六、ダウト・イン・ザ・オール

 昨日の夜―――


 理科室の前で立ち止まった奏多を、訝しぶむ視線を送っていた。

 腕を頭に回し、気楽な体制になった京介は扉を開こうとし、奏多が静止する。

 

 「なんすか?先輩」


 「ゾンビがいきなり現れたら怖いだろーが!ちゃんと考えて行動しろ」


 「でも唸り声とかは聞こえないっすよね」


 「夜だからな。まだゾンビの性質が解明していない今は、常に慎重に行動した方がいいだろ」


 「それもそうっすねぇ」


 扉を数センチ刻みで開けていく。焦ったく思いながらも、死ぬよりはマシだと自分に言い聞かせる。

 

 「待った……。さっき赤い点滅がしなかったか?」


 扉の上部の吹き抜けを指差す。

 

 「そこまで見てないっすよっむぐ!」


 「静かに。一応大きな声は禁止だ。後、逃げる用意もしておけよ」


 「オッケーっす」


 ガラガラと立て付けの悪い扉を一気に開くと、何も無い散らかっただけの質素な理科室が広がっていた。

 ガラスも飛び散り、机も壊され散々な教室だ。


 「今のところは無事っすかね」


 「ちょっと耳貸せ……」


 京介と対になるよう、交互にすれ違い様に囁く。


 「防犯カメラがある。さっきの赤い点滅はカメラが起動した合図だ。これで合点がいった……」


 「な、何がっすか?」









 「あの二人は俺達に人を殺させた罪を課そうとしていやがる」


 「……っ⁉︎」


 動揺が隠せず、後方に後ずさる。


 「まぁ落ち着け。人間を殺したわけじゃねーよ。ゾンビを殺した。元は人間だったゾンビをな」


 「なんでそんなことを……」


 「大方、罪を俺たちに被らせて、罪悪感を晴らそうとしたんじゃねーかな」


 「……どうして、怒ってるっすか……?」


 「……罪をなすりつけるのは大いにわかる。確かに俺もゾンビを殺して、罪悪感がないと言われれば嘘になる。でもな、それに対して柚月を利用したことが何より許せねーんだよ」


 「…………」


 思わず沈黙し、暗い空気が辺りを漂う。

 電球も点滅が激しくなり、今にも消えそうになっている。


 「で、でも、防犯カメラだけじゃ分からなく無いっすか?」


 「いいや、合点がいったって言ったろ。防犯カメラは放送室で管理されているんだ。で、理科室で殺したとしたら、俺たちをここに案内し、俺たちに罪を被せる。そして、あいつらは放送室で今晩は寝泊まり。絶対に何かあるって裏付けているようなもんだろ」


 横目で確認すると、血がべったりと張り詰めた床が出迎えていることに気付く。京介は目を擦り、確かに血溜まりがあるのを再確認する。

 確信めいたようににやりと奏多は笑い、防犯カメラを一瞥した。


 「嵌められたって……いったい……!」


 「しー……。ここからがあいつらを反省させる為の作戦だ……」


 それから実行される夜の殺人ーーー



**********



 「なんで生きているんですか……」


 一通り説明した後、そんな疑問を投げつけられた。

 

 「そもそも死んでねーからな。あの時は、俺が殺すフリをしてお前らを黙らせた」


 「説明の説明では分からないわよ」


 「つまり要約するとこうだ。理科室でお前らはゾンビを殺し、その罪悪感を俺らに押し付けようと行動した。本当に迷惑極まりない話だな」


 「なんで、ゾンビを殺したと?」


 やはり、ゾンビを殺したと違和感を持つ詩羽が問いかける。

 

 「ゾンビ以外ありえんだろ。お前らが本当に人間殺したとしたら絶対に病むよ」


 「理科室には血がこべりついた痕があったっす。ゾンビは純粋な血じゃなくて、ちょっと濁った黒い血なんすよ」


 「……そこまでは分かりました。続きを述べてください……」


 「部長っ……⁉︎」


 明らかに動揺を隠さずにいる詩羽が呼び掛けるが、奏多だけを見た凪は振り向きもしない。


 「理科室に寝泊りさせたのは俺たちを罠にはめる為だから、防犯カメラで常に監視して、隙を見つけたら訴えようとしたんだろ。罪滅ぼしでな」


 「……はぁ……奏多ってなんでそんなことには頭が回るの……」


 「うるせぇな。ま、だからお前らを黙らせたんだけど。俺の迫真の演技は決起迫ってたろ?京介も刺されたフリでいい演技だったぜ」


 にやっと逆に罠に嵌めたという快感に笑みが溢れる。


 「流石に私も驚きましたよ。奏多があんなことをするなんて」


 「防犯カメラでは死角になるところで包丁を刺すフリをし、ゾンビの血がついた床に倒れてもらったんだ。カメラでは全体的に暗く見えるから人間の血とゾンビの血が分からなかったみたいだがな」


 「汚かったっすよ……」


 「悪いな。汚れ役を買ってくれないと、後々差し支える問題が発生するからな」


 「それは……?」


 「名付けて、ゾンビ来ちゃったぜテヘペロ大作戦。まぁ、陽動みたいなもんだ。だから、俺が後ろのベランダから入ってきても分からないだろ?」


 「それ、奏多じゃなくてもいいんじゃ……」


 「う……っと……これが俺たちの推理だが、どうだ?合ってるか?」


 「はぁ……つまり、柚月を利用したことが気に食わなかったから私たちを逆に罠に嵌めたのね」


 「正気ではない愛情ですね」


 「そうっすね」


 「お前は味方じゃねーの⁉︎」


 驚愕の色が現れるが、存分に罠に嵌めたことでご満悦の様子だ。

 しかし、


 「まだ、わからないことがあります。何故、ゾンビの音声が入ったカセットを持っているのですか?」

 

 「まぁ、ここからが、柚月を助け出せるかもしれねぇ話だ……」


 





 

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