この世界はちょっと不思議な笑いでできている
紅之模糊(くれないのもこ)
プロローグ~少年少女、迷いの森へ~
「えっ、うそなんで?」
どういうことだろう。
なんで私は今、親友に拳銃を突き付けられているんだ?
「――――ねえ、女のお面をかぶった殺人鬼が、
「え? 最近起きてる連続殺人事件のあの森でしょ?」
同じクラスの葉月薫は、他生徒の視線を気にしながら春香の質問に答えた。
「そう。その事件の犯人は、女のお面をかぶってるんだって」
「なんで女性のお面なんだ?」
「さあ? それはわかんない。でも聞いたところによると、犯人は男で、でも心は女性だったらしいの」
「なんでそんなこと知ってるのさ?」
「それはうちの親父が警官だからよ。親父が書斎で電話してたのを小耳に挟んじゃったのね」
「そうなのか? でもなんでそれが事件に関係あるんだ?」
「これは私の憶測なんだけど、たぶん心が女性だった犯人は、それをバカにされたことを恨んで、次々と殺して行っちゃったんじゃないかな?」
やや高揚ぎみに答えた。
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「予想が当たってたらいいなって! 私親父みたいな警官になりたいし」
「そういうことね。どちらにしても当たらないほうがいいね」
「どうして」
「当たってもしそのことが犯人の耳に届いたら、お前、狙われるかもしれないんだぞ」
「大丈夫、その時はこうよ!」
そういって小野寺春香は、葉月薫の野球少年のようなベリーショートの頭に、人差し指を突き付けた。――――
「えっ、うそなんで?」
この日の放課後。
小野寺春香は巌の森、別名『迷いの森』に訪れていた。
理由はもちろん、事件の犯人を突き止めるため。
そして春香は容易にも犯人を突き止めたのだ。
右手に拳銃を持ち、左手で般若のお面を外した、葉月薫を。
薫は拳銃を春香の額に当て、その疑問に答えてあげた。
「なんでって、少し逆だが、お前の言ってたとおりさ。俺は、身体は女に生まれ、心は男でできた人間。それを唯一信用していた親友に陰で馬鹿にされたらどんな気持ちか分るよな!」
「ごめん! だって私初めあなたがそういう人だって知らなくて、なんかおかしいって思っちゃっただけで、馬鹿にするなんて――」
「おかしくなんかねぇ!」
薫は拳銃で春香の頬を殴り、すぐさま引き金を引いた。――――
「――っていうところで終わっちゃったのよねー、今回の月曜劇場」
「いんや、独特の始まり方ぁあ!!」
そう、この物語は般若のお面を被った殺人鬼が起こすサスペンスでも、迷いの森からの脱走劇など一切関係ない、普通の高校生とその周辺のいろんな人物が織りなす、ちょっと不思議で笑いの絶えないコント的群像劇なのである!
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