神々との契約者

黒豆もやし

第1話

「ハァッ、ハァッ」

「どうするんだ!?これ、マズくねえか!?何だよ、あんな奴いままで出てこなかったじゃねえか!」

「私だってわかんないわよ!」

「ハァッ…!ふ、二人とも、このままだと、ハァッ、追いつかれるッ」

「そんな…でもっ、まだ出口は先よ!?」

「やっぱり、戦うしか…ねえのか?」


今日もいつも通りダンジョンに行っていた俺達は、突如として現れた怪物から逃げていた。事の経緯はというと、遡ること数分前―――


「よッしゃぁ!ズー討伐成功だぜ!」

「ちょっと、あんまり浮かれすぎないでよね。素材回収して帰るまでがクエストよ」

「まあまあ、あんな強敵を倒したんだ。ちょっとくらいは、な?」

「もう、アスターは甘いのよ」

「そうかな?」

「そうなの!」


中堅の冒険者でも苦戦を強いられるような強力な魔物の『ズー』を自分達で仕留めたんだ。嬉しくないわけが無い。かく言う俺もきっと、ラルクがあんなに喜んでなかったら自分が舞い上がっていたはずだ。


ズーは、巨大な鳥のような魔物で、羽を飛ばした攻撃や、口から火球を出したり、雷を起こしたり、鋭く強靭な嘴や脚の爪で攻撃してきた。なにせ体が大きいだけにそのどれもが凄まじい威力だったが、タンクであるラルクが確実にヘイトを買って受け止めていた。

アレイダは華麗な動きで相手を翻弄し、相手の攻撃方法を一つずつ、確実に潰していった。


そんな輝かしい活躍をしている二人と相反して俺は、こういってはなんだが、地味に少しラルク達に補助魔法を送りつつ、地味に少し妨害魔法や唯一四大元素で適性のある風魔法でズーにちくちく攻撃していた。もちろん仲間を支援したり敵を妨害するのは大切なことなのだが、俺は生まれつき魔力が少なく、その効果は微々たる物なのだ。では何故剣士などをやらないのか、と問われると、〈圧倒的に才能がなかったから〉に尽きる。そのため、まだ使える魔法を使っているのだが、どれだけ訓練しても魔力が伸びる気配がいっこうに無いのだ。


最初のころはよかった。まだ敵も弱く、補助も妨害も牽制も、上手く回っていた。だが敵が強くなっていくにつれ、当然だが、仲間も強くなる。そうなるにつれて俺の魔法の効力は小さくなっていった。

その中で俺は何一つ変わらなかった。追いていかれまいと必死に工夫して訓練したが、何も変わらず。自分の無能さに嫌気がさして、一度はチームを抜けようともしたし、笑われもした。『お前は金魚についてるフンのようだ』なんて言われた日にはかなりショックを受けた。その通りと自分でもわかっているからこそ尚更に。


二人は「そんなことない。助かってる」と言ってくれるが、その優しい言葉も俺にとってはとても辛かった。そして、そんな状況も長くは続かない事を今回の戦闘でよりはっきりと自覚できた。そう。明らかにこのチームに俺は不要、むしろ邪魔だった。だが実はクエストを発注したときから既にこの討伐を最後に俺は冒険者をすっぱりやめようと思っていて、有り金叩いて買った二人への贈り物もある。強力な魔物のズー討伐なんて、なかなかいい最後ではないだろうか?贅沢すぎるくらいだ。


「ぃよし、じゃあ討伐証明部位と素材剥ぎ取るかぁ!」

「勢い余って素材傷つけないでよ?」

「安心しろって!完璧な剥ぎ取りしてやっからよ」

「ラルクは大雑把だからなぁ、丁寧にやれよ?」

「アスターまでそんなこと言うなよぉ…」


情けない声を出すラルクに、つい笑ってしまう。一応他の魔物が来ないかチェックしながら二人剥ぎ取り一人見張りという風にやってるので急襲はされないようにしているが、各員、警戒は怠らない。ダンジョンは何が起こるかわからない。慣れてすべてをわかった気になっていると大失敗するのだ。


―――ふと、視線を感じ、後ろを見るがそこにあったのは通路だけ。それが妙に不気味で、事前に決めておいた警戒の合図、舌打ちを二回して一応知らせておく。俺の緊張が伝わったのか二人とも話すのをやめて黙々と剥ぎ取りをしていた。


―――やはり、視線を感じる。


人の視線ではない。だとしたら魔物しかいないが、視線以外何の気配も感じない。言い得も知れず恐怖を感じ、少し後ずさると、二人もその異様な雰囲気を感じとったようで、剥ぎ取りをやめて立ち上がっていた。緊張からか呼吸の音も聞こえてしまっている。



―――違和感。



アレイダを見ても、ラルクを見ても、どちらからも音は聞こえない。ならば自分かとも思ったが……違う。であれば、誰が……?





―――俺の顔に、生暖かい、息が、当たって…………





振り返らずともわかった。いや、振り返ってはいけないのかもしれない。だが、俺達が取るべき、取らなければいけない行動はただ一つ。


「―――逃げろぉぉぉぉお!」


俺は大声をあげ、走り出すと同時にマジックポーチから煙玉を出し、地面にたたき付ける。辺りに煙が漂う。念のため持っていた煙玉だったが少しでも時間稼ぎになってくれよ…ッ!


「qrrrrrrrrrruuuuuu!!」

「ひぃぇ気持ち悪っ!?」

「どんな!?」

「目がなくて、のっぺりしてる、ド、ドラゴン?」

「オーラは!?」

「俺から見て黒だ!」

「ラルクから見てそうってことは当然だけど私もアスターも黒ね。ひとまず出口へ走るわよ!」


ドラゴンなんて上位の冒険者達が相手をする強敵だ。せいぜいが上位の中では最下位レベルの俺達に敵うわけはない。俺がいてもいなくてもこれに関しては変わらないと思う。勇気と無謀を履き違えるな。散々ギルドと言われてきた事だ。あわよくばこのまま逃げ切りたい所だがそう上手く事が運ぶといいなと、心から思う。


そうして今に至るわけだが、少なくとも今の俺達よりは強いことはわかっている。なぜなら奴の周りには黒いオーラが流れている。オーラというのは魔物と自分の強さを比較する物差しのような物で、緑、黄、赤、黒、とあり、察しはつくと思うが黒は一番強い。そして黒ということは自分より何倍以上も格上の相手ということを指す。


アレイダもラルクも俺より数倍強くて、でも同じ村で育った仲間だからっていう理由だけで役立たずの俺を無条件にチームに入れてくれている。二人ならいくらでも強豪チームを作れたはずなのに、だ。

彼らは、こんな所で終わっていい人間じゃない。俺は―――


「俺に、いい考えがあるんだ。アレイダもラルクも聞いてくれるかい?」

「えぇ、話してみてくれる?私たちにできることなら何だってやるわ」

「おうともさ!俺とお前の仲だろ?」

「ありがとう。所で二人とも、俺はこのクエストが終わったら冒険者をやめようと思っていてね?二人にプレゼントがあるんだ。メインの品は冒険終わったら渡そうと思って家に置いてきたんだけど、サブの方は持ってきてあるんだ」

「ちょっと待って、いきなりなんの話?」

「もしかしたらこんな事も起きてしまうかなぁと思って買ってきたものだったんだけど、参ったな。こんなに早く起きるとは思ってなかったよ」

「………おい、アスター?お前、まさかとは思うが」

「ここに帰還石が二つある。これでギルドに戻ってあのモンスターの事を知らせてくれ。きっと、俺の最後の願いだ」




決断した。

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