06・ゴーイング・コンサーンと力配分

 企業を切り盛りする上での基本的な考え方に「ゴーイング・コンサーン」というものがあります。

 企業は永続的に活動すると仮定し、その仮定をもとに会計や監査、あるいは経営全般を行うというものです。

 実際にはご存知の通り、企業のほとんどはいつか潰れます。しかしそうであっても、あくまで永続することを想定して、企業回りのことは動いているのです。

 永続的に活動する。あまりピンときませんが、逆を考えると分かりやすいのではないかと。

 つまり「一ヶ月後に会社を畳むから、そこまでが前提の計画しか練らなくてよい。金策などもそこまでしか想定しなくてよい」といった方針は、ゴーイング・コンサーンに沿ってはいないということになります。


 ひるがえって、小説。

 短編や中編程度なら、一日だとか、比較的短い期限を決めて、ガリッと頑張って急速に完成させる、といった戦法が一応通用します。

 しかし長編、特に書き溜めてから投下するタイプのやり方ではどうでしょう。

 最終的には十万字、またはそれに近い字数の原稿になります。一時的にペースを上げて字数を蓄積させたところで、全体の進捗はそれほど急速には進まない。

 長編が永続、つまり永遠の未完になっては困るでしょう。しかし、構想から練る場合、筆が早くとも数ヶ月から半年はかかるものであり、「永続前提」に近いスケジュール戦略を練らなければなりません。


 つまり、書き溜め後の投下を前提とするならば、短距離ダッシュのように気合を入れるのではなく、無理のない速さでじっくり仕上げていく、そういったスケジュールを組むということです。

 これはひどい。次作が出ないのをペース配分のせいにするとは、まったくもって怠け者というしかない!

 読者目線ではそう思うかもしれません。

 しかし作者として小説執筆に臨む場合、「無理のない速さ」というのはかなり重要です。私の経験による限りは、ですが。

 目の前の長編……長距離を、短距離ダッシュと同じ調子でやるなら、いずれ必ず力尽き、長期の停止を余儀なくされます。

 無理のない速さ、持続できるペースで行うということは、結果的に完結に至る可能性を高めますし、作者の生活にも過度な負担をかけずに済むでしょう。特に後者は、作者の人生が執筆だけで構成されているわけではない以上、重要な要素です。

 ですから、少なくとも私は、無理のない速さで書いていく所存です。


 長編小説は、いくら長編であっても永続しません。しかし、十万字程度というキリがあったとしても、執筆は永続に近いことを想定して、無理をしないということが大事なのではないかと、そう思うのです。

 結局言い訳か、ひでえな!

 まあ人間だからしょうがない。それ以前に、そもそも作者に「高速で続きを供給する義務」があるともいえないでしょうし。というか、書き溜めが完成すれば、むしろ高い更新頻度で提供できるわけですが。

 以上、ゴーイング・コンサーンを語りつつ、力配分の重要性を説くというアクロバティックな話でした。

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