傾げる俺。

「こいつが嫌がる私を男の力で無理やりに! 抵抗したんだが所詮女の私の力では男には勝てなかった。シクシク。」

「はあっ!? キスを求めてきたのはおまえの方だろうが!?」

 ケンカできるほど仲はいい。

「ふざけるな! 俺があの世に連れていく!」

 死人は鎌を構え戦闘態勢に入るが何かに気づく。

「ん? なんだ? こいつ、魂に色がないぞ?」

 俺の魂は色を発していないらしい。

「でも俺のエルエルに触れることが出来たということは死んでるんだよな。ということは死人の俺にはおまえを狩る権利があるってことだな。ニヤッ!」

 嬉しそうに笑う死人。

「死んで人の女に手を出したことを反省しろ!」

 突進する死人。

「逃げないと、逃げないと殺される!」

 俺はお呼び足で必死に逃げようとする。

「なに!?」

 死人の鎌は空を斬り空振りした。

「ウワアアアアア!? え?」

 気がつけば俺は死人と間合いの取れる距離まで離れていた。

「バカな!? 俺の鎌は確かにあいつの魂を狩っていたはずだ!? まさか!? この俺が仕損じるなんて!?」

「どうして俺はここにいるんだ!? あいつの鎌に首を狩られていたはずなのに!?」

 俺も死人も一瞬の事態が把握できない。

「キルキルは相変わらず詰めが甘いな。そんなんだから私が首を縦に触れないんだ。」

 天人が前に出てくる。

「エルエル、あいつは何者だ?」

「神人。私の弟子だ。」

 誇らしげに自分の弟子を紹介する天人。


「神人!? こいつが、あの伝説の神人だというのか!? 神人は伝説の存在で実在はしないだろうが!?」

「私も神人を見たのは初めてだ。」

 死人は神人という言葉を聞いて動揺している。

「それに弟子って、なんで天人のおまえが弟子を持つんだ?」

「知らない。神様の命令だもの。天人の私に拒否権はない。」

 天人は俺の元に瞬間移動して近くに来る。 

「今のが神足だ。」

「神足?」

「おまえは神人なのだから神のように早く動けるのだ。いきなりの実践の相手が死人になったのは不幸だが、これも神人のおまえの運命だと思え。」

 俺の神人としての戦いが始まる。

「神人として神の力を使え。」

「いきなりそんなことを言われても!?」

「念じろ。おまえの心が死んでいなければ、何でもおまえの願い通りになる。だっておまえは神人なのだから。」

 天人は俺を地獄の谷に突き落とす。

「安心しろ。おまえには才能がある。たくさんの神人候補生の中から私が見初めたのだ。自分の師匠の見る目を信じろ。安心しろ。私がサポートしてやる。私はおまえを見捨てない。なんてったっておまえは私の弟子だからな。」

「師匠・・・・・・。」

 天人の言葉に感動する俺。

「がんばってね。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「あ!? おい!? コラ!? 待て!? 逃げるな!?」

 言葉とは裏腹に天人は俺の元から過ぎ去っていく。


「待たせたな。」

 天人は死人の元に戻って来る。

「バカな弟子をもつと苦労するな。」

「まったくだ。見込みがなければ殺していい。それまでの奴だったんだろう。師匠だからといって苦労して弟子を育てる義務はない。」

 天人は師匠としては厳しかった。

「やっちゃっていいよ。キルキル。」

「分かった。俺に任せろ!」

 死人は俺に向かってくる。

「来る!」

「見せてみろ! おまえの実力を! おまえが本当の神人なら俺の攻撃くらい凌げるはずだ!」

 俺は神足で必死に死人の攻撃をかわし続ける。

「遅い!」

 完全に俺の間合いに死人に入られた。

(死ぬ!? 俺はここまでなのか!?)

 素直に俺は死を覚悟した。


(何もせず、何もできず、何も残さずに俺はここで死ぬのか?)

 愚かな俺の自問自答が始まる。

(俺は生きているのに何もしていない。若しくは何かをしたという実感がない。ただただ決められたレールの上を生きてきただけだ。小学校、中学校、高校と普通に生きてきただけだ。だが、その普通って誰が決めたんだ?)

 18年も生きていれば世の中の矛盾に気づく。

(俺はまだ何もしていない。)

 何が正しくて何が悪いなんて話をしているんじゃない。一部の人間が物事を決めている間に、その他大勢の人間は悩み苦しみ、何も得ないままに、その人生を終えてしまう。

(生きている間に色々やっておけば良かったな~っと言う師匠の言葉は本心だ。死んで初めて生きていることの有難さが分かるんだ。まあ、生きている俺には共感できない話だがな。)

 生人には死人の気持ちは分からない。

(それでも死を直面した今なら分かる。)

 同じ境遇を共有しなければ相手を理解し合うことはできない。

(生きたい!)

 俺は素直に思った。

(何かしたいものができた訳じゃないけど、死を直前にした今なら分かる。命は尊い、死にたくもない、生きていればなんだってできるんだ! 命の可能性は無限大だ!)

 その時、俺の意思に呼応して何かが生まれる。

「これは!?」

 俺の手に輝く剣が握られていて、死人の鎌をしっかりと剣で受け止めている。

「神剣だ。おまえが望んで生まれたおまえだけの剣だ。」

「俺の剣!?」

 神々しく剣は光を放っていた。どこか力強く、どこか優しく。

「見せてみろ。おまえの力を。証明して見せろ。おまえが生きているという証を。」

「そうだ。俺は生きている。生きているのに死んでいる訳ないじゃないか。自分自身で死んでいるように生きてると思い込んでいただけだ。俺は、俺は、俺は生きているんだ!」

 俺の神の光は益々光を解き放つ。

「バカな!? 俺の鎌を受け止めただと!? なんでこいつは光ってるんだよ!?」

 想定外の出来事に戸惑う死人。

「私の弟子だからな。」

 勝ち誇る天人。

「男を見る目はあるんだ。何て言ったってお嫁様にしたい天人ランキング1位だからな。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「認めたくなけど、認めたくないけど、こんな陽気で自堕落だけど、こいつの思い通りに事が進んでいる様な気がする。俺の力を引き出すために態と死人をぶつけたのか!?」

 俺は天人のことを認め始めていた。

「良かったな。私が師匠で。私と付き合っていると男が成長するんだ。なんてったって私は。」

「お嫁様にしたい天人ランキング1位なんだろ。」

「違う。師匠にしたい天人ランキング1位だ! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「もう勝手にしてくれ。こいつの元で少しでも学びたいと師匠と認めた自分が嫌になるぜ。」

「私は師匠! おまえは弟子! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「いちいち騒ぐな!」

「今日のおやつは何かな? お饅頭? ケーキ? ポテチも捨てがたいな。」

「食うことしか頭にないのかよ!?」

「ないよ。師匠に対して、その口の利き方は! 師匠は偉いのだ! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「ワッハッハー! もう笑うしかない。それで人間って結構生きていけるもんだな。」

「そうだ。死ぬまで人生は終わらないからな。嫌なことは笑って忘れて、できるだけ前向きに生きろ。死んだふりしていると命を無駄にしてしまうからな。」

「ああ、命は尊いな。大切にしたくなってきたぜ。」

 戦闘中でも緊張感の無い師弟。

(俺の周りの人間は物心がついた頃には、死にながら生きている奴ばかりだった。家族も友達も教師も。だから自分も心を殺すぐらい死にながら生きることを選んだ。決められたレールしか選択肢はなかった。レールから脱線すれば落ちこぼれになってしまうからだ。なんて嫌な世の中だ。)

 俺は一部の権力者が決めた現代の社会ルールの真実の裏の裏までたどり着く。

(こんなに明るく人と話したことがねえ。こんな前向きで騒がしい奴なんていないのが現実だからな。クラスにいたら、こいつの内申書の点数は最低だろうよ。今まで生きてきた時間より、師匠と出会ってからの短い時間の方が教えられることが多いぜ。まったくムカつくぜ。)

 俺は出会いの大切さや導いてくれる人間が周りに一人でもいれば自分の世界が変わることを実感していた。

「こらー! ふざけるな! この俺様を無視してんじゃねえぞ!」

「あ、忘れてた。ごめんね。アハッ!」

 死人が存在を忘れられたことに腹を立てて怒っていた。

「おい! おまえ! 弟子なんて師匠のパシリだろうが! 俺のエルエルに偉そうな口を叩いているんじゃねえぞ!」

「だから私はおまえのものじゃないって。」

「パシリ!? そうか俺は師匠のパシリだったのか!? 弟子と書いてパシリと読むのか。うん。良い勉強になった。ありがとう。」

 相反する二人が似た者師弟になってきた。

「ふざけんな! 何、感謝してんだよ! なめてると殺すぞ!」

「こいよ。」

「あん?」

「俺には師匠と神の剣がある。おまえなんかに負ける訳がない。」

 自信に満ち溢れている俺。

「その通りだ。おまえは私の弟子だからな。」

「悔しいけど認めてやるぜ。師匠。」

 俺が強くなったのは俺に師匠という信じられるものができたからだろう。信じるものがいる時に人の心は強くなる。

「殺してやる! 殺して地獄の奥深くにおまえの魂を封印してやる! 痛みを感じながら永遠に奈落で苦しませてやる! 師匠の彼氏に歯向かったことを後悔させてやる!」

「私はおまえの彼女じゃないし。キルキル。そんな復讐心で冷静さを欠いて挑んだら負けるよ。」

 天人は死人が敗北すると言い放つ。

「はあっ!? 俺が、この俺様があんな弱っちい奴に負けるというのか!?」

「そうだよ。だってあいつは私のカワイイ弟子だからな。」

「こい! 返り討ちにしてやる!」

 師匠も弟子である俺を信じていた。師匠を信じている俺は実力はないが自信だけは湧いてくる。

「あり得ねえ。そんな簡単に強くなれたら努力は要らねえんだよ!」

 怒りに任せて俺に突撃しようとする死人。

「まったく詰めの甘い男だ。」

 その時、何かが黒く光り輝く。

「なんだ!?」

 死人が狩った殺人の辺りから闇が湧き出してくる。

「しまった!? エルエルに目が暗んで殺人の魂をほったらかしだった!?」

 死人は悪い魂を狩ったらあの世に連れていくのが仕事である。女に目が暗みお仕事をサボった死人さん。

「こんにちは。皆さん。」

 闇は人の姿を形成していく。

「なんだ!? あいつは!?」

「魔人だ。」

「魔人!?」

「殺人の魂が悪魔を呼び寄せたんだ。悪魔が殺人の汚れた魂を糧にして魔人が生み出すんだ。」

 魔人が現れる。

「これもどこかの誰かさんが殺人の狩った魂をさっさとあの世に連れていかないからだ。」

「あいつのせいか。」

「ギクッ!?」

 死人は針の筵であった。

「ちょうどいい。おまえたち二人であの魔人を倒しちゃおう。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「はあっ!? あんな奴、俺一人で十分だ! おまえは手を出すな!」

「嫌だ。俺が倒す。」

「なんだと!?」

「俺は師匠のパシリだからな。師匠に言われたことは忠実に守らなければ。」

「何を!?」

 こういう時だけは師匠のパシリを上手に利用する俺。

「じゃあ。早い者が知ってことで。」

 俺は神足で魔人に瞬時に近づく。

「ああ!? 汚いぞ!? 卑怯者!?」

「女と敵は先に手を出した男の勝ちなんだよ!」

 俺は神剣で魔人に斬りかかる。

「え?」

 しかし俺の剣は魔人をすり抜けた。

「あなた、バカですか?」

「ギャアアアアアアー!」

 俺は魔人の拳の攻撃を受けて吹き飛ばされる。

「あ、ごめんなさい。剣に神の力を流し込むんだよって言うのを言い忘れちゃった。アハッ!」

「ふざけるな! 言い忘れていいことと悪いことがあるだろうが! もう少しで俺は死ぬ所だったんだぞ!」

「そんなに怒らないで。私は可愛いから許して。アハッ!」

「許せるか!」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「あんな雑魚の魔人すら倒せないなんて、おまえ本当に神人かよ。やっぱり伝説は伝説だったんだな。」

 死人が俺にガッカリしている。

「なに!? 仕方がないだろ!? 神人になったばかりなんだから! 最初っから魔人を倒せたら苦労しないっていうんだよ!」

「黙れ。」

 死人は俺を目で黙らせる。

「あいつは俺が倒す。」

 そういうと死人は魔人に突進する。

「我が主! 死神様! 我に力を与えたまえ!」

 死人の鎌が光り輝く。

「死力だ。」

「死力?」

「死神の力のことだ。それを武器に宿して戦うんだ。そうしないと魔人には勝てない。」

(それにしても変だ。いくらバカ弟子が神人になりたてとはいえ、あんな雑魚の魔人すら倒せないとは・・・・・・どういうこと?)

 天人には不思議で仕方がなかった。

「くらえ! 魔人! これが俺様の死鎌斬だ! うおおおおおおおー!」

「ギャアアアアアアー!?」

 死人が魔人を切り裂く。

「終わったな。見たか! この俺様の実力を! ワッハッハー!」

 勝ち誇る死人。

(スゴイ!? 悔しいけど今の俺ではあいつに勝てない!?)

 死人の強さを認めるしかできない俺。

 ピカーン!

「まだだ!」

 その時、天人が何か嫌な気配を感じ叫んだ。 

「ゲホッ!?」

「キルキル!」

 黒い何かが死人の胸を貫く。

「クソッ!? 何者だ!? 出てこい!?」

「私は最初からいましたよ。挨拶もしたでしょ。」

 そこに一人の人間が現れる。

「私の名前はデビデビ。死人が悪魔になった悪人です。以後、お見知りおきを。」

 現れたのは悪人だった。

「これはどうもご丁寧に。私はお嫁様にしたい天人ランキング1位のエルエルです。ニコッ! デビデビ、これからよろしくね。アハッ!」

「カワイイ!」

 悪人は一瞬で天人に恋に落ち心臓がドキドキする。

「はあっ!? まさか!? これが一目ぼれという奴なのか!?」

「フッ。これで私は殺されないで済むな。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「なんて恐ろしい女なんだ!?」

 俺は師匠の恐ろしさに恐怖した。

「おい!? しっかりしろ!?」

「大丈夫だ。キルキルは死人だから殺しても死なない。そのうち自己再生して復活するのだ。だからおまえの神人としての実験台にいいと思ったんだがな。少し予想がはずれたが、まあ、いいっか。アハッ!」

「悪魔だ。本当の悪人は師匠に違いない!」

 俺は絶対に師匠の影に悪魔を見た。

「さあ、どうする? 悪人と戦えるのがおまえだけになったぞ。」

「やりますよ! やればいいんでしょ! 俺には他に選択肢がないんだから!」

「その通り。よく分かっているじゃないか。さすが私の弟子だ。」

 師匠はご満悦。

「がんばれ! 負けるな! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「騒ぐな! 師匠!」

 こうして俺と悪人との戦いが始まった。

「あなたはエルエルの弟子ですか?」

「そうだ。」

「それならあなたを倒して私がエルエルの弟子になります!」

「どいつもこいつも色ボケしやがって!?」

 俺は死人と悪人が生前に良い恋をしてこなかったんだろうと不憫に思った。

「私って罪な女だな。さすが師匠にしたい天人ランキング1位だからな。アハッ!」

「どんだけランキング1位を持ってるんだよ!?」

「そうだな。一緒におやつを食べたい天人ランキング1位。一緒におならをこきたい天人ランキング1位。一緒に猫を探したい天人ランキング1位など、総取りだ! わつぃに敵はいない! アハッ!」

 恐るべし師匠。

「なら私が悪人が恋人にしたい天人ランキング1位を差し上げましょう。」

「やったー! いいの? ありがとう! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「私からあなたへの愛の印です。エヘッ!」

 悪人も悪いことをやめて恋煩いの恋人になっていた。

「バカ弟子! 今がチャンスだ!」

「はい! 待ってました! 師匠!」

 敵に戦意がなくなった所で全力で叩き潰す。これが師匠の流儀に違いない。

「神の力を剣に込めて、この世の悪を討つ!」

 神力が剣に流れ込んで輝いていく。

「なんだ!? この神々しい光はなんですか!? あなたはいったい何者!?」

「神人だ。」

「神人?」

「俺が神だ!」

 俺は神力をこめた神剣を悪人に対して振り上げ振り下ろす。

「くらえ! 神の一撃! 神剣斬!」

「ギャアアアアアアー!」

 俺は神の力で悪魔を打ち滅ぼした。

「やったー! 悪人を倒したぞ! 俺でも悪人を倒すことが出来たぞ!」

 勝利に大喜びな俺は小さな自信を手に入れた。

「いや、喜ぶのはまだ早い。」

「え?」

「師匠の私が騒いでいないのに先に騒ぐ弟子がいるか。」

 しかしお祭り好きの師匠が喜んでいない。それどころか慎重になっている。

「その通りです。まだ終わってませんよ!」

 悪人は悪魔の爪で見習い神人の攻撃を受け止めていたのだった。

「なに!?」

「誰が神ですか? 悪人すら一撃で倒せない奴が神であるはずがないでしょう。」

 見習い神人の俺の一撃は浅かったみたいだ。

「デビデビ! カッコイイ!」

「そうですか! ありがとう! エルエル! 愛してます! チュッ!」

 投げキッスする悪人は好きな人に声をかけられて油断した。

(今だ! バカ弟子!)

(え!? これが師匠の狙いだったのか!?)

(伊達に自堕落してないわよ!)

 俺は師匠を誤解していたようだ。自堕落で色ボケで使えないと思っていたが、これは全て敵を油断させる師匠の作戦だったのだ。

(私はやる時はやる女なのよ! ワッハッハー!)

(掴み所はないけれど、師匠には敵わないな。)

 師匠から弟子に賽は投げられた。 

(よし! やってやるぜ!)

 俺は横を向いてヘラヘラしている悪人を倒すことを決める。

(しかし俺の未熟な剣は受け止められてしまった。じゃあ、一体どうすれば!?)

 短い間で複数のパターンを考える。

(そうか! 剣がダメなら・・・・・・!)

 何か策を思いついた俺。

「神人の名において命じる! いでよ! 俺の刀! 神の力を宿せ!」

 剣だけではダメだったので洋の東西を問わずに神の刀を神の権限で創造することにした。

「くらえ! 神の二撃! 神刀斬!」

「しまった!?」

 悪人が俺の攻撃に気づいた頃には悪人の首が飛んでいた。

「今度は防ぎきれてないぞ。俺に、神に歯向かうからこうなるんだ。」

 俺は自分が神人である強さを実感していた。

「おかしい!?」

 悪人の生首はまだ生きていた。

「こいつ!? まだ動くのか!?」

「悪人も元は死人だ。そう簡単には死なない。」

「どいつもこいつもゾンビか!?」

 死人に悪人。困った存在です。

「おかしい!? この悪人である私が破れるなんて!?」

 悪人は自分が負けたことに納得がいかなかった。

「神人。確かに覚えましたよ。今度会った時は必ず殺してみせます。」

 目が血走って怒っていた悪人だが、言葉遣いは丁寧だった。

「デビデビ~、またね。」

「エルエル! 愛してるよ! アハッ!」

 それでも悪人は天人に恋をしていた。恋の魔法は解けていないのだった。

「必ず迎えに来るからね! またね!」

 悪人は闇の中に消えていく。

「早く消えろ。キモイ変人どもめ。」

 悪人がいなくなって天人の冷たい本音が飛び出す。

「本物の悪人がここにいる・・・・・・。」

 俺は天人の影に歪んだ憎しみが見えた。

「おい、私が師匠じゃ嫌か?」

「いいえ! 師匠から多くのことを学びたいです!」

 不思議なのだが、こんな師匠についていきたいと思う。それは師匠が可愛いからなのか、それとも・・・・・・俺に生きがいを与えてくれたからか。確かに普通の人間の生活を送っていては得られない生きている実感を今、生まれてから初めて感じている。

「よろしい。じゃあ、チョコレートとハンバーガーを買ってきてくれたまえ。ああ、ポテトも忘れることなく。」

「はあっ!? なんで俺がパシリ扱いされるんだよ!? 俺は神だ!? 神人だぞ!?」

「私の言うことには忠実に従うんだろ? おまえは神人の前に私の弟子だ。」

 俺は天人に弟子と認めてもらえて嬉しかった。

「分かった。買ってくればいいんだろ。」

 使いパシリには素直には従えないので、抵抗しながらお使いに行くことにする。

「バカ弟子だがな。アハッ!」

 天人は独り言を呟く。


 そして、爽やかに現代に戻る。

「ああ、あの時にこいつの首も刎ねておけば良かった。」

 俺は後悔していた。

「コーヒー。」

「はい。」

 慣れ親しんだ反射的行動で天人にコーヒーを差し出す俺。

「しまった!? 嫌だ嫌だと思いながらも体が勝手に動いてしまう!?」

 完全に飼いならされてしまった俺。

「おまえは私のものだ。神人も弟子として手に入れてしまえば怖くない。おまえは私のポチだ! さあ、ワンと鳴け!」

「ワン!」

 いつの間にか俺は天人の命令に体が勝手に反応するようになっていた。

「師匠! いつになったら師匠らしく生きるんだよ?」

「戦いがない平和な世の中なら神人なんて、ただの私のペットだ。」

「おい、そんなことばかり言っていると動物愛護団体が怒って、この作品がお蔵入りになるぞ。」

「それは困る。だって私は最高の師匠だからな。アハッ!」

 天人は自画自賛する。

「よしよし。良い子だ。ナデナデしてやろう。私は弟子になりたい天人ランキング1位だからな。」

「ワン。」

「おまえはカワイイ私の弟子だ。」

「ワンワン。」

 スキンシップに可愛がられて喜ぶのは男の悲しいサガである。

「男ってちょろいな。」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!


 その頃、魔界。

「なに!? 伝説の神人が現れただと!?」


 その頃、冥界。

「バカな!? 本当に神人は存在したのか!?」


 その頃、妖界。

「神人ってなに?」


 その頃、ロボット界。

「神人? 新しい変形ロボットか何か?」


 その頃、天界。

「遂に目覚めましたか神人。」


 その頃、宇宙界。

「神の存在を脅かす人間。それが神人。」


 その頃、人間界。

「シュークリームにエクレア。それにマカロンも買ってきてくれ! 」

「はい。師匠。」

 神人。それはパシリな哀れな弟子のことを指す。

「いや~、人間界には美味しいものがたくさんあるんだな。毎日が楽しくて仕方がない。アハッ!」

「そんなに食って寝ていたら豚になるぞ。」

「大丈夫。天人はどれだけ食べても太らないのだ。苦しいダイエットをしなくていいのだ。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「ダメだこりゃ。」

 俺は天人の言いつけ通り買い出しに出かける。


 百貨店の階段。

「はあ・・・・・・。なんで俺が限定数量販売のケーキを買うために3時間も前から百貨店の行列に並ばないといけないんだ。」

 これが神人の実態だ。

「限定ケーキを買ってエルエルに捧げれば、エルエルは俺様の者だ! ワッハッハー!」

 百貨店の神聖なる会談で騒ぐ迷惑な奴がいた。

「キルキル!?」

「おまえは神人!?」

 会いたくない死人に俺はひょんなところで再会した。

「どうしておまえがいるんだよ?」

「俺は愛するエルエルに限定ケーキをプレゼントして、二人だけでパーティーを開くんだ!」

「おまえそれでも死人か?」

「死人が恋をしてはいけないというルールがあるのか? 死神様が、閻魔様が、冥王様が決めたのか? 俺はそんなことは知らないぞ。」

「ウザイ。確かにウザイ。エルエルが首を縦に振らないはずだ。」

 俺も死人に関わりたいと思わなかった。

「まったく騒がしいですね。他のお客様の迷惑は考えないんですか?」

「デビデビ!?」

 現れたのは悪人のデビデビだった。

「おまえ、こんな所で何をしている!?」

「私は限定ケーキを買ってエルエルに喜んでもらおうと思いましてね。愛する人のためなら何時間でも行列に並べる! この献身さで愛が深まるのです!」

「悪人が献身でどうする? 検診で?」

「愛に悪人も国境もありません! アハッ!」

「どいつもこいつもエルエル病かよ。」

 師匠は男を虜にする恋の魔法を使う魔女であった。

「そういうあなたはなぜ限定ケーキの行列に並んでいるのですか?」

「エルエルの、師匠の命令で行列に並んでケーキを買ってくることが修行だと言われたんだ。ハアッ!?」

 俺は何かに気がついた。

(そうか!? これも修行なんだ!? そうでなければ偶然、こいつらに出会うはずがない。限定ケーキの行列でどうせ迷惑をかけるであろうこいつらを倒すのが師匠が俺に課した修行に違いない!? まさか師匠にはそんな鵜飼い考えがあったなんて!? ああ~、師匠のことを自堕落色ボケ大食い女だと疑ったことをお許しください! 神よ! ・・・・・・あ、神って俺か。アハッ!)

 俺は師匠を信じている。


 その頃、俺の自宅。

「もしも限定ケーキを変えなかった時はどうしてやろうか? 師匠として未熟な弟子に罰を与えないといけないな。ロープで縛る! ロウソクを垂らす! いかんいかん! どうもSMチックだ。やはり洗濯機に入れて洗浄するがいいかな! エッヘッヘッヘ!」

 不敵に笑うサディストが待ち構えていた。


 再び百貨店の階段。

「俺が倒してみせますよ! 神の名の元に!」

 俺は決意の決めゼリフを言う。

「死人は引っ込みなさい!」

「なんだと!? 悪人こそ魔界に帰れ!」

「エルエルは私のものだ!」

「エルエルは俺様のものだ!」

 死人と悪人のどっちつかずな戦い。

「なんてはた迷惑な奴らだ。」

 これも俺の師匠の美しさ故の過ちである。

「ん?」

 その時、俺はあることに気がついた。

「ヤバイ!? 魂の密じゃないか!?」

 百貨店は働く人、お客さんと人間が溢れていた。ほとんどの人は白い純粋な魂だが、罪を犯した黒い魂。罪人を殺したことがある赤い魂。純人を殺して赤く点滅している魂がたくさんあった。

「そうか!? 人が集まる所は魂が多く集まる場所なんだ!? ハアッ!? まさか!? 師匠は俺にそれを教えるために態と人が多く集まる百貨店に行って限定ケーキを買ってこいというパシリ的な命令を出したのか!?」 

 それは絶対にありません。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「申し訳ありません! 師匠! 師匠のそんな深いお考えがあったとは! ただただ師匠が限定ケーキを食べたいから弟子である俺をパシリに使ったものだと思い込んでいました! 師匠を信じなかった俺を許してください!」

 反省する俺。


 その頃、俺の自宅。

「早く届かないかな私の大好きなスイーツちゃん! もし限定ケーキを買えなかったらあばら骨の6本や7本をへし折ってやる! もちろんシュークリームにエクレアを買い忘れた場合も同罪であ~る! アハッ! 早く食べたいな! 美味しいケーキ! お腹が空いてきたな。どうしよう?」

 腹ペコな天人は俺のことなど一切考えてはいなかった。


 再び、百貨店の階段。

「いいんですか? これだけ人間がいれば魔人を作り出すことなんて簡単ですよ。」

 周りは善人を殺して赤く点滅している人間がたくさんいる。

「やれるものならやってみろ! 魔人になる前に全ての殺人の魂を刈り取ってやるぜ!」

 死神の死人の役目は汚れた魂が魔人になる前に刈り取り魔人になるのを防ぐことである。

「やめてくれ!? おまえたちが暴れたら師匠の限定ケーキが買えないじゃないか!?」

 俺の立場で限定ケーキが販売中止になるのは困る。師匠の怒りに触れたら俺の生存に関わる。あくまで師匠の喜ぶ顔より自分の命の危機を心配する弟子。

「いくぞ! 魂を狩りまくってやる!」

 死人は赤い点滅している魂を死人の鎌で狩りまくり始めた。

「キャアアアアアアー!」

 百貨店の中は突然倒れる人々に驚く人々。

「さあ! 汚れた魂たちよ! 魔人になりなさい! 魔人化!」

 魂が赤く点滅している殺人たちが悪人の力で人の姿から化け物の姿に変化していく。

「キャアアアアアアー!? 化け物!?」

 魔人を見た人々が外に逃げようと走り出す。

「あ~あ、もうめちゃくちゃだ。とりあえず師匠の限定ケーキだけは確保しておかないと。ここにお金を置いておきますよ。」

 俺は限定ケーキを手に入れた。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラー!」

 次々と魂を狩っていき、魔人も切り倒していく死人。

「まだまだです!」

 次々と魔人を生み出していく悪人。

「シュークリーム下さい! 誰もいないので勝手に取りますよ。」

 俺はシュークリームも手に入れた。

「エクレアももらいますよ。」

 次々と師匠のお使いをこなしていく俺。もちろんお金は置いていっている。


「はあ、はあ、はあ。どんだけいるんだ?」

「残念です。こちらも悪力が無くなってきました。」

 ようやく死人と悪人が疲れて戦いが収まる。

「よし。マカロンも買ったし、そろそろ帰るか。」

 何事も無かったように去って行こうとする俺。

「おい! おまえ! 神人なら魔人と戦えよ!」

「え?」

「そうですよ。悪い者と戦い人々を守るのが神人の仕事でしょ?」

「そうなの?」

 俺は二人の言うことに疑問を感じる。

「俺は師匠の言いつけを守るだけだ。」

 これが俺の生き方だ。

「ハアッ!?」

 唖然とする死人と悪人。

「師匠の言いつけを守らなかったら俺には罰ゲームが待っているんだぞ! 神人だから困っている人を助けろ? じゃあ、俺が困ったら誰が助けてくれるんだよ!?」

「ぎゃ、逆ギレだ・・・・・・。」

 俺の言い分に呆れる死人と悪人。

「じゃあ、そういうことで。」

「バイバイ! またね! ・・・・・・コラー! 待たんかい!」

「そうです! 自分一人だけエルエルに気に入られるつもりだな! 抜け駆けは許しませんよ!」

「なぜ!? そうなるんだ!?」

 死人と悪人はお怒りだった。

「やはりおまえの魂を頂くことにする!」

「いでよ! 魔人! あいつを食い殺しなさい!」

 死人は鎌を持ち、悪人は悪い魂を魔人に変えて俺に襲い掛かってくる。

「クソッ!? 何が何でも師匠の限定ケーキだけは守り抜いてみせる!」

 俺には世界平和より師匠の限定ケーキの方が大切だった。

「我、神の名のもとに命じる。いでよ! 神剣! 神刀!」

 俺は神人の剣と刀を呼び出す。

「神の力を刃に宿し悪を討つ!」

 剣と刀に神力が注ぎ込まれ神々しく輝く。

「なに!?」

「剣と刀の二刀流だと!?」

 俺は咄嗟に剣と刀を構える。

「俺は生きて限定ケーキを届けないといけないんだ! ジャンルやカテゴリーになんてこだわっていられるか!」

 俺が心配しているのは目の前の死人と悪人ではない。自宅で俺の帰りを待っている師匠だ。もし限定ケーキを持って帰らなかったら俺は師匠に殺されるからだ。人間、必死になれば生きるために何らかの解決方法を思いつくものだ。

「そんな見た目に騙されるものか! ケーキを寄こせ! 死鎌斬!」

「いけ! 魔人よ! ケーキを奪い取れ!」

 死人と魔人が襲い掛かってくる。

「これも師匠が与えてくれた試練だ! 俺は逃げない! 俺は目の前の試練を超えて行く!」

 剣と刀が神々しく光り輝く。

「くらえ! 神の連撃! 神剣刀斬!」

「ウワアアアアアー!?」

「ギャアアアアアアー!?」

 俺の刃が死人と魔人を切り裂く。

「ここは退散した方が良さそうだ。」

 悪人はその場を去って行った。

「神は勝つのだ! 俺は神人だからな。アハッ!」

 俺は戦いに勝利した。

「よし! 師匠の限定ケーキを守り切ったぞ! 急いで帰ろう!」

 俺は限定ケーキを持って師匠の待つ家に向かう。


 俺の家。

「師匠! ただいま戻りました!」

「遅かったな。」

 俺は自分の家にたどり着いた。

「ゲッ!? 師匠!?」

 しかし空腹に耐えかねた料理上手な師匠は自分でうどんを作って食べていた。

「惜しいな。もう少し早ければうどんを作らなかったのに。安心しろ。おまえの分もあるぞ。」

「本当ですか? やったー! ・・・・・・なんでやねん!」

 俺は何度も二転三転する師匠を相手するのでノリッツコミを覚えた。

「ケーキは後で食べるから冷蔵庫にでもしまっておいてくれ。」

「はい。」

 ちょっと気落ちする俺。

「クソッ!? 師匠に食べてもらおうと頑張ったのに、うどんに負けるは何たる不覚!? これでは必死に戦った俺の苦労が水の泡ではないか!? 俺の激戦はいったい何だったんだ!?」

 自問自答する俺。

「安心しろ。来週も限定チョコレートには並んでもらう。私が他の物を食べる前に持ち帰ってくるんだな。ズルズル。」

 うどんをすすりながらしゃべる師匠。

(そうか!? これは修行なんだ!? 師匠は俺を鍛えるために行列に並ばせるんだ! そうでなければ 大切な弟子を奈落の底に雪落とすはずがない! これは師匠の俺に対する優しさだ! アハハハハハー!)

 俺の脳みそはバラ色だった。

「はい! 師匠! がんばります! 師匠のためなら限定クッキー、限定クロワッサンなんでも並びます!」

(なんて便利な弟子だ。私、こいつの師匠で良かった。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!)

 双方の考え方次第だが俺と師匠にとって最高の師弟関係が継続している。


「でやあー! たあー!」

「まだまだだ! もっと頑張れ!」

 それから俺は師匠の命令で激しい修行に挑み続けた。

「ああ~、気持ちいい。」

「師匠、肩が凝ってますね。」

「そうなんだ。使えない弟子を持つと疲れるんだ。」

「俺の性ですか!?」

「その通り。私の体に触れれることを光栄に思えよ。私は肩を揉みたい天人ランキング1位だからな! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 師匠の体のマッサージも弟子の立派な修行である。

「これでおまえの修行も一通り終わりだ。あとはおまえが神人として、この世の救われない人々を守るのだ。」

「師匠! ありがとうございました!」

 俺は神人として免許皆伝を頂いた。

「じゃあ、そういうことで。」

 師匠は大きな荷物を持っていた。

「師匠、天界に帰るんですか? 寂しくなりますね。」

 しんみりする俺。

「え? 違うよ。どうして天界なんて規律の厳しくて面白くないとこに帰るのさ。私は日帰りバスツアーに行くんだよ。たくさん食べて帰って来るからな。お土産を楽しみにしててね。アハッ!」

「はあっ!? 俺もバスツアーに連れていって下さいよ!」

「バカ者! おまえを独り立ちさせるために態と美味しい食べ物食べ放題のバスツアーに行くことが分からないのか! これも全てカワイイ弟子である、おまえのためだー!」

(言えない。お菓子を買いすぎたから、バスツアーに申し込むお金が一人分しかなかったなんて。絶対に言えない。言ったら弟子に殺されちゃう。)

 師匠には師匠の事情があった。

「そ、そうだったのか!? 俺なんかのためにバスツアーに行ってくれるなんて、なんて優しい師匠なんだ! 師匠の深い考えに気づかなかった不肖の弟子をお許しください!」

「分かればいい。分かれば。次の糧にするがいい。」

 寛大な心で俺を許してくれる師匠。

「じゃあ、行ってくるね。」

「いってらっしゃい。師匠。お土産をお待ちしております。」

 こうして師匠は旅に出た。

「よし! 俺も師匠に心配をかけないように頑張らなくっちゃ!」

 俺は決意を新たに神人をがんばる決意をするのだった。


「まず何をしよう?」

 俺は家の中で考えた。

「父親は魂が赤色の殺人。母親は金目当てで父と結婚した魂の色は黒の罪人。妹はまだ小学生の魂の色が白い純人。おまえけに俺は魂の色が無味無臭の神人。正にチュートリアルのために準備されたような設定だな。」

 その通り。

「外に出たら外に出たで、黒い魂、赤い魂、赤点滅の魂ばっかり・・・・・人間コワ!? 対人恐怖症になるわ。見えないと見たいと思うが、いざ人間の心の中が見えるとようになるのも不幸だな。幸せではないような気がする。」

 だから人間は他の人間の心が見えないのかもしれない。

「でもおかしいな? 俺は引きこもりになって生きながら部屋に閉じこもってスマホばっかりして死ぬつもりだったんだけど、えらく前向きに生きてるな。これも神の力を手に入れたからか?」

 人間は無力では生きていけない。力を得るか、他人をいじめて踏み潰して自分だけが生き残らなければならない。

「よし! 師匠が安心してバス旅行を楽しめるように俺は俺の与えられた力でできることをやろう!」

 俺は自分でも驚くほど前向きに生きだした。


 その頃のバスの中の師匠。

「zzz。」

 朝が早かったので疲れて爆睡中。


 再び俺。

「俺の叶えたいことってなんだろう?」

 俺は自問自答した。

「お金が欲しい。彼女が欲しい。」

 神である俺の前に大金と美女が現れる。

「なんじゃこりゃ!?」

「は~い! あなたの彼女です。」

 お金は喋らないが現れた美女は喋る。

「あなたは神人なんですから、願えば案でも思い通りですよ。あの私ブランドのバックが欲しいんですけど願ってもらえますか? アハッ!」

 神の彼女はろくな者ではなかった。

「いでよ。ブランドバック。はい。」

「やったー! 神様! 大好き! アハッ!」

「はいはい。手間賃はあげたので、もうお引き取りを。」

「キャアー!」

 俺は美女を追い出した。

「おかしい!? 俺はお金も彼女も手に入れたのに、どうして満足感がないんだ!? 楽して手に入れたお金や彼女には意味がないというのか!?」

 欲しいものを手に入れたはずなのに、生きている人間として何も感じなかった。

「やはり努力したり苦労したりして手に入れたものでしか充実感を得ることができないというのか!?」

 その時、俺は何かに気づく。

「はあっ!? 師匠は俺に努力の大切さを教えるために態とバス旅行に行ったのか!? それで悪いことや楽して欲しいものを手に入れても充実感を得ることはできないと教えるために師匠は楽しいバス旅行に行ったのに違いない! そんな深い師匠の考えに気づかないなんて不肖の弟子をお許しください!」

 俺は師匠の教えを胸に刻んだ。


 その頃、師匠。

「美味しいな! やっぱり秋は栗拾いだぜ!」

 背中の籠に栗を拾いまくる師匠はバスツアーを満喫している。


 再び、俺。

「やはり神の力は困っている人を救うために使おう。えい。」

 俺はお金を貧しい人たちに与え、住むところのない人にはマンションをあげた。

「ありがとうございます! ありがとうございます! 正に神様だ!」

 困っている人々は大いに感謝して喜んだ。

「いや~良いことをするのは気持ちがいいな。アハッ!」

 俺は神の力を正しく使った。

「ウエ~ン! お父さん!」

 それなのに小さな男の子が泣き叫んでいた。

「どうしたの? 僕。」

 俺は男の子に声をかけてみた。

「お父さんは不動産屋さんをやっているんだけど無料で誰かが貧乏人に家を与えたから、お父さんの仕事が無くなってしまったんだ! お父さんはショックで倒れちゃったんだ!」

「ええー! それは大変だ! ・・・・・・待てよ!? それって俺の性?」

 俺は複雑な気持ちになる。

「ウエ~ン!」

 向こうでも女の子が泣いている。

「どうしたんですか?」

「誰かが貧乏人にお金を分け与えるから、アルバイトやパートのこき使える奴隷の貧乏人が仕事を辞めてしまって、人手が足らなくなっちゃった! 無理して働いたら社長のお父さんが倒れて入院しちゃったんだ!」

「ええー!? それも大変だ! ・・・・・・まさか!? それも俺が原因なんじゃ!?」

 なんということでしょう神の力は偉大過ぎて、神様が人間の生活に介入すると自体が大きく複雑になってしまいました。

「これじゃあ何にもできないよ!?」

 俺は神人なのが嫌になってきた。

「はあっ!?」

 その時、俺は何かに気がついた。

「これは神の力が大きすぎるので人間の生活関係に神の力を使ってはいけないということを師匠が教えたかったに違いない! そういうことだったのか!? だから俺を一人置いて日帰り食べ放題バスツアーに出かけたに違いない! 師匠の深いお考えに気づかないで、俺を置いてきぼりにしたことを内心恨んでいたけど、やっと子の修行の意味が分かりました! 師匠、この不甲斐ない弟子をお許しください!」

 俺は師匠の考えに触れる旅に自分の愚かさを知る。


 その頃、師匠。

「zzz。もう食べれません。」

 栗食べ放題で山ほど食べたのでバスの中で熟睡中。


 再び俺。

「神の力は偉大過ぎて、人間社会に大きな影響を与えすぎてしまう。ではどうすればいいんだ?」

 また自問自答する俺。

「普通に魔人だけ倒すことにしよう。それがいい。」

 結論はシンプル・イズ・ベスト。

「少しストレスも溜まったし、魔人を狩りまくってやる!」

 俺は神人として魔人を狩ることに専念することにした。

「まったく、どこでおかしくなったんだろう?」

 それはあの師匠の性だ。普通は師匠とは弟子に慕われていたり、弟子から尊敬されていそうなものだ。仮に説明やチュートリアル担当にしても、カワイイマスコット的な犬だの猫だのが相場である。

「原因は師匠か。うちの師匠は型破りだからな。今頃、師匠はバス旅行を楽しんでいるんだろうな・・・・・・はあ。」

 献身に支え苦労が絶えない弟子からはため息が零れる。


 その頃、師匠。

「やっぱり冬は蟹だよね! 美味しい! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 バスツアーを満喫している師匠は俺のことは忘れ去っていた。


 再び俺。

「よし! 神人として強くなって、師匠から独立してやる! エイ! エイ! オー!」

 俺は俺を見捨てて一人だけバス旅行に行くような薄情な師匠から独り立ちできるように成長することを目標にした。

「白い魂は罪を犯していない純人、普通の人間だから倒してはダメ。ていうか罪を犯していない人間が子供しかいないって、やっぱり以上だろ!?」

 子供が通り過ぎていく。大人になるにつれて、いじめやカンニング、異性と文化交流などの犯罪に手を染めてしまうのだろう。

「黒い魂は大人が多いな。こいつらは罪人と。大人は自分の手を汚して誰かを罠にはめて潰し、自分だけが生き残るように罪を重ねるのか。人間って悲しいな。」

 俺は人間という生物を哀れむ。

「ちなみに神人でなかったら、俺の魂の色は何色だったんだろう? 特に罪は犯していないと思うんだけどな。神人が罪を犯してもなれるんだった、ちょっと恥ずかしいな。」

 それは神のみぞ知る。

「赤い魂は人を殺したことがある殺人。でも罪を犯している人を殺しただけだからお咎めはなしっと。どこかに魂が赤く点滅しているやつはいないかな?」

 俺は周囲を見渡した。

「いた! 赤い点滅!」

 赤い点滅をしている魂は、罪を犯していない人を殺した欲深き凶悪殺人者の証拠である。

「おまえ! 魔人だな! 神の名にかけて成仏させてやる!」

 俺は魔人の魂に戦いを挑む。

「いでよ! 神の剣! 神の刀!」

 俺は神々しい光と共に剣と刀を呼び出してしっかりと握りしめる。

「くたばれ! 魔人!」

 俺は魔人に襲い掛かる。

「ガオー!」

 すると斬られたくないので魔人が人間から離れる。魂が抜けた人間はその場で倒れるしかなかった。

「なんだ!? この魔人は!?」

「ガオー!」

 魔人はリンゴの形をしていた。きっと、この人間は生きている時に無実のリンゴをたくさん食べ過ぎて魂が赤く点滅して魔人になってしまったのだろう。悪いのは食いしん坊な人間でリンゴに罪はない。悲しい物語である。

「なんて可愛そうなエピソードなんだ。こうなったら俺が神の名にかけて、リンゴを成仏させてやる。」

 俺と魔人リンゴの戦いが始まる。

「くらえ! りんご! 神の一撃! 神の二撃! 神の連撃!」

「ギャアー!」

 俺の剣技で魔人リンゴを簡単に倒す。

「神は勝つのだ! ワッハッハー!」

 少し得意げな俺。

「思うより簡単に倒せたな。これも師匠の激しい特訓の成果に違いない! ありがとう! 師匠!」

 といっても料理で集中力を鍛えたり、行列に並ばされて忍耐力をつけたり、師匠の体を揉み解して力を鍛えただけである。

「よし! 次、いってみよう!」

 俺は次の魔人を見つける。

「ガオー!」

 赤い点滅している魂が魔人化する。

「今度はミカンか!?」

 魔人はミカンのモチーフにした姿をしていた。この人間が罪のないミカンを食べ過ぎてミカンの命を奪いまくったからに違いない。ごめんなさい。みかんさん。悲しいミカン伝説の物語である。

「まさか!? 全部の魔人に伝説的な悲しい物語を入れるんじゃないだろうな?」

 俺は空に独り言を呟いた。

「ミカミカ!」

 魔人みかんが襲い掛かってくる。

「神の剣舞!」

 俺は二本の剣と刀で踊りながら魔人ミカンを斬り刻んでいく。

「神のミカンジュース! お待ち! ・・・・・・この調子なら神のフルーツの盛り合わせができるんじゃなかろうか!?」

 戦いに余裕がある俺は新メニューを創作していく。


「おお! 神スゲー! なんでも俺の思い通りだ!」

 俺は神人の天地創造を自覚する。

「この調子ならお金持ちもハーレムも何でも思いのままだ。オシャレなカフェを作ってもいいし株式を買い占めてもいい。なんなら国ごと買い占めようか? ワッハッハー!」

 完全に調子に乗る俺。

「いや、待てよ。さっきみたいに神である俺が全部自分でやってしまうから人間界の摂理が歪んでしまうんだ。う~ん。」

 俺は少し考え込む。

「そうだ! 今の世の中が面白くないから、何か面白いものを作ればいいんだ! 俺って神様!」

 さすが俺。

「まず何をしよう? まずはどんな人間でも自立して迫害されずに生きていけるようにしなければならない。暴力、いじめ、貧困、難民を無くさなければいけない。もちろん世界から戦争も無くさないとダメだ。」

 少しずつエンジンがかかってきた俺。

「自立だから国からの生活保護もダメ、労働して正社員だろうがアルバイトだろうが上司にパワハラやセクハラを受けるような環境でお金を稼ぐために我慢して自律神経失調症になってもしかたがない。」

 元々弱者の俺には今の世の中の改善しないといけない問題点がよく分かる。意外と俺は良い神様なのかもしれない。

「そうだ! カードゲームにしよう! カードゲームなら本人が相手に殴りかかる必要がない。代わりにカードに戦ってもらうんだ! これならPTAから苦情が来ない!」

 社会的情勢と良い子供たちの人格育成に貢献したい。

「そうだな。勉強だけで大学に行けたりするだけでなく、カードゲームが強ければ大学に進学ができる。または就職もできるとしよう。コネ・カードは悪い奴なので、不正者たちをカードゲームで倒していくストーリーにしよう。」

 ちょっと水戸黄門様っぽい。そうすることによって世の中の不条理と戦うことにすれば多くの一般大衆から共感と指示を得られるだろう。

「カードゲームで勝てばお金が入る。なんなら仮装通貨でもいい。神の通貨、ゴット・ドル! 略してゴッドル! 良い感じで具体化してきたぞ。運営会社を神である俺の会社にしよう。会社名はゴット・カンパニー。良い響きだ。俺なら神だからいくらでもお金を生み出せるからな。」

 俺の妄想が爆発する。

「カードはお金持ちだけしか手に入らないのでは意味がないので、平等にガチャは一人一回だけにしよう。俺はお金が要らないから課金ガチャに拘る必要はないしね。一枚のカードを長くどこまでも強く出来るようにしよう。進化? レベルアップ? なんらかで育つに違いない。金持ちだからって勝てると思うなよ。」

 カードゲームはカードダスくらいしか知らない俺。

「後は外に出たり、オンラインで相手と戦ってひたすらレベルアップと。中毒性が高いな。一日の戦闘回数に制限を設けるか? 引きこもりにはいいが、子供たちの健康な成長には害になりそうだな。」

 オンライン。スマホがあれば制限が無ければずっと戦えてしまうのが問題である。

「リアルなら無制限で、オンラインは戦闘回数に制限を儲けよう。」

 俺って天才。

「創造は無限大! 夢を描くことは誰にも止めることはできない! 本当の俺は貧乏な引きこもりだけど! 神の力を得るってすごいことなんだな。ありがとう! 神様!」

 俺は師匠のことなど忘れていた。


 その頃、師匠。

「zzz。」

 日帰りバス旅行を満喫して疲れて眠りについていた。もちろん弟子の俺のお土産など買っていない。


 再び俺。

「カードゲームの名前は、ゴット・カードだ!」

 会社名、ゲーム名など神を絡めて簡単に決めていく。シンプルでなければ誰にでも分かりやすくないからだ。

「「神なんかいない!」「何がゴット・カードだ!」とかのストーリー展開が予想できる。面白そうだ。「ありがとう! 神様!」なんて感謝の声も聞こえてくる。我ながら良いカードゲームを創作したものだ。アハッ!」

 自画自賛な俺。

「よし! 早速、製作開始だ。エイ!」

 俺は神なので頭の中でプログラミングをブロックやテトリスのようにイメージして組んで行けばいいだけである。

「できたー! 世界を守るカードゲーム! ゴット・カードだ!」

 神として前向きな気持ちで作った俺。

「でも、悪いことをする邪神とか出てきそうで嫌だな。」

 はい。出てきますよ。ウフフッ!


 その頃、師匠。

「やっと帰って来れた! トイレに行かなくっちゃ! アハッ!」

 日帰りバス旅行の欠点はトイレに自由に行けないことだ。解散したら師匠はダッシュでトイレに向かう。


 再び俺。

「ゲームを開始します。」

 製作者の神である俺自身がプレイヤー第1号の実験台である。

「ウッ!? 早速問題が!? 主人公のカードを作るべきか? 作らないべきか?」

 難しい選択だ。主人公の強さで勝ち負けが決まってしまう。勝ち負けを決める大将の体力になってしまうのだから。それよりは平等にカードだけを育成する方がいいのか? いや、主人公カードがあればアバター作成機能が支持されているのもオリジナルキャラクターが作れるので一般大衆に指示されている。

「よし! 主人公カードを作ろう! 何かあれば消去して既存カードだけにすればいいのだ! なんてったって俺がルールだ! 神だからな。」

 そう俺は神人。何でも思い取りにできるのだ。

「そうだ! 俺だけ職業を神にしよう! だって俺は全知全能の神だから。何かあった時も神としてカードゲームでも救済できる能力持ちだ。アハッ! まずいまずい。師匠のアハ笑いが出てしまった。」

 神に師匠がいるのも不思議ではある。

「さあ! ゴット・カード! スタート!」

 次にゲームの進め方を考える。

「まずカードを引く。課金ガチャはお金持ちしか楽しめないので、お一人様ガチャは一日一回としておこう。」

 実際にゲーム化されれば、課金すれば何回でもガチャは引ける。そうしないと儲からないんだもの。儲からないとゲームが終わってしまう。

「ガチャッとな。」

 俺は神カードのガチャを回す。一日一回無料でいいな。

「アアアアアー!?」

 ここでまた問題が発生する。

「ガチャから出てくるカードを決めていなかった!?」

 致命傷である。

「普通に考えればスライム、ゴブリン、野犬ウルフが定番のモンスター。それとも騎士、兵士、弓兵、重装兵などの人間。後は剣、盾、弓などの武器。薬草、毒消し草、白い粉などのアイテムか?」

 他は何があるんだろうか分からない。

「カードゲームを作るのって意外とやってみると大変なんだな。初期設定の適正枚数って何枚なんだ?」

 そんなものは分からない。

「個人個人の対戦ではなく、ストーリーモードでも進めていこう。」

 個人の対戦は育てたデッキで戦うのと、平等に割り振りした同じレベルのデッキからのちょいと育成して戦うバージョンがあればいいのだろうか?

「まず俺は神という素性は隠し平凡な民になろう。そして一枚のガチャを引く。ガチャっとな。」

 俺はガチャを回す。

「なんだ? 冴えないおっさんのカードだ。普通、こういう時は姫とか幼馴染の女の子とか、野郎が大金をはたいてでも集めたくなるカードを配布するはずなんだがな。」

 その通り。

「いや、待てよ。冴えないおっさんなんかは普通の待ち人だから、ガチャから出てはいけないのでは? 普通にバトルデッキにセットできる戦闘能力のあるカード以外はガチャから出なくてもいいのではないだろうか?」

 俺の試行錯誤は続く。

「実はさえないオッサンが偉い人だったりして強い仲間になってくれるかもしれない!?」

 期待は大きく持っておこう。

「やっぱりマスコットキャラクターやチュートリアルは可愛いお姉さんか小さな動物である。」

 定番は大切である。ムキムキおじさんがマスコットキャラクターでは人気はでないだろう。いや、でない。

「ということは!? マスコットキャラクターを考えなければいけないじゃないか!?」

 一つの物語を作るって、夢と希望はあるけど大変な作業だ。

「犬か? 猫か? 狸か? 狐か? 妖精か? そもそもゴット・カードの世界観はなんだ!? どんなストーリーなんだ!? どうすればいいんだ!? うおおおおおおおー! 助けてー! 神様ー! って俺だったわ。」

 創作の重圧にパニくっている俺。

「どうしよう? どうしよう? こんな時に師匠がいてくれたらな!?」

 俺は師匠に救いを求めた。


 その頃、師匠。

「しまった!? 弟子にお土産を買うのを忘れた!? 仕方がない近所のファーストフードでフライドポテトでも買って帰ってやろう。私ってなんて優しい師匠なんだ。まるで天女様だ。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」 

 まだ師匠は帰れない。


 再び俺。

「落ち着け! 俺は神だ! 神人なんだ! 俺が世界の全てを決めることができるんだ!」

 俺は冷静さを取り戻す。

「一度にすべてはできないから、一つ一つを片付けよう。」

 訴えかけるキャラになってきた俺。

「まずは初回の登場カードだ。とにかく書き綴ってみよう。そうしないと前に進めない。」

 俺は勇気を出して前に進むことにした。

「騎士、兵士、弓兵、重装兵、魔法兵。」

「スライム、ゴブリン、ウルフ、お化け。そうかレアとか他より少し強いというキャラクターを入れなければいけないのか。ドラゴンっと。」

「剣、槍、弓、盾、杖。なんか細分化の作業に思えてきたな。」

「薬草、毒消し草、目薬、麻痺解除薬、万能薬。」

「魔法も考えると、ヒール、ファイアー、ブリザード、サンダー、エアーとかかな。これだけでも薬草をたくさん持てる奴。回復魔法が使える奴が勝つ。」

「ここまでで25枚。さらにマスコットキャラクターを犬、猫、狸、狐、妖精とした場合。やっぱり妖精がレアなのかな?」

「1つのジャンルで仮に5枚ずつとして、これで6ジャンルで30枚。とりあえず、これだけいればいいかな。後は後から追加しよう。」

 何事も進めることが大切である。

「ただいま! 帰ったよ~ん!」

 そこに師匠が帰ってくる。

「なんじゃこりゃ!?」

 カードばっかりの光景を見て驚く師匠。

「いったい何があったんだ!? おまえ神人として特訓をしていたんじゃなかったのか!?」

「しましたよ。その結論がカードバトルです!」

 某週刊誌で一番売れた漫画という記事があった。鬼を斬る物語でもなく、七つのボールを集める物語や海賊物語でもなく、カードバトル物語だった。終わってもカードが売れ続けているらしい。知らなかった。

「なんだって!?」

 師匠の天人は衝撃を受ける。

「そういうことならOKだ! がんばって上を目指そう!」

「ありがとうございます! 師匠!」

 師匠の許しもでた。俺はこんなノリの軽い師匠が好きだ。

「ただ一つだけ気になる所がある。」

「なんですか?」

「私のカードが無いのはどういうことだ! このバカ弟子が!」

 師匠は自分のカードがないことに激怒していた。

「あの師匠。このカードゲームは自分のカードを作成して始めるんですよ。」

「え? そうなの? 知らなかったから許して。アハッ!」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「さあ、師匠も自分のカードを作って始めましょう。」

「は~い! アハッ!」

 師匠は職業が天使の天人のチートなカードを作った。

「神と天使がテストでプレイするカードゲーム。いったいどんなゲームになるんでしょうね。」

「分かんない。でも、どんな事件が起こっても大丈夫。だって私たちは仲良し師弟だもの。アハッ!」

「はい。師匠がいれば俺はどんなときでも戦えます。」

 師弟の絆が深まった所でゲームが始まる。


「運命の第一ガチャ!」

 先に俺がガチャを回す。

「え・・・・・・。」

 麻痺解除薬がでた。俺はどうリアクションすればいいのか分からずに言葉を失った。

「ワッハッハー! それがおまえの実力だ。このバカ弟子が。」

「酷い!? それが健気に使えている弟子に対していう言葉ですか!?」

 傷ついたガラスの心の俺。

「見せてやろう! 師匠の実力を! アハッ!」

 次に師匠がカードを引く。

「ガオー!」

 現時点では超レアのドラゴンが現れた。

「マジか!?」

「どうだ? 私はやる時にはやるのだ! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 師匠のドヤ顔が俺の心をひび割れさす。

「なぜ師匠には良いカードが出るんだ!?」

「おまえとは日頃の暮らし方が違うのだ! ワッハッハー!」

「え!? 今日だって弟子を残して一人で日帰りバス旅行栗カニ食べ放題に行って遊んでいただけじゃないか!?」

 俺は不満タラタラである。

「神様は見てくれているのだ。私の善行を。ありがとう! 神様!」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「ここでカードを1枚てにれたのでレベルアップだ!」

「なぜですか? 師匠!? 戦闘もしていないのに?」

 俺は師匠に疑問を問いかける。

「このバカ弟子が! 今時の無料ゲームが溢れる時代に、直ぐにレベルが上がるようにしてお得感を実感させないと、飽きやすい一般大衆がゲームを続けてくれないだろうが!」

「失礼しました! 師匠! まさか遊んでばかりでゴロゴロしている使用にそんな深い考えがあったなんて思いもよりませんでした! ははあー!」

「分かればいい。分かれば。少し言葉が多かった気もするが。」

 俺の師匠は優しい。自堕落の怠け者には違いないが、弟子の言葉尻や揚げ足をとろうとはしない。よくできた師匠です。

「カードを1枚手に入れて、レベルが1つあがるシステムにしよう。強くなることを実感できる。楽しい方がいいだろう。」

「さすが師匠! なんて慈悲深いお言葉で!」

「その通り! 私は慈悲深いのだ! ワッハッハー!」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「レベルが1上がるとステータスに1ポイントを割り振れるとしよう。」

「特化というやつですね。攻撃力に極振りとか、防御力に極振りとかですね。」

「はい! その通り! 理解の早い弟子を持つと師匠も楽じゃわい。」

「やったー! 師匠に褒められた!」

 弟子とは師匠に褒められると嬉しいものである。

「私は攻撃力に1ポイントと。おまえは何にする?」

「ハンバーガーにポテト。それにコーラですかね。アハッ!」

「死ね! バカ弟子! ドラゴン・ボール・ファイア!」

 師匠は弟子の面白くないボケには冷たい。容赦なく手に入れた超レアのドラゴンの火球で俺を殺そうと攻撃してくる。

「ギャアアアアアアー!」

 火の玉が命中した俺は断末魔の叫びをあげて悶える。

「おお、良かったな。麻痺解除薬があって。おまえにピッタリだ。」

 俺は麻痺解除薬を使った。ドラゴンの攻撃を受けて麻痺していた俺の体が動くようになる。

「復活! これでも俺は師匠の弟子ですからね! 簡単には死にませんよ!」

「バカ弟子だがな。」

 心配しているようでしていない師匠の胸の内は俺には読めない。

「じゃあ、師匠が攻撃にポイントを振ったから俺はラック。運にポイントを入れてみましょう。」

 俺の運が1ポイント上がった。

「あれだな。ステータスをあげるのはカードの枚数でいいかもしれないが、それでは課金できるお金持ちしか面白くない。やはりレベルアップは貧乏人でも同等なログイン日数にしよう。その中のお金でステータスは買えるということにしよう。」

「さすが師匠! 貧しい者たちのことをお考えだなんてさすがです!」

「その通り! なんてったって師匠だからな! ワッハッハー!」

 褒め過ぎると調子に乗るので注意。

「私たちはログイン1日目だからレベル1ということで。」

「はい。」

「課金要素はカードの枚数だな。同じレベル1でも貧乏人は毎日無料の1ポイントだけ。お金持ちは課金しまくって、カード100枚を10000円で買って、初日から攻撃力100だ。もっと高くても売れるかもしれんな。」

「カードゲームは中毒性が高いですからね。持ち金全部ガチャりますよ。」

「そうやって一般大衆は人生を棒に振っていくのだ。ワッハッハー!」

「出た。サディスト師匠・・・・・・。」

 こんな師匠の一面もある。

「だが、やはり強いのは連続ログインだ。どんなに課金してもレベルが1なら攻撃力は100なら100のままだ。だが2日ログインするとレベルが2になり。攻撃力が2なら、2×2で4になる。レベルとステータスを掛け算する方式にしよう。」

「でもそれだとお坊ちゃまが2日連続課金するとレベル2の攻撃力200で攻撃力が400になっちゃいますよ?」

「それも運命よ。世界大会で会おうぜ! 君の強いゴット・カードを待ってるぜ! アハッ!」

 遂には神様の責任にして逃げるカッコイイ師匠。もちろんガチャの回数は無制限。いくらでもお金を捨ててくれ。

「やはり、そうなると誰でも遊べるモードが必要だな。ソロプレイのストーリーモード。同じプレイ時間で勝負する対戦モード。後は金持ちが無双する最強課金デッキ対戦モード。」

「後は自由に遊べる自分の家とか、仮想世界の街があればいいですよね。みんなでリンクしましょう。田舎の人が都会に行けたり、都会の人が田舎に行けるように。」

「そうだな。ゲームだからステージが海の中や火山のマグマの中でもいいんだもんな。」

「面白そうですね。ワクワクしてきました。」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「現段階の創作で対戦のシステムは完璧ですね。毎日ログインさえしてもらえれば、自分のデッキは強くなるんですから。」

「そうだな! 優勝賞金1億円! ゴット・カードはeスポーツのオリンピック種目だ! 金メダルを目指そうぜ!」

 たぶんね。

「残る問題はストーリーですね。」

「その通り。魅力的なストーリーがないと読者に視聴者を引き付けることができない!」

「カードゲームなので、やはり異世界ファンタジーですか?」

「別に現代ファンタジーでもいいよ。何でもありだが、その前にやることがある。」

「なんですか!?」

「ゴット・カードの伝説を決めなければ先に進めない。」

 これが物語の始まりである。神のカードの伝説を。

「ゴット・カード。神の力が備わっているカード。そのカードを手に入れた者は神の力を手にすると言われている。できた! あっさりできたぞ! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

「さすが師匠!」

「私はやる時はやる師匠なので。エッヘン!」

 俺は良い師匠を持った。

「でも、こうなってくるとストーリーモードと対戦モードとの整合性が合わないですね。完全に。」

「既存のゲームの面白くない所は課金した最強キャラを最初っからストーリーモードに投入できてしまう所だ。それで面白みがなくなってみんなアンインストールしてしまうのだ。」

「ということは!?」

「別ゲームだ。ストーリーモードと対戦モードは別ゲームだ。対戦で手に入れた強いキャラクターはストーリーモードでは使えない。若しくはストーリーモードを進めて一定の所まで進んで、強いキャラクターがでるところまで進めれば使用できるとかがいいな。」

「それだと師匠が手に入れたドラゴンはストーリーモードではだいぶん先まで使えませんね。アハッ!」

「しまった!? と思う所だが、ストーリーモードでいきなりドラゴンを出してやる! 師匠を舐めるな!」

「忘れてた!? 師匠が自己中心的なサイコパス野郎だということを!?」

「任せなさい! この師匠に! バカ弟子はテストプレイヤーをしていればいいのだよ! ワッハッハー!」

 こうしてドラゴンはストーリーモードの前半に登場させることに決まった。こうやって少しずつ設定が決まって行くのだ。悪魔の笑い声と共に。


「まず! バカ弟子はゴット・カードを道端で拾う!」

「おお! これが運命の出会いか! って、拾ったものは交番に届けなくっちゃ。」

 俺は良い子だった。

「おまえは物語を終わらせる気か? ムカッ!」

「じょ、じょ、冗談ですよ。アハハハハハ。」

 俺は命乞いをする。

「でも、やはり切り札はピンチの時に現れるのが盛り上がる定番だな。」

「そうですね。物語はピンチからの逆転だけでできてますからね。」

 これストーリー作りのお約束。

「異世界なら殺されかかっている。現代ならいじめられっ子か?」

「でも、この二つの世界をリンクさせると話がややこしくなってしまいますね。」

「それはいけない。世界観を押し付けると難しいことが分からない一般大衆は逃げてしまう。」

 シンプル・イズ・ベスト。

「ということは主人公以外も味方も敵もカードで戦うのか。なんちゅう世界じゃ。」

「いじめっ子って、いじめっ子カードを持っているんですね。なんか面白い。」

 この世の全てはカードが決める。マジか。


 異世界ファンタジー・バージョン。

「俺は普通にヨーロッパ風の街並みで生活をしていた。しかし、ある日。魔王サタンが復活して、人間を攻撃してきた。俺の住んでいた村もいきなりドラゴンに襲われた。」

 決してステーキに襲われた訳ではない。

「ギャアアアアアアー! ドラゴンだ!?」

「逃げろ! 殺されるぞ!」

 村にドラゴンがやって来た。炎を吐きながら。アベシ!

「カット! それだと面白みがない。やはり最初は主人公の平和な日常から始まり、その平和が崩れる所に物語のワクワク感と悲劇さがあるのだ。」

「さすが師匠! 御見それしました。」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!


 テイク2。

「ふあ~よく寝た。ん? んん!? 遅刻だ!?」

 俺は寝坊した。村人は朝は教会で神に祈りを捧げるのが掟だった。物語の定番、主人公の寝坊から始まるアニメばかりだ。

「急げ! 急げ!」

 俺は教会を目指して全力で走る!

「も、燃えている!?」

 そこで俺が見たのは燃え上がる教会であった。

「ガオー!」

 ドラゴンだ。ドラゴンが教会を焼いたのだった。

「カット! それだと主人公と村人の平和な日々が描かれていないだろうが! つまらなくても世界観と家族や友達、彼女彼氏との物語は最初にしっかりと描かないとお客さんが物語に引きづり込まれないだろうが!」

「さすが師匠! もう一度がんばります!」

 俺は二人三脚で師匠と物語を作っていく。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!


 テイク3

「俺は父さん、母さん、妹のポーと4人家族で幸せに暮らしていた。ある時、地球に魔王が現れて世界を征服するという。俺の暮らしていた渋谷にもドラゴンが現れて街を火の海にしてしまった。」

「もう少し家族の団欒が冒頭に欲しいな。手っ取り早く夢を語らせて、その夢を壊される。若しくは命を奪われるがいいな。」

 師匠の監修は少し厳しい。

「お父さんの夢は何?」

 俺は父親の気持ちは分からないので直接父親に尋ねてみた。

「そうだな。老けた母さんと別れて若いピチピチギャルと再婚したい。」

 中年男の儚い願いだった。

「アベシ!?」

 次の瞬間、父親に母親のアッパーカットが炸裂した。

「おまえの死亡保険は私のものだ! ワッハッハー!」

 父の不用意な発言は母親の怒りを買った。

「ご臨終です。」

 俺の父親は事故で死に絶えた。

「おいおい!? 魔王が現れて殺される設定じゃなかったのか!?」

 まさかの母親に殺されるというオチであった。

「じゃあ、母さんの夢は何?」

「最初はお父さんと添い遂げると言うつもりだったんだけど、今はお父さんの保険金1億円で若い男と再婚すること。まだまだ子供を産めますよ! キャハ!」

 俺の母親も只者ではなかった。

「まさか!? 世界を恐怖のどん底に叩き落す魔王は俺の母親だったのか!?」

「バレたか!? キャッハッハ!」

 魔王の正体は俺の若作り年下好きの母親だった。

「師匠、こんな物語の作り方でいいんですか?」

「深く考えるな。昔、母を尋ねて4千里というアニメがあった。魔王の母親を倒すために三千里の大冒険をするのもいいだろう。」

「さすが師匠! 懐が深い!」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

「ポー。おまえの夢は何だ?」

 小学一年生の妹にも聞いてみた。

「ポーちゃんはね。大きくなったら怪獣になるの。そして街を破壊して歩くの。」

「なんちゅう夢じゃい!?」

 まだ妹は幼くお頭は夢の中だった。

「それ採用。」

「ええー!?」

「やったー!」

 師匠は妹の言うことを物語に採用した。

「母親が父親の仇で、ポーちゃんは自分で街を破壊したかったのに破廉恥な母親に先を越されてしまい夢を奪われた。そこでポーちゃんはゴット・カードを拾い、夢を奪った母親を倒すために旅に出るのだ!」

「なんちゅう物語の始まりかただ!?」

「やったー! ポーちゃん主役! アハッ!」

 大喜びの妹。

「恐ろしい。自分の才能が恐ろし過ぎる。イヒッ!」

 大絶賛の師匠。

「もう知らない。何とでもなれ!」

 自暴自棄になる俺。物語はこうやってできていくのかもしれない。


「よし、それならポーもゲームに参加しろ。」

「やったー! 築お兄ちゃんが遊んでくれる! 珍しいー!」

 年の離れた兄の俺に遊んでもらえて大喜びの妹。

「なんて素晴らしい兄弟愛なんだ。私との師弟愛が負けた。ウルウル。」

 師匠が感動する兄弟愛である。

「ポー!」

 自分そっくりのアバターを作り主人公を設定する。

「ポー!」

 妹はガチャを引いた。

「ポー!」

 騎士が出た。俺の麻痺解除薬に比べればとても良い。

「ポー!」

 そして妹はカードを手に入れたポイントを攻撃力に割り振った。

「おい、バカ弟子。妹は全てセリフを「ポー!」だけにする気じゃないだろうな? 生まれたての赤ん坊じゃないんだぞ?」

「見破られたか!?」

 さすがに「ポー!」だけでは許されなかった。


 ここで素朴な疑問が生まれる。

「現状、この三人で戦ったら誰が強いんでしょうね。」

「分からないな。とりあえずやってみるか。リーグ戦の総当たりの対戦を。」

「ポー!」

 妹は「やろう、やりたい!」と言っている。

「第一試合! アバズレ師匠と頭の弱い妹!」

「誰がアバズレだ。テクニシャンと言ってくれ。」

 否定はしない師匠。

「誰が頭が弱いだって? お兄ちゃんより小学一年生の私の方が偏差値が高いんだけど。」

「ポーが喋った!?」

「いや、驚くところは高校生の兄より妹の方が頭が賢いという所だろう。」

 ごもっともな師匠の御指摘。

「ハアッ!? そうか!? そういうことだったのか!?」

「どうしたんですか!? 師匠!?」

 師匠が何か閃いた。

「おまえは創造の神の神人で、私は神人の師匠の天使の天人。つまり、この世界は私たちが作ったのだ。そして私たちの作った世界を小学一年生の妹が冒険するという超ヤングでナウな設定にしよう。」

「さすが師匠! 何でも使えるものは使うというスタイルですね。」

「名探偵の小学生ではないが、きっと低年齢の若年層にウケる。ウケると親になだってカードが売れる。子供が冒険したい。ワクワクしたい。そういう物語になれば同調や共感を得られて良いのではなかろうか。」

「作っているのは兄。プレイするのは妹。それを見守る師匠。完璧な構図ですね。」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!


「ということは、俺と師匠は物語から消えた方がいいですね。なんてったって神と天使ですからね。」

「そういうこと。登場してもゲストキャラクターだ。我々師弟は創造主だからな。おまえの妹に頑張ってもらおう。」

「なんかあり得ない設定になって来ましたね。」

 こんな物語は聞いたことがないな。

「ポー頑張っくれ。」

「ポー!」

 妹は「がんばります!」と言っている。

「さあ、物語の概要は決まった。」

「マジですか!?」

「だって、そろそろ安定して物語を進めないと疲れちゃう。創作だけで3万8000字まできたんだぞ。残りの1万字位は楽させてくれ。」

 師匠の切実な願いだった。

「それでは、ポーのワクワク大冒険! 行ってみよう!」

「これは神人の師匠であり、カードゲームのタイトルはゴットカードです。」

 自由奔放の師匠に振り回されながらも、健気に支える弟子の俺であった。

「ポー!」

 妹は「皆殺しだ!」と言って。

「ギャアアアアアアー!」

 ポーの右フックが俺に炸裂する。

「ポー!」

「ポーちゃんは「私、世界を救ってみせます!」と主人公の決意を語っています。なんてカワイイんだ。ポーちゃん。アハッ!」 

「ポー!」

 師匠と妹は仲睦まじかった。

「それでは物語の始まりです・・・・・・アベシ。」

 俺は物語の始まりと共に天に召された。

「ただいま!」

 そして神様に救済され神人になり、妹の物語を想像することになった。


「ワッハッハー! ワッハッハー! ワッハッハー!」

 20○○年。地球に大魔王が現れた。

「笑いすぎで顎がはずれるわ。」

 魔王、俺の母親。名前は・・・・・・百恵にしよう。テレビで○○百恵のコンサートを見たから。そういえば俺の苗字がないな。奇跡的に名前は築に決まっているが。面倒臭いので佐藤にしよう。名字の一番多いランキング1位だ。

「若いイケメン! 可愛い年下の男の子は私のものだ! ワッハッハー!」

 俺の母親はジャニーズ系の若い男をゲットするために、俺と妹の父親を殺して魔王になったのだった。

「こんな魔王でいいのかな?」

「気にするな。こんな物語だから誰にも真似できないオリジナルになるのだ。」

「はい。師匠。では話を進めましょう。」

 物語進行中は俺と師匠の声は神の声になり魔王や物語の登場人物には聞こえない。

「ポー!」

 父親を殺され、兄は行方不明になった妹は家族の復讐のために魔王になった母親に戦いを挑むのであった。

「師匠。このドロドロした物語で子供たちが喜んでくれるのでしょうか?」

「大丈夫。最近の子供たちはませているからな。きっと喜んでくれるさ。アハッ!」

 ダメならロリコンのアニオタが支持してくれるだろうという打算。

「ていうか、俺、妹の右フックで死んでますけど。」

「細かいことは気にするな。アハッ!」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!


「ポー!」

 妹の大冒険が始まる。簡単なルールとして大切な妹は戦闘に参加しない。あくまでも戦うのはカードだ。

「ポー!」

 まず妹は自分のアバターを作る。カードゲームだが、この本人のアバター大将を倒されると負けだ。将棋でいうと王将。餃子ではない。チェスでいうとキング扱いだ。

「ポー!」

 次に妹は今日の無料ガチャ1回を引く。

「ポー!」

 妹は歩兵見習いを手に入れた。やはり兵士キャラクターガチャでなければ、自軍の軍隊が強くならないことに気づ改正された。俺と師匠が熟慮した結果だ。

「ポー!」

 カード1枚につきステータスポイントが1割り振られる。妹は攻撃力に振った。

「ポー!」

 レベルアップはログイン方式で1日1回だけあがる。連続ログインしてくれた人が強くなるのだ。

「ポー!」

 レベルとステータスをかけることにより強さが決まる。レベル1でステータスの攻撃力が1なら攻撃力は1だ。レベル2で攻撃力のステータスが2なら4になる。勉強と同じでログインをサボった者から負け犬になるのだ。

「ポー!」

 このゲームの素敵な所はゲームで現実のお金が稼げることだ。もし法律に引っかかるなら仮装通貨でもいい。生活弱者、引きこもり、無職が生活していけるだけのお金は稼げるカードゲームだ。お金持ちに勝てばお金が入ってくるシステムだ。これで役所で生活保護の申請を門前払いされても、誰でもおにぎりが買えるのだ。お金持ちの人にはそういうゲーム世界を実現してほしい。

「ポー!」

 それではゲーム起動! 妹よ! 兄はいつでも天国からおまえを見守っているぞ!


「なんで私がポーポーポーポー泣き叫ばないんといけないんだ!? ふざけるな!? 幼女虐待で訴えてやる!」

 妹は言葉を喋ることが出来た。これも「ポーちゃんカワイイ! キャハ!」というにわかファンを生み出すことにある。そしてSNSやネットで拡散、炎上。ゴット・カードは大成功を収めるのだ。目指せ! 遊び王越え!


ポー1日目。

「ポー!」

 俺の妹は「いい朝だ。」と言っている。妹は朝起きてゲームをスタートした。

「おはよう。ポー。」

「ポー!」

 俺の妹は「おはよう。お父さん、お母さん、おバカなお兄ちゃん。」と言っている。もちろん現実世界では父さん、母さん、俺は妹の家族として生きている。なんともあべこべな設定にしたもんだ。

「ポー!」

 俺の妹は「行ってきます。」と言っている。設定だけして小学一年生の7才の妹は時間なので学校へ行く。

「それでは次、ポーちゃん読んでください。」

「ポー!」

 俺の妹は「はい。先生。」と言い授業に参加している。もちろんゲームなど小学校ではできないので、夕方に学校が終わり家に帰って来るまではゲームをしていない。

「ポー!」

 俺の妹は「ただいま。」と言っている。

「ポーちゃん、宿題しましょうね。」

「ポー・・・・・・。」

 俺の妹は「えーーーーーーー。」っと嫌そうな顔をする。それでも子供の義務なので宿題をする。

「ポー!」

 俺の妹は「やったー! 自由だ! フリーダム!」と言っている。宿題を終えた妹はやっと自分の時間を手に入れたのだ。ここまで長い道のりだった。これが今時の小学一年生の日常の生活だ。可哀そうな気もする。

「ポー!」

 俺の妹は「よし! ゲームして遊ぶぞ!」と一日の中で一番気合が入っている。

「ポーちゃん、夜ご飯の時間よ。」

「ポー!」

 俺の妹は「背に腹は代えられない」と言っている。丁度お腹も空いているのでご飯を食べる。

「ポー!」

 俺の妹は「今度こそゲームするぞ!」と改めて気合を入れる。

「ポーちゃん、お風呂に入りましょうね。お父さんが入るとお湯が汚れるから先に入ろうね。」

「ポー!」

 俺の妹は「お父さんて出汁なの?」と父親に疑問を感じている。俺が入った後の風呂もミルキーな出汁が出ているだろうよ。男だからな。

「ポー!」

 俺の妹は「今度こそ、今度こそゲームするぞ!」と言っている。ここまで本当に長い道のりだった。

「ポーちゃん、お口を磨きましょうね。」

「ポー!」

 俺の妹は「歯医者さん、大っ嫌い!」と素直に応じる。歯医者でギーギーされるのがよっぽど嫌なのだろう。

「ポー!」

 俺の妹は「これで身も歯もきれいになった。さあ! 今度こそゲームするぞ!」と気合を入れる。

「ポーちゃん、お眠の時間ですよ。」

「ポー!」

 俺の妹は「おやっさん、疲れたよ。」と布団に入り安らかな眠りについた。

「zzz。」

 これで俺の妹の一日は終わる。


「なんじゃこりゃ!?」

 師匠は目を丸くして驚く。

「俺の妹の一日ですが、それがなにか?」

 開き直る俺。

「これではほとんどゲームできないじゃないか!?」

「仕方がありませんよ。妹は子供なんですから。朝にログインだけでもできれば良い方です。」

「マジか!?」

 天人の師匠は人間の子供の過酷な生活を目の当たりにする。

「これでは引きこもりやお金持ちで仕事としてない奴しかゲームができないではないか!?」

「普通の人間はゲームなんてしませんからね。子供は勉強、大人は仕事。ゲームなんてお金が稼げなければ落ちこぼれがやる者ですからね。」

 本当にeスポーツでお金が稼げるようになって良かった。でも表に出てゲームしている人よりも俺とか普通にゲーセンとかでゲームしている人の方が上手い人は多い。1億貰っている人でも「違う!? 弱い!」と感じる自称プロのゲーマーは多いだろう。ネットカフェとかでも強い人多いし。eスポーツに参加して顔バレするのが嫌とか、または参加する方法を知らないだけだろう。

「大丈夫か? このおまえの妹の物語?」

 心配する師匠。

「大丈夫です。オチは考えてます。エッヘン!」

 自信満々な俺。

「心配だ。バカ弟子だけに。」

 俺の言うことが信用できないしようであった。


「ポー!」

 俺の妹は毎朝ログインと1回の無料ガチャだけした。4月5月6月7月と。

「ポー!」

 俺の妹はログインだけし続けて、夏休みが来る頃にはレベルが100を超えていた。これはサービス開始からプレイを続けている強者と同じ最高レベルであった。恐らく110日位だから、妹のレベルは110としておこう。

「ポー!」

 俺の妹もゴット・カードゲームをただのログインゲームだと思っている。

「ポ?」

 そして夏休みになり、学校が無くなり自由な時間ができて、初めて妹は気づいた。

「ポポポポー!?」

 俺の妹は「私、ポーしか喋ってないじゃない!? 殺す! 製作者!」と的確な殺意を持っている。

「ポ?」

 妹は気づいた。ステータスポイントが109貯まっている。初日にポイントを攻撃力に1ポイント振っただけだったからだ。

「ポー!」

 俺の妹は何の躊躇もなく攻撃力に全てのポイントを振る。これで攻撃力はレベル110かける攻撃力ステータス110の12100になる。恐らく全プレイヤー中、最強の攻撃力を誇る。

「ポ?」

 次に俺の妹は気づいた。カードの総数が110枚になっていることを。初日の歩兵一人以外は初めて見るカードキャラクターばかりだった。

「ポ?」

 といっても小学一年生の俺の妹はカードのレアリティどころか、歩兵と騎士の違いなどの細かいことは分からない。

「ポッポッポー!」

 とりあえず俺の妹は対戦モードを遊んでみることにした。

「ポー!」

 対戦相手は妹と同じレベルの強者だった。相手のカードデッキは勇者、戦士、僧侶、魔法使いとバランスよく揃っている。

「ポー!?」

 俺の妹は「卑怯者!? 多勢に無勢とは!?」と言っている。なんせデッキの設定などしていない妹は自分のアバター一人なのだから。

「なんだ!? こいつは!? 本当にレベル110もある奴のデッキなのか!?」

 対戦相手は匿名なネットゲーなので、まさか相手が小学生だとは知らない。

「ラッキー! 楽勝だ!」

 普通に考えて相手は勝つ気のない負けデッキなのは確実である。

「ゴット・ファイトー!」

 対戦が開始された。

「ポー!」

 相手が俺の妹でなければの話だが。

「なに!?」

 俺の妹の攻撃は右フックだけで空気を切り裂く超攻撃が発動された。

「ギャアアアアアアー!」

 敵のキング、勇者とかのパーティーを一撃で吹き飛ばし俺の妹は勝利した。

「ポー!」

 俺の妹は「やったー! 私、強い!」と無邪気に喜んでいる。


 その頃、俺。

「バカ弟子。おまえは何をやったんだ?」

「妹が可愛いので、全プレイヤー中で一番攻撃力が強いプレイヤーには攻撃力が10倍になる特権を与えました。」

「この親バカめ。」

「師匠、違いますよ。兄バカですよ。」

「ヤレヤレだぜ。」

 師匠も俺の妹の溺愛ぶりにお手上げである。兄バカ。新しい語源だ。アハッ!


「ポー! ポー! ポー!」

 その後も俺の妹は暗殺拳10倍を使い続けて勝ち続けた。

「なんだ!? エラーか!?」

「運営のアカウントじゃないのか!?」

「ポーちゃん!? 何者だ!?」

「救世主だ!? 世紀末覇者だ!?」

 もちろん俺の妹の絶対的な強さにネットはざわついた。誰も相手が小学生とは思っていないからだ。

「ポー!」

 サービス開始からログインをやめていない俺の妹は日々の努力で対戦ランキングで1位まで上り詰めるのであった。継続は力なり。


「ポ?」

 俺の妹は何かに気づいた。ストーリーモードだ。とりあえずやってみることにした。

「おお! よくぞ来た! 勇者ポーちゃん!」

「ポー!」

 現れたのは胡散臭そうな王様だった。

「地球に魔王が現れ世界を支配しようとしている。魔王を倒せるのはポーちゃんだけだ。魔王を倒してくれるか?」

(なんだ。子供か。遊び気分で世界を救えると思うな。甘く見過ぎなんだよ。どうせ課金しないと強くなれないんだから年齢制限をつけろよな。)

 実は王様はクズだった。

「ポー!」

 俺の妹は「やります! やらしてください!」と嘆願している。

「行くがいい! 勇者ポーちゃんよ!」

「ポー!」

 気合十分の俺の妹の冒険が今、始まる。

「それではまずゴットカードをバトルデッキにセットしよう。」

「ポー!」

「あれ?」

 その時、王様は何かに気がついた。

(なんだ!? このガキ!? ストーリーモードの始まりなのに、どうしてカードを110枚も持っているんだ!? まさか!? チート!? 親のクレジットカードでで課金しまくってるんじゃ!?)

 王様の疑いの目を向けられる妹。

「お嬢ちゃん。」

「ポー!」

「そうそう。ポーちゃん。このカードはどうしたのかな?」

「ポー!」

 俺の妹は「毎日ログインして、毎日1回の無料ガチャを回し続けたの。」と言っている。

「え!? なんだって!?」

(レベル110!? これはサービス開始からのプレイヤーの最高レベル!? まさか!? このガキは!? いや、このお嬢様は!? このゲームのお得意様だというのか!?)

 王様は他にも大切なことに気がついた。

(なんだ!? この子の持っている2枚のカードは!? こんなカードは王様である私も知らないぞ!? この私が知らないカードがあるというのか!?)

 もちろん神人の俺と天人の師匠のカードである。

「それではおすすめセットでデッキをセットしよう。」

「ポー!」

 俺の妹は戦闘デッキをセットした。

「ポー!」

 俺の妹は「やったー! ポーちゃん騎士団ができた!」と喜んでいます。

(なんていう大団体だ!? ゲーム開始からこんな大部隊なんて見たことがないぞ!?)

 王様は度肝を抜かれていた。

「ポー!」

「ポー!」

「ポー!」

 兵士、騎士、弓兵、鉄砲兵、僧侶、魔法使いなど勢揃いしていた。そして大将である妹に忠誠を誓う兵士たち。

「ポー!」

 俺の妹は「王様、冒険の旅に出かけます。」と言っている。

「あ、ああ! 頼んだぞ! ポーちゃん!」

「ポー!」

 王様の度肝を抜いた俺の妹は旅に出る。


「ポー隊長。これだけの大部隊。食料は持つんですか?」

 妹の部隊の兵士が尋ねる。

「ポー!」

 俺の妹は「ログインを110日したので、その間に食料が腐るほど貯まっています。」と言っている。

「さすが! 隊長! これで食料にはこまりませんね。」

 ポーは食糧問題を解決した。

「ポー隊長。これだけの部隊の装備やアイテムを買ったり、宿屋に止まるだけのお金はあるんですか?」

 妹の部隊の騎士が尋ねる。

「ポー!」

 俺の妹は「ログインを110日したので、その間にお金は腐るほど貯まっています。」と言っている。

「さすが! 隊長! これでお金問題も解決ですね!」

 ポーは軍資金問題を解決した。

「ポー隊長。これだけの軍勢なら序盤は楽勝でしょうから、壁に当たるまでストーリーを進めましょう。」

 妹の部隊の魔法使いが進言する。

「ポー!」

 俺の妹は「行くよ! みんな!」と隊長らしく号令をかける。

「おお!」

 その号令に答える兵士たち!

「ポー!」

「ポー!」

「ポー!」

 ここから俺の妹の「ポー! ポー!」うるさい騎士団の大侵攻が始まる。


 その頃、俺。

「どうしましょう? 師匠。」

「何が?」

「王様にすると異世界ファンタジーになってしまうような?」

「おまえが住んでいるのは渋谷だ。それなら渋谷王を渋谷区長に変えるか? 渋谷大臣たちは渋谷議員たちに。渋谷のスクランブル交差点は交差点だから、そのままだし。スクランブルスクエアはビルだが、スクランブルスクエア城にしてしまおう。地下鉄は地下迷宮だな。タワーマンションは塔にしとこうか。」

 師匠は的確な指示を俺に与えてくれる。

「なんかゲームクリエイターみたいですね。」

「そんな師弟があってもいいだろう。私は先に帰るが、おまえは残業な。」

「ええー!? なんで俺だけ!?」

「それはおまえが私のバカ弟子だからだ。私は夜勤続きでお肌が荒れているんだ。おい、バカ弟子、信じているぞ。ニコッ!」

 師匠は弟子を信じて笑うと去って行った。

「ズキューン!」

 俺は師匠の一言に胸を矢で撃ち抜かれる。弟子は師匠には勝てないのだ。

「でも結局、俺だけ残業かよ!?」

 展開の神の俺だが残業はさせられる。給料など貰ったことはないので、サービス残業は確定だ。

「労働基準監督署に訴えてやるぞ!」

 これでも師弟関係は良好である。


クエスト1。

渋谷城の周辺のモンスターを倒せ。


「おい、次の冒険者が来るんだってよ。」

「毎回最初に倒される俺たちの身にもなってほしいものだ。」

「まったくだ。全世界で10億人がプレイのゴットカード。単純でシンプルなシステムなので当然クエスト1くらいは9億人以上がプレイしている。俺たちは何億回殺されてるんだっていう話だぜ。」

 渋谷城(別名、渋谷区役所)の周辺のスライムやゴブリン、野犬たちは愚痴をこぼしていた。

「まあ、俺たちに負ける冒険者もいないから、サクッと負けてお昼休憩に行こうぜ。」

「今日は牛丼がいいな。ポテトもつけてくれ。」

「ええー!? 俺はサンドイッチがいいのに。」

 仲良し雑魚キャラの皆さんだった。

「敵襲だ!?」

 仲間が俺の妹の出現を知らせる。

「来たか!? 今日はどうやって負けようか!?」

 勇者を倒すことより、お腹が空いている雑魚キャラのみなさん。

「ポー!」

 俺の妹は「全軍突撃!」と四文字熟語を超え高々に叫ぶ。

「ポー!」

 妹の兵士たちは「おおー!」と雑魚キャラに向けて全力で突撃する。

「え? ええー!?」

「なんじゃこりゃ!?」

 雑魚キャラの皆さんは俺の妹の軍罪を見て驚いた。今まで一人で勇者がやって来ていた。多くても2人か3人パーティーだ。稀に5人10人の兵もいる。

「1、2、3・・・・・・100人はいるぞ!? いったいどうなってんだ!?」

「知るか!?」

 パニックを起こす雑魚キャラの皆さん。

「ポー!」

 俺の妹の合図で、弓兵が雑魚キャラの皆さんに2、3本の弓矢を飛ばす。

「ギャアアアアアアー! 弓だ!?」

「こらー!? 当たったら危ないだろうが!?」

 雑魚キャラの皆さんは必死で弓矢を交わそうとする。

「ポー!」

 俺の妹の合図で、魔法使いが火氷雷風などの魔法を雑魚キャラの皆さんに放つ。

「アチチチチッ!? サムサムサム!? ギャアアアアアアー!」

「風が気持ちいい! アハッ!」

 本来なら雑魚キャラの皆さんは倒れそうだが、まだゲームを始めたばかりで俺の妹の軍隊のレベルは低い。

「ポー!」

 俺の妹の合図で、砲撃手が大砲をドカーン! っとぶっ放す。

「ギャアアアアアアー! 助けて!? お母さん!?」

「分かった!? こいつら俺たちをなぶり殺しにするつもりだ!?」

「なんだと!? なんてひどい奴らだ!? これが勇者のやることか!?」

 雑魚キャラの皆さんは俺の妹に恐怖した。

「逃げろ! やれてやる必要はない! 逃げるんだ! 俺たちが生き残る道はそれしかない!」

「おお! ここは勇気ある撤退だ!」

 雑魚キャラの皆さんは全力で逃げることにした。

「ポー!」

 俺の妹の合図で、重装兵が退路にバリケードを築く。

「こ、こいつら!? 俺たちを逃がさないつもりだ!?」

「なぶり殺しにする気なんだ!?」

「俺たちなんかに手も焼いても美味しくないぞ!?」

 もう雑魚キャラの皆さんには俺の妹は恐怖の女王にしか見えない。

「ポー!」

 しかし俺の妹は手を抜かない。俺の妹の合図で騎馬兵が突撃する。

「や、やられる!?」

「みんな、今までありがとうよ。」

「おお。また来世で会おうぜ。」

 騎馬兵の突撃に俺たちは死を覚悟した。別れの挨拶は短くさりげなく。

「あれ?」

 しかし騎馬隊は雑魚キャラの皆さんの脇を素通りした。

「ポー!」

 最後に妹は歩兵に突撃の合図を送る。

「やられる!?」

 雑魚キャラの皆さんは死を覚悟した。

「ポー!」

 しかし歩兵は雑魚キャラに攻撃はせず、ロープで縛りつけて捕獲した。

「ポー!」

 俺の妹が勝利を隊員に知らせるように雄叫びする。

「ポー! ポー! ポー!」

 全隊員が勝利を喜ぶ。

「俺たちはどうなるの?」

 捕虜になった雑魚キャラの皆さん。


「ポー!」

 俺の妹は「お友達になってくれるなら許してあげる。」と言っている。

「なんだって!? 敵である俺たちに情けをかけるというのか!?」

「雑魚キャラだぞ!? 俺たちに情けなんかかけても何も良いことはないのに!?」

「罠だ!? これは罠だ!? きっと何か策略があるんだ!?」

 雑魚キャラの皆さんは疑心暗鬼にとらわれる。

「ポー!」

 俺の妹は「お友達にならないなら、スライムゼリー、ゴブリンチキン、保健所行にしちゃうぞ。」と言っている。

「参りました。」

「あなた様のお友達にならしてもらいます。」

「保健所だけはご勘弁を。」

 それぞれの弱点をついた見事な懐柔策だった。俺の妹はやはり高校生の俺より賢い。

「ポー!」

 俺の妹はお友達が3人増えて大いに喜んだ。

「勇者様、俺たちは何をすればいいんですか?」

 雑魚キャラの皆さんは俺の妹に尋ねてみた。

「ポー!」

 俺の妹は「私のことはポーちゃんと呼んでね。ニコッ!」ポー騎士団の掟を雑魚キャラの皆さんに教えていく。

「ポーちゃん? なんか恥ずかしいな。これ。」

「ポーちゃん、カワイイ。」

「ポー!」

 俺の妹は自分のことを可愛いと褒められて喜ぶ。

「ポー!」

 俺の妹は「合言葉は「ポー!」だと言っている。」

「ポー!」

「ポー!」

「ポー!」

 雑魚キャラの皆さんは物覚えが早い。

「ポー!」

 俺の妹は「お友達を100人作る。」と言っている。なんて健気で可憐な俺の妹なんだ。

「ポー! ポー! ポー!」

 雑魚キャラの皆さんは「ポーちゃんのためならお友達を作るのをお手伝いすると言っている。」

「ポー!」

 俺の妹は「ありがとう。」と無邪気な瞳で笑った。

「ポー!」

 雑魚キャラの皆さんは俺の妹のためなら命を懸けると言っている。

「ポー!」

 ここに最強の最年長騎士団長俺の妹が誕生した。


 その頃、俺。

「なあ、クエスト1でこのボリュームなんだが、最後まで持つのか?」

「そこは大丈夫。だって俺の妹ですから。アハッ!」

 笑って誤魔化す俺。

「それより師匠こそ、師匠らしいことをして下さいよ。」

「嫌だ。面倒臭い。バカ弟子が作り上げた作品の添削だけしている方が楽なんだもの。なんなら神人の師匠の座をおまえの妹にあげよう。そうすればおまえは妹に一生頭が上がらない兄貴になる訳だ。ワッハッハー!」

「やめて下さい!?」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!


 クエスト2

 渋谷城の周辺を仕切っているボスを倒せ。


「よく来た! 勇者ポーよ!」

 渋谷城の王様である。(別名、渋谷区長でもいい。)

「ポー!」

 俺の妹は「勇者ではなく、騎士団長なの。」と言っている。

「ええ~い! そんなことはどっちでもいい! さっさとこの辺りを支配している犬の化け物を退治してこい!」

 こうして王様は忠犬ハチ公を倒してくるように俺の妹に命令した。

「ポー!」

 俺の妹は「分かりました。行ってきます。」と言っている。

「よろしいのですか? 王様。」

「なんだ?」

 そこに渋谷区議員ではなく、渋谷大臣が現れ王様に耳打ちする。

「もしあんな小娘が渋谷の支配者であるハチ公を倒した場合。王様は何もできなくて、小学生の子供はできたという情けない王様の烙印を押されてしまいますよ。それでもいいんですか?」

 大臣は悪知恵だけは働く。

「それは困る!? 私の立場が無くなってしまうではないか!?」

 保身に走る自分だけがカワイイ権力者の王様。

「何か手はないのか!? 大臣よ!?」

「こうなったら、勇者ポーにはハチ公との戦いの最中に名誉の戦死でなくなることにしましょう。」

「それは名案だ。こんどおまえに公共事業を回してやるぞ。ガッポリ税金で儲けような。ワッハッハー!」

 狸と狐が笑いあっている。

「見ていろ勇者め! 子供の分際で私の王様の地位を危うくしたことを後悔させてやる! ワッハッハー!」

 復讐に燃える王様であった。


 その頃、俺。

「ねえねえ、師匠。」

「なんだ?」

「こんなふざけた展開いですけど大丈夫ですかね?」

「大丈夫だ。私たちの方がもっとふざけているからな。」

「よし! 何だか大丈夫な気がしてきたぞ! ファイト!」

「単純な奴め。」

 俺と師匠は自堕落を極めている。なんてったって物語を妹に押し付ける時点で兄の負けである。よくできた俺の妹だ。


「ポー!」

 俺の妹は「全軍突撃!」と号令をあげた。

「ポー!」

 110体のゴットカードの兵士たちと雑魚キャラの皆さんは渋谷駅前のハチ公像を目指す。

「ポー!」

「ポー!」

 正直、ポー! しか言っていないが地響きがするような大大隊の前進である。

「ワオン!」

 渋谷の駅前を犬小屋にしている渋谷のボスのハチ公が雄叫びをあげる。

「ポー!?」

 俺の妹は「なんだ!? この数は!?」と驚いている。ハチ公は周辺のモンスターに呼びかけ俺の妹の騎士団と同等の数を揃えて待ち構えていた。

「ポー!」

 俺の妹は「かかれ! みんな死なないでね!」と言っている。

「ワオン!」

 ハチ公もモンスターたちに「敵がいなくなるまで戦えと言っている。

「ポー!」

「ワオン!」

 ポー騎士団とハチ公と愉快なワンワンたちが正面衝突する。本来はハチ公1匹との対戦であり、今回は例外的に敵の数を増員したのである。

「そうだ。戦え。アホども。おまえたちが潰しあって弱った所にとっておきをぶつけてやる! イッヒッヒー!」

 意地汚く笑う王様。

「王様、そろそろよろしいのでは?

「うむ。苦しゅうない。やってしまえ。」

「ははあー!」

 王様と悪大臣が悪だくみをしていた。

「いでよ! 悪魔! サタンよ! こいつらを皆殺しにしろ!」

 大臣は悪の魔法陣から悪魔サタンを呼び出す。

「ガオー!」

 悪魔が現れたことで戦局は一変する。

「ポー!?」

 俺の妹は「あれは何!?」と言っている。

「ワオン!?」

 ハチ公は「あんなもん見たことがない!?」と驚いている。

「ガオー!」

 悪魔サタンは火を吐き渋谷の街は火の海に包まれる。

「ポー!」

 俺の妹は「ハチ公、あいつを倒そう! 渋谷の民を救うんだ!」と言っている。

「ワオン!」

 ハチ公も「分かった。渋谷の街を守る為に一緒に戦おう!」と言い、ここに俺の妹とハチ公はお友達になった。


 その頃、俺。

「俺の妹が危ないじゃないか!? どうしましょう!? 師匠!? 俺の妹を助けてください!?」

 俺は妹の窮地に錯乱する。

「しっかりしろ。これぐらいで錯乱してどうする?」

「だって!? だって!? 俺の妹がピンチなんですよ!? これが落ち着いていられますか!?」

「バカ弟子を持つと本当に師匠は大変だ。昼寝も二度寝もできない。仕方がない。ここは私が助けてやろう。」

 師匠が重い腰をあげ、大地に立ち上がった。

「神人の師匠として、ゴットカードの政策の責任者として命じる! 悪魔サタンをサンタにジョブチェンジしてやる! ポチットな。」

 悪魔サタンはサンタクロースに職業を変えられた。


「メリークリスマス!」

 サンタは俺の妹にクリスマスではないのにプレゼントをくれる。

「ポー!」

 俺の妹は「ありがとう。」とお礼を言っている。

「ワオン!」

 ハチ公はサンタの贈り物おかげで呪いが解けて、忠犬ハチにジョブチェンジした。

「ポー!」

 俺の妹は「ワンワン、可愛いね。」と喜んでいる。

「ワオン!」

 ハチも俺の妹にナデナデしてもらえてうれしそうだった。

 

 その頃、俺。

「なんていい話なんだ! さすが師匠!」

 俺は師匠の創作力に感動した。

「私はやる時にはやるタイプなのだ。それを引き立たせるために普段はワザとダラしなくしているのだ。」

「ええ~!? そうだったんですか!?」

 俺は師匠の言葉に合わせてあげる。優しいバカ弟子なのだ。

「そんなことより、いいのか? おまえの妹をピンチにした悪い連中が生き残っっているが?」

「そうだ! そうだった! 俺の大切な妹を殺そうとするなんて許せない! 神の怒りを知るがいい!」

 俺は妹を傷つけられると怒りが込み上げてくる。

「神人が神の権限において命じる! 知るがいい! 神の裁きを!」

 次の瞬間、渋谷城に神々しい稲妻が降り注ぎ、渋谷城は跡形もなく滅び去った。これで渋谷を支配する者はいなくなり、渋谷民は自由を手に入れた。


「ポー!」

 俺の妹は「渋谷はみんなのものだよ。他にも支配されている人々を救いにいこう!」と正義感から言っている。

「ポー!」

 妹の騎士団員たちも士気は高く「どこまでもk師団長についていきます!」と心から思っている。

「ワオン!」

 忠犬ハチは「渋谷の守護は私に任せろ。安心して困っている人々を助けてこい。勇者ポーよ。」と言っている。

「ポー!」

 俺の妹は「勇者じゃないもん。騎士団長がいいの。」と駄々をこねている。


その頃、俺。

「ワッハッハー! おまえの妹らしいな。実に面白い。ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 師匠は景気づけにお祝いをしてくれる。

「はい。カワイイ妹ですから。アハッ!」

 俺は妹を褒められて嬉しい。

「でも師匠、良かったんですか?」

 ふと疑問を思いついた俺。

「何が?」

「今回は師匠が大活躍するお話だったと思うんですが?」

 その通り。

「いいんだよ。師匠とは最初頑張り後は弟子の成長を楽しむものだ。おまえもおまえの妹も立派な私のバカ弟子だ。ワッハッハー!」

「いつから俺の妹まででしになったんですか!?」

「美味しい所は全て師匠である私の手柄なのだ! 細かいことを言っていると破門にするぞ。」

「破門!? それだけはご勘弁を!?」

 師匠とは時に寛大で、時に威圧的な態度で弟子を脅迫する生き物である。

「ご清聴ありがとうございました。」

 ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!

 おしまい。

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神人の師匠 渋谷かな @yahoogle

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