第19話 計画の準備と子供達
「簡単ですよ。シンさんを倒してくれたらお二人を彼の元居た世界にご招待します」
私はなんでもない事のように言います。
「シンを裏切れって言うのか!」
トーカさんが当然の反論をします。
「裏切りというわけではありませんよ。元居た世界に彼を返すお手伝いをしてほしいのです。天界の使命で大陸を救った勇者は使命を果たしたので元居た世界に帰る。それだけですよ」
「天界の神様って結構、自分勝手ね」
ウィズさん少し察しはじめてますね。
「そうなんですよ。だから私もこんな任務に就かされているのです」
「あなたも大変なのね」
同情の眼差しを向けられました。
「それに転移して行方不明になったシンさんを御両親が心配されていると思います」
確認はしていません。もちろん推測です。
「それはかわいそうだ。うん、両親は大切にしないと」
何かあったのでしょうか。トーカさんの心に響くキーワードがあったようです。
「異世界、シンとの新たな生活か……私が協力するには十分な理由ね。いいわ、あなたの口車に乗ってあげましょう」
「トーカも協力する。シンを家族と再会させてあげるんだ」
「私はもちろんサラさんの味方ですよ」
何とか3人の協力を取り付けました。一歩前進。
「では、さっそくで悪いのですが、私を鈴の村まで送っていただけませんか」
「別に構わないけどどうして?」
「説明は向こうについてから進めながらでよろしいでしょうか。私はシンさん達がダンジョンから出てくるまでの時間がどれくらいかわからないので」
「了解したわ。鈴の村ね。ちゃちゃっといきましょう」
こうして私たちは鈴の村へと向かいました。
鈴の村に着くとまずアリューさんに会いに行きます。
「急にたたき起こしてなにごとか。しかも勇者シンの連れまで居るではないか」
アリューさんと3人は面識があったようで軽く挨拶を交わしています。
「アリューさんすみません。単刀直入に言います。あなたは天界の術式の解析、再現はできますか?」
スキル、加護の構成上できそうな気はするのですが細かいところはやはり本人次第です。
「できないこともないが。実現には最低でも天界の技術を持つ者が必要、複雑な式を展開している故な専門家の知識がないと再現は不可能よのう」
「技術者……ああ」
私にはあまりそういった知識がない。だけど、技術者には心当たりがありました。
「わかりました。技術者を連れてきますので少しお待ちください。ウィズさんすみませんが一度王都に戻ります。すぐに帰ってきますので私とウィズさんだけ送ってください」
ウィズさんは二つ返事でした。アリューさんへの経緯の説明はトーカさんとチユさんにお願いしていざ王都の武器屋さんへ。
「おう、サラちゃん今日は連れがいるのかってウィズじゃねえか、シンの野郎は元気か?」
「あ、役割は解除していいですよタンゾウさん。事情は話しています。いまから協力を要請します」
「了解しました。指示をお願いします」
「しゃべり方がいつもの武器屋のおじさんじゃない。洗脳?」
ウィズさんが目をぱちくりさせます。
「タンゾウさんは天界より異世界人のサポートをしてくださっている方です。シンさんのパーティもお世話になってましたよね」
これ話していいのか微妙なラインなのですが私の任務優先でいきます。
「ええ、やけに世話を焼てくれる優しい方だったけどそういう理由があったのね……」
ウィズさんが複雑そうな表情を浮かべていると店を訪ねる大男が後ろから来ました。
「じょーちゃんじゃあねーですかい。もしかして例の件、進展がありましたかい」
「ダグラ?あんたなんでこんなところに」
ウィズさんが後ろに現れた大男ことダグラさんに敵意を向けます。
「ちょうどよかったです。ダグラさんにもご協力をお願いしに行くところだったのですが手間が省けました」
「天界の協力要請により一時役割を解除します」
ダグラさんの反応にウィズさんの顔がぎょっとします。
「え?うそでしょ。悪評しかたたないあなたが天界の使い。どういうこと?」
「ダグラさんはギルドで因縁つけたりして序盤の異世界人の方にやられて自信を与える役割をしています。どのレベルの異世界人の方でもレベルに合わせて丁寧にやられてくれますよ」
「そういうわけだから役割さえなきゃなんもしねーですぜ安心してくだせ―」
「え?あ、うん……その……お疲れ様です……」
あまりにも違うダグラさんに困惑するウィズさん。これがギャップ萌えというものでしょうか?
「さて、話を戻しますね。これからお二人にドラゴンさんに会ってもらいます。そこでできる限り技術と知識を提供してあげてください」
「お、おう」
「へ、へい」
「まあ、困惑しますよね。話せば短いんですが私の相方だったクロムさんがクーリングオフという天界の術式を使うのですが本人が不在です。皆さんで再現できないかと思ってお力を借りたいわけです。術式の痕も2か所くらいあるのでそれを参考にしてもらいます」
なるほど、そういうことだったらと二人とも納得してくれました。私たちは急いでウィズさんのスキルでアリューさんの洞窟へ帰りました。
「おお、随分と早い帰宅だったのうサラよ。それにしてもおぬし相変わらず面白い事態になっておるな。まさか相方を取られるとは」
「クロムさんのことはまあ……もしかしたらシンさんをだます演技の可能性もあるといいのになーとか思ってます。なので、とりあえず保険をかけておきたいのです。クロムさんなしでもこのミッションをこなすためみなさんのお力をお貸しください」
皆さん了承してくださいました。
「それでは、これからの作戦についてご説明します」
私は皆さんに役割分担をし、来るシンさんの強制送還計画の準備を開始するのでした。
まず、村の人達との話し合いだったのですが、ほとんどがありえないほどスムーズに進みました。理由は簡単で幸太郎さんの残した助け合いの精神と家族のもとに返してやりたいという盛った話により二つ返事でした。人々の英雄、勇者を送り返すという行為です。多少反対意見も出ると思ったのですが幸太郎さんおそるべしですね。そんなこんなで村の人達には来る日に備えていろいろ頼みごとをしました。
残すはあと数人です。では、久々にあの子たちに会いに行きますか。
「トーカさんすみませんね。こんなこと頼んでしまって」
私とトーカさんは村のある場所を目指して移動中です。
「いいよいいよ気にしないで。子供嫌いじゃないし、それにシンをあきらめたくないから」
「そういえばトーカさんはシンさんのどのようなところに惹かれたのですか」
「うーんとね、シンはあたしを救ってくれたの。私の乗っていた馬車が魔物に襲われているときにたまたま通りがかったシンがね、助けてくれたの」
さすがですねシンさん。
「でもね、あたしの両親はシンが来る前にあたしを庇って死んじゃったんだ」
「す、すみません。嫌なことを思い出させてしまいましたね」
「気にしないで指揮官、嫌なことだけじゃないから、その時、泣いてるあたしにシンがかけてくれた言葉で救われたんだ」
「シンさんなんて言ったんですか?」
「俺が家族になってやるって。最初訳が分からなかったんだけど、そのうち意味が分かって心があったかくなった気がしたんだ」
シンさんそれは完全にプロポーズでは?トーカさんが一瞬だけ女の子の顔していましたよ。いや女の子なんですが。普段、ガサツなではなく活発な子が見せる女の子の一面にこちらも不意を突かれました。
「だから、シンが家族に会えるチャンスがあるならそれを叶えてやりたいなって」
「素敵な考えだと思いいます」
「あ、オイノリーダーだ」
私たちが話してると目的の子たちがこちらに気づいたみたいです。
「久しぶりですねゲンキくん」
「オイノリーダーかわいい服着てるー」
チユさんに貰った服にさっそく気づいたユーキちゃん。
「みんなまってよー」
あとからやって来た少し太めの子はヨウキ君。
「お帰りなさい」
音もなく私の背後から挨拶をくれたのはサツキちゃん、相変わらず心臓に悪い。みんなの姿を確認したところで一斉に視線がトーカさんへ向き説明を求めてきます。
「どもー、初めまして、トーカだよ。これからみんなと一緒に遊びたいんだけど混ぜてもらえるかな」
「へ、女なんかが俺たちの高度な遊びについてこれるかな!」
はい、私はついていけなかったです。でもメンバーの半分が女の子ですよゲンキくん。
「球当てで勝負だ!」
「ではではお手並み拝見」
「いやあ、この子達すごいねー球当てでここまで力使わされるとは思わなかったよ」
トーカさんはそこに倒れ伏している子供たちを純粋な笑顔で見ています。球当ては日本の漫画で見たドッジボールのような遊びでした。チームはトーカさんと私対子供たちのチーム。トーカさんが子供たちの放つ高威力なボールを軽々と取り私を守りながら子供たちを倒していきました。防御力の高いヨウキ君や回避力の高いサツキちゃんもやられているのを見てトーカさんの強さを再認識しました。
「くっそもう一回だ!」
一試合の時間は最初10分ほどだったのが今では5分以内に決着がつくようになっていました。もちろんすべてトーカさんの圧勝です。
「あたしの実力、わかってくれたかな?」
「はい、師匠」
起き上がったゲンキ君の顔はさっきまでのやんちゃな顔とは少し違っていました。
「え、師匠?」
「その強さを見込んでお願いします。俺たちの師匠になってください」
なんとあのゲンキ君が頭を下げて敬語を使っています。
「私もお願いします」
「僕もお願いします」
「お願いします」
ユーキちゃんやヨウキ君、サツキちゃんまでもお願いしています。
「よし、みんなまとめて面倒見ちゃる!」
トーカ師匠の言葉に子供たちはうれしそうです。これは図らずも計画が少し進みました。
「もちろん指揮官……サラも一緒にやってくれるよね?」
名前を言い直したことで信頼を、不安げな瞳でこちらを見つめることで断りづらさを与えられました。こんな高等テクをトーカさんはどこで覚えたのでしょう。
「え?・・・えっとー」
「当たり前だろ!オイノリーダーは俺たちの仲間だ。仲間外れになんかしないぜ!」
ゲンキ君、私はとても複雑な表情をしていると思います。理由が分かりますか?それはあなたの心ある一言のせいです。それは私の逃げ道をふさぐ最高の一言ですよ。
「えっと・・・お手柔らかにお願いします」
私は他の予定もあるのでと譲歩してもらった結果、朝だけ子供たちに付き合うことになりました。
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