Cルーム⑤
『気づいたきっかけは彼と貴女の恋の思い出が合致していることでした。』
『勿論、偶然ということもあるでしょう。むしろ偶然の可能性が高いです。』
『同じような年齢の時に、同じような場所で恋に落ちた。』
『よく出来すぎている気もしますが、彼と貴女がかつて同じ恋をしていたと考えるよりはまだ納得できます。』
『ですが、キューピットという渾名と転校してきてからの貴女の行動を含めて考えれば話は別です。』
『キューピット。より正確にはクピードー。これはローマ神話に登場する愛の神の名前です。』
『彼は神話からではなく、アニメか漫画のキャラから取ったんじゃないかって仰っていました。ですが、キューピットなんて堅い名前を小学1年生がそのまま引用するとは考えにくいです。』
『子どもが見るような作品なら、それこそ彼が呼んでいたように『キュー』のようにアレンジしている方がキャッチーで子供向けです。』
『キューピットをそのまま用いている以上、キューピットの引用元はローマ神話に連なる意味、『恋のキューピット』からの引用であると考えます。』
『では、何故そんな渾名にしたのか。』
『理由は貴女の名前にある。』
『恋鐘愛。『恋愛』の2文字が貴女の名前にあります。』
『キューピットは其処に由来するのでは?』
『貴女は貴女の名前を強く意識していた。だからキューピットなんて渾名を自分でつけた。』
『愛を司る神であるキューピットの名を渾名にした。』
『そして転校してきてから行った恋愛相談の募集はそんな自身の渾名にあやかった償いなのではないでしょうか。』
『ずっと疑問に思っていました。どうして貴女がそんな逸脱行為に及んだのか。』
『普通は転校早々に突飛なことはしません。』
『でも、貴女はした。』
『突飛なことをする動機はやはり突飛な動機になるはずです。』
『その突飛な動機こそが10年近く前に貴女が手酷く振った飯田和治への償いなのではないでしょうか。』
『仮説どころか疑念で積み重なった推論ですが、しかしそう考えると貴女の不可解な行動に辻褄が合うのです』
『恋鐘愛さん。私の推論はあっていますか。』
『貴女が彼の初恋の人であり、彼を手酷く振った人なのですか。』
『恋鐘、俺だ、飯田だ』
『なぁ、本当にお前がキューなのか?』
『鹿苑の言うように、本当にお前がキュー、なのか?』
『また答えてくれないのか』
『また何も言わないで俺の前から消えるのか』
『キュー』
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