あのーなんかいい感じにいい感じでアレしてください #7
「それから、ようやく問題を解決して故郷の世界に帰還したわけであるが――結論を言おう。故郷において時間は一秒たりとも進んではゐなかった。召喚されたまさにその時点にもどってきたのだ。一度だけの偶然ではないぞ。三度ともそうであったのだ。恐らく周囲の人間の眼には、小生の姿は消えることすらなかったのではあるまいか。」
「そ、それはつまり……」
「フィンくんがこの世界にいる間、元の世界の時間は進まないのだ。これは三度目の召喚の折に邂逅した、とある存在との問答から、ほとんど確信をもって言えることなのであるが――まぁ、その話は長くなるので今はやめておこう。ゆえに、君がこゝでどういう選択をしようと、君の故郷の問題が不当に悪化するようなことはないと断言させていただこう。その点は安心すると良い。」
フィンは、ぐるぐると混乱する頭を抱え、総十郎の発言を理解しようとする。
つまり、ええと、それは。
「しがらみや義務のことはひとまず脇に置いて、君の心のままに決めても良い、ということである。」
息を呑んだ。目を真ん丸く見開いて、総十郎をじっと見つめる。
それから、シャーリィへと視線を転じる。彼女はどこかそわそわしながらこちらを見つめていた。
いったん顔を伏せ、まだかすかに胸に残る葛藤を見つめる。
――居たい。
そして、義務やしがらみを取り払い、自分の気持ちを見据えた結果、見えてきたのはそういう願いだった。
――もう少しだけでいいから、この綺麗で透き通った世界に、居たい……
カイン人のいない、この世界に。
それは、確かに後ろ向きな気持ちではあったかもしれない。戦士にあるまじき怯懦だったかも知れない。だけど、これまで軍規や絆によって心を鎧い、泣き言も言わず、わがままも言わず、正義と責務のために心をすり減らしながら戦い続けてきた幼い少年の、それは初めての純粋な気持ちだった。
「小官も……」
不安そうに蒼い瞳を揺らしながら、じっとこちらの言葉を待つシャーリィに、声をかける。
この美しい世界の中でも、一番綺麗だと思った人に。
「小官も、シャーリィ殿下のために戦いたいであります。この、胸が締め付けられるほど美しい場所を、守りたいでありますっ」
その瞬間、世界が色鮮やかに咲き誇った。
地図をまたいで駆け寄ってきたシャーリィが、フィンの手を取った。
――ありがとう。うれしい。
その声なき言葉に、フィンは久しぶりに、本当に久しぶりに思いっきり笑顔になれた。
「はいっ!」
「ふふ、これからよろしくお願いします、フィンどの」
「同じ境遇の仲間がゐるのは初めての事例である。頼りにしてゐるぞ、フィンくん。」
まだ出会って間もない四人だったが、きっとやれる、うまくいく、という透明で鮮烈な連帯感が生まれようとしていた。
……いびきが聞こえてくるまでは。
パンツ一丁の変態は、腕を組んでしかつめらしい顔のまま鼻提灯を膨らませ、舟をこいでいた。
一斉にジト眼になる四人。
リーネと総十郎が手を伸ばし、同時にデコピンを放つ。
スコーン! と小気味良く烈火の頭が後ろにのけぞり、バネ仕掛けのごとく戻ってきた。
「いやいやいやいやいやいきなりなにしてんの寝てねーし? ぜんッぜん寝てねーし? はあ? 何言ってんの? お前いくらなんでも馬鹿にしすぎだよ? お前マジな話してる時に居眠りとかお前あり得ねえだろナメてんの? 烈火くんこれでも成人してんのよ? そんなお前子供じゃあるめえし、ねえ? おい? 何その顔。オイオイ勘弁してくれよ寝てたわけねーじゃんアレだろ? あのー、アレなんだろ? 余裕で聞いてたし? いやー大変だよねマジ、アレは。俺もなんとかしたいんだけどねーやっぱいろいろあるわけじゃん世の中?」
「とりあえず黙れ。」
眉間を揉み解しながら総十郎はため息をつく。
「直裁に聞こう。彼女らのために戦うか、それとも元の世界に帰るか。今ここで答えよ。」
「ああん?」
烈火は二人の女性の方を見やる。というかリーネのおっぱいをガン見する。
そして総十郎の肩をぐいと引っ張ると、呼吸に合わせて微かに揺れる巨大な乳房を指差した。
「そこにパイオツがあるじゃろ?」
「あるなあ。」
「で、超天才であるところの俺様がなんか阿呆をブッ飛ばしまくって好感度ゲージ上げるじゃろ?」
「それで。」
「フラグが立つじゃろ?」
「……それで。」
「素敵! 抱いて! ってなるじゃろ?」
「…………それで。」
「すると…………じゃろ?」
「…………………………。」
烈火は立ち上がり、圧倒的な闘気を放射しながら烈吼した。
「俺はパイオツの安全日を聞き出すために戦うぞォォォォォォッ!!!!」
ハルバードの石突が烈火の股間を打ち抜いた。
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