お互いをヒロインだと思っている2人
花座 緑
ゆっくん編
雑に言うと、転生した。
異世界ではなく、ラノベの世界に。
そして前世、俺の友達だったみんなは驚くことだろう。
俺には可愛い幼馴染がいるのだ!
「おはよう、ゆっくん」
「おはよう、雪穂」
頭脳明晰、料理上手、可愛い、このすべてを満たしている存在、それが今世の俺の幼馴染だ。
「雪穂、今日は俺がっ……ってうわっ」
「! 危ないっ」
派手にその場に転けてしまうのはいつものこと。
ついでに転けた先には雪穂の聖域。(今日は黒のレース、気合いの入っている日だ)
転倒と関係なく赤くなった頬を隠すようにいそいそと歩き出す。
俺には冴えない、並の頭、並の顔面というラノベの主人公補正をかけられている。完全にデバフだ。無念。
しかし先のようなラッキースケベという補正が付いているので悪くないと思っている。
「……あ、なつくんだ」
「おはよう! 雪穂、夕里」
雪穂の視線の先には、俺の友人である渚月の姿。
クラスでは一つ前の席に陣取るコイツは、運動神経抜群のクラスの中心的な奴で、腐れ縁で無ければとっくに俺なんかの友達は辞めてるような奴だ。
「あ! 夕里!」
「おはよう、ユリ」
多分現実世界には有り得ないであろう艶々としたツインテールを揺らしながら駆け寄ってくるコイツとは、名前の音が似ているとかなんとかで一悶着があり、色々あって仲良くなった女の子の一人である。
「ユリちゃんおはよう、ねぇ、今日の課題なんだけど……」
「あぁ、あれね……えっと……」
雪穂はユリと仲がいいようで、よくこうなると一緒に話していることが多いように思える。
俺は雪穂がヒロインポジションなのだろうと思っているだけに、こうまで進展がないと少し不安になるものだ。
「夕里、昨日雪穂ちゃんの飯食ったんだって?」
「あ? 誰から聞いたんだよ渚月」
「雪穂ちゃんからだけど」
そう言って雪穂を見る渚月に、雪穂は満面の笑みで対応する。可愛い。
雪穂を見つめていると、雪穂は不思議そうな顔をした後に、何か納得したように、にっこりと笑いかけてくれた。
これが俺のヒロイン。
どうだ前世の友人たちよ。可愛いだろう。
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