わたし 2
私は学校に行くこともせずに、公園のベンチでぼんやりとスマホを眺めていた。穏やかな月曜日の公園には、昼休憩の大工たちと、暇を持て余した初老のおじいさん、それとグレーのパーカーを着た若い男がいた。
あの男が「ひかる」なのだろうか?
私は週に一回休日だけに、年を偽って男と会うという自己ルールを初めて破る。月曜の昼間から、制服を着たままネットで知り合った男と出会うのだ。ひかるという人物は、私が現役の高校生だと知ったらどんな顔をするのだろうか。
しかしその男はベンチに座る私をちらりと見ただけで、こちらに近づく様子もなかった。それどころか公園の一画に座って深く考え込み、しばらくすると公園から出て行ってしまった。やはりあの男がひかるだったのだ。ひかると待ち合わせをしていたのは、公園に一本しかない時計塔の下にあるベンチだったから間違えようがなかった。
私は彼の当たり前の仕打ちに、つい涙をこぼしていた。大人は子供と関係を持ってはいけない。なぜ私は自分を偽ってまで性欲の吐き口を求めているのだろうか。おのが身体を血液のように熱く巡るとめどない性欲を、私はきりきりと感じることができた。こんなものさえなければ、私は普通の高校生活が送れたと言うのに!
「お姉さん、どうして泣いてるの?」
しくしくと泣いている私の顔を覗き込んできたのは、綺麗な顔をした女性だった。三十を超えているのだろうか、大人びた声質とその風貌とは裏腹に、首元でばっさりと切られたショートカットが彼女の年齢をとても若く見せているように感じた。
「私、なんでもないんです」
「うん、そうね。なにも無くたって泣きたくなることくらいあるわよね。涙を流す度にどうして泣いてるのなんて尋問されてたらたまったもんじゃない」
彼女がそう真剣に語るのがなんだか可笑しくて、私はつい笑ってしまった。
「あなた笑ったほうが可愛いよ。チーズケーキでも食べない?余ってるのよ」
そう言って、彼女は私を優しく抱きしめてくれた。温かい抱擁だった。
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