第4話 初めてのファンメーセージ

翌日、朝一番に登校すると、真っ先に掲示板を確認した。


そこにハルノートが貼りだされてる様子は無かったので少しホッとする。

もしかして今日なら忘れ物として届いてるかも? 


僕はひそかな期待を抱きながら用務室に向かった。


「すいません!」


神様に祈るような気持ちで叫んでいた。


アースラがめんどうくさそうな顔をしながら奥から出てくる。


「朝っぱらから何? あら、また君?」

「すいません。ノート、やっぱり届いてませんか?」

「しようがないわねえ、どうだったかしら」


アースラはあからさまにめんどうくさいという仕草をしながら奥の棚へと向かった。


「あら、あったわ!」


アースラのびっくりしたような叫び声が聞こえた。


 ――え? 本当?


「そんなに大事なものだったらもう失くさないようにね」


アースラは呆れた顔をしながらも丁寧にハルノートを渡してくれた。この時のアースラは美しい女神に見えた。


どうやら昨日、僕が帰ったあとに届けられたようだ。


僕は溢れる喜びを隠せないままそれを抱きかかえて走り出し、そのまま屋上のペントハウスへ向かう。

この時間ならは屋上に生徒はいないはずだ。


まわりに誰もいないことを確認しながら恐る恐るページをめくる。

胸の高鳴りが激しくなる。


最後のページ。

僕の書いたヘタクソな文字のあとに、前と同じ丁寧な筆跡でまたメッセージが書かれていた。



『メッセージにお返事を書いてくれてありがとうございます。

とても嬉しかったです』



やった! やっぱり同じ人が拾ってくれたんだ。

の中でガッツポーズをする。



『小説を書くのをもう止めてしまうのですか? 私はもっとあなたの書いたお話を読みたいです。

人を感動させることができるなんて、こんな素敵なことはないと思います。

受験とかいろいろ大変だと思いますが、またあなたの物語が読める日を楽しみにしています。

追伸 このノートはそのまま屋上に置いておこうかとも思ったのですが、誰か他の人に見られるのが恥ずかしかったので用務室に届けてしまいました。勝手にごめんなさい』



文章からすると女の子のようだ


 ――と勝手に決めつける。


僕はこの人をペン子さんと名付けた。


ペンギンのイラストがあったから頭に浮かんだのだけだが、もっといいネーミングをしたかったが僕のボキャブラリーの限界だ。


僕はペン子さんが誰なのがどうしても知りたくなった。

ペン子さんに会いたくなった。


僕はハルノートにまた返事を書いた。



『ありがとうございます。よかったら今度、僕と会ってもらえませんか』



うわああ。こんなこと書いていいのだろうか? 

まるでラブレターのようだ。


よし。これをもう一度ペントハウスに置こう。

ペン子さんはこのノートを読んでくれるだろうか?



次の日の昼休み、僕は不安と期待を胸にハルノートを置きにペントハウスの外階段を駆け上がった。


給水塔への門に手を掛けると、ガシャン――といつもと違う音と手応えがした。


「え?」


門が開かない。

よく見ると壊れていた鍵が新しく付け替えられている。

僕は愕然とした。


アースラだ。

ここの鍵が壊れているのを知って直したんだ。

アースラがまた極悪の魔女に見えた。


なんてことだ。もうここにはもう入れない。


つまりハルノートを置くことができない。

ペン子さんにこのノートを渡すことができないじゃないか。


僕は茫然としながらうな垂れた。


でも僕はどうしてもペン子さんが誰なのか知りたかった。

会ってお礼が言いたかった。


あそこに生徒が入ることは授業の時間中にはまず無いと考える。

そうするとやはり昼休みか放課後だ。


ということは、ペン子さんはあの日、昼休みにあそこにいた生徒の誰かという可能性が高い。


あのペンギンのイラストが手がかりにならないか考える。

なぜペンギン? 

何も連想ができない。


しかし考えてみよう。

あのペントハウスの上にいるのはいつも決まった生徒メンバーだ。


男女ふたりずつの四人組と、いつも一人で本を読んでいる女子生徒。

僕の中の本命の女の子の麻生菜美だ。


僕は麻生さんがペン子さんのような気がしていた。

いや、そうであって欲しいとの願いだったかもしれない。


思い切って本人に聞いてみようか。いや、聞けるわけがない。

僕は大きく首を横に振った。

僕は女の子とまともに喋ったことがないのだ。


僕にとって女の子に声を掛けることはテストで満点をはるかに取るより難しいことだった。


悩みながら教室に戻ると、貼ってあった二月のカレンダーが目に入った。二月の二十九日の日付が目に留まる。


そうだ、今年はうるう年だった。


僕はハッとなる。


僕の小説の中ではうるう日の二月二十九日は神聖な日とされ、主人公がヒロインに告白する大切な日だった。

何か運命を感じずにはいられなかった。


やるしかない。


僕はこの日に麻生さんに告白することを決意した。








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