第10話 結婚詐欺
そのあとも私はある時には畑仕事をするおじいちゃんおばあちゃんの肩叩き大会や青年会の人たちのサポート、婦人会の人たちへの感謝を込めたお菓子の贈り物などいろいろやりました。
そして、ひと月ほどの時間が経過したころ、ついに教会は完成しました。
「皆さん本当にありがとうございました」
私は完成した立派な教会の前で集まってくれた皆さんに改めてお礼を言います。
村の人からは祝福の声とともにささやかなパーティを行う予定でしたが幸太郎さんにちょっとタイミングをずらしてほしいと頼まれたので挨拶だけという形です。
「ごめんねサラさん。こっちの都合で完成記念パーティを先延ばしにしてしまって」
幸太郎さんから完成間近の時に結婚式の話は聞きました。エリーさん素晴らしい勘です。
「それは別に構いません。でも幸太郎さんのサプライズの件ですがエリーさんにばれてますよ」
「やっぱり……なんとなくそんな気はしてた」
少し残念そうな顔をする幸太郎さんですが、それにかまっている暇は私にはありません。
「それじゃあ私は他の皆さんと一緒に結婚式の準備があるのでこれで失礼します」
「ありがとう。まさかサラさんがこれを見越して準備をすでに始めていたことにも驚いたよ。村の皆を頼って準備してくれてるって聞いたときは村長としてもうれしかった」
幸太郎さんのニヤニヤ顔にだんだんムカついてきました。
「もう今日は帰ってエリーさんと明日のことでも話し合ってください段取りとかは全部エリーさんに話してありますから」
私は強引に幸太郎さんを家に帰しました。そのあと教会を婦人会の人たちやアリューさん、アニスさんと共に結婚式用に仕上げました。
準備の終わった夜、教会には私一人だけです。アリューさんにも今夜は洞窟に帰らないことを伝えてあります。
「クロムさん術式は完成しましたか?」
「はい、サラ様」
「そうですか……」
明日、私はこの村のすべての人を裏切る。お友達になった子供たちも、料理仲間のアニスさんもたくさん力仕事をしてくれた青年団の皆さんも、いろいろなことを教えてくれた婦人会の皆さんも、素敵な教会で結婚式を挙げる幸せな夫婦も。
「いやだなあ……」
ぽつりと弱い言葉が出てしまいました。
「サラ様、我もあなたの横でここの人間達を見てきました。正直、やりたくない気持ちもわかってしまいますが……」
「クロムさん……わたしは楽しかったみたいです。全部、全部、体験したことのない出会いでそれはとてもたのしかったん……です」
いままで抑えていた感情が漏れてきてしまいました。
「皆さんをだましながらでなければどれだけうれしかったかとか考えちゃうんですよ。もうばかです」
自嘲気味に言う。
「でも、最後に私が思い浮かべるのはいつもあの人なんですよ」
そう、あの人を裏切れない、あの人の期待にこたえなければならない。それは私が私であることを許してくれたせめてもの恩返しだから。
「だから私は天使として人間達へ神のご意志をお見せしましょう」
こうして私の中でこの一カ月に一つの区切りをつけたのだった。
式は滞りなく進行しました。参列した村の人たちもみな笑顔で新郎新婦を見ています。
バージンロードの上をまばゆい光を浴びながら歩く新婦、父親はいないようなのでエリーさんはダイモンさんを代わりにして新郎の元へとたどり着きました。
クーリングオフの魔法陣は既に作動しています。あらかじめ演出ですと言っておいたので先程のまばゆい光をごまかせました。残念ながら司祭さんはいないので私が聖書を朗読するらしいのですがそんなものはないので適当に考えた文章で時間を稼ぎます。
クロムさんがから準備完了の合図がきたので聖書朗読を終了。指輪の交換を行った後、
永遠の愛を誓っていただきましょう。
「新郎幸太郎さん、あなたはここにいるエリーさんを、
病める時も、健やかなる時も、
富める時も、貧しき時も、どのような状況に立たされようとも
妻として愛し、敬い、
慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
幸太郎さんがはっきりと答えます。
「新婦エリーさん、あなたはここにいる幸太郎さんを
病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、
どのような場所に飛ばされようとも夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
エリーさんからも言質取れました。ただエリーさんが私の言葉にくすりと笑っていたのが気になります。これで私は悪くありません。二人はいつもまでもどこに行っても幸せです。そう自分に言い聞かせる。
「では、誓いのキスを」
二人の口づけのタイミングでクーリングオフを発動しなければいけません。さあ早くクロムさんに合図を……なぜか私はそこから先へと進めない。二人の誓いのキスを見てこれを壊すことに躊躇いが生じました。
口づけを終えた二人がこちらを見ます。
「ダメだよサラさん」
幸太郎さんの声でした。その声は優しさを含んだものがありましす。
私はあわててクロムさんに合図を出しました。
先程よりも強い光に包まれる二人。こちらに笑顔を向けてきます。
「サラさん、とても素晴らしい結婚式をありがとうございます」
「サラちゃん、いろいろ大変だと思うけど頑張ってね」
二人の言葉はまるでこれから起こることを分かっている感じです。
光が収まると同時に二人の姿が教会から消えました。
「え?いまのはどういう……」
私は二人が消えた後、パーティの主役になりました。わたし、村長になるそうです。
なんでも幸太郎さんは村のすべての人に根回ししていたようです。自分たちは別の場所に行くことになる。しかし、アルリス様の信徒たるサラさんが必ずやこの村をいい方向へ導いてくださるとのこと。
アリューさんは私に教えてくれました。
最初に引っかかったのは天界の力の気配がいきなり現れたことそして、少し前から森にいた異世界召喚者の気配が消えていたこと。そこから現場に自ら趣、術式の痕の解析を行い私の目的に大体見当がついたらしいです。幸太郎さんが天界の術式の解析ができる時点で相当やべーです。
術式を解析した後幸太郎さんはある計画を思いつきます。教会を作って式を挙げさらにエリーさんと一緒に日本へと行きたかったそうです。
「こんちくしょおおおおおおおおおおおおおおです」
すべて彼の手のひらの上で踊らされました!最初から本人に言ってクーリングオフさせてもらえばいいだけだったじゃないですか。すごい遠回りをしました。村のことを誰かに任せたかったから遠回りをしたのですよね。彼の性格ならありえる。
はあ……私は村の皆に恨まれる覚悟をしていたというのにそれを跳ね飛ばしてしまいました。彼の計画のおかげで私は今、お祝いムードの中にいます。さすが異世界召喚者です。そこだけは感謝してあげなくもないです。私はこれからのことを考え少し頭を抱えつつ今はこの宴会を楽しみました。
天界の鏡は下界を映すことができる。その鏡を見てほくそ笑む女神の姿があった。
「もう少しかしら。予定とはちょっと違ったけど少しずつ近づいてるみたいね」
女神は愛おしそうにその姿を見つめていた。
「ああ、はやくあなたの――がみたい」
鏡に映る天使、サラの姿を見て彼女はつぶやく。
「そうね、そのためにもより困難に立ち向かってもらわなきゃ」
女神は下調べをはじめさっそく行動へと移すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます